「ベルナルドは狩りに出た、とある闇夜のことだった、犬や猟犬打ち連れて、ラバを率いるかたわらに……」「ご機嫌だな、ベルナルド」「おう、悪いか」「悪いなんて言ってないさ。……『ベルナルド・エル・カルピオのロマンセ』だろ、それ」「さすがによくご存知だな、マエストロ・カレータ」「やめろ、気持ち悪い」「気持ち悪いとはなんだ、人が珍しく素直に褒めとるのに」「父の復讐を誓う悲劇の英雄ベルナルド・エル・カルピオ。……あんたには似合わないよ、マエストロ・ベルナルド・ラビノ」「なんだ、お返しか?」二人の男の笑い声が、夜明けのバルに響いた。むろん、ほかに人の姿はない。店の鍵は、カウンターの片隅にある。なまじのマフィア顔負けの体格と強面の親爺と、小柄で声のよく透る東洋人。親爺のほうは国際的な作曲家ベルナルド・ラビノ、東洋人のほうはその友人でフラメンコ歌手の入江豊、通称カレータ。そして二人の手には、シェリー酒のグラス。「まあ、飲もうよ。せっかくエンリケがボトルを置いていってくれたんだし。今日はあんたのお祝いなんだから」カレータはベルナルドのグラスに酒をつぐ。ベルナルドの気のよい義弟は、店の鍵と一緒に数本、とっておきの酒壜を置いていってくれてあった。ベルナルドも逆らわず、嬉々としてグラスを空にする。正直、酒の三分の二はベルナルドの胃に収まろうとしていた。だが無理もないな、とカレータは思う。ベルナルドに、とほうもないオファーが舞い込んだのだ。依頼主は、どうも異国の貴族か王候か、少なくとも並の身分の人物ではないことは明らかだった。その証しだてに、すでにベルナルドのもとに、宝石をあしらった依頼状が届けられていた。その宝石は、ふしぎだった。見る人ごとに、色も形も違うのだ。ベルナルドには、漆黒の円形のオニキスに見えた。カレータには、亀甲型の茶水晶に見えていた。だが内容は同じ。「我が王宮の行進曲を作曲されたし」。
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これは素敵な物語が始まりましたね!今までの新・指先のおとぎ話シリーズも詩的でファンタジーに溢れていました。連載、どうぞゆっくりと少しづつ進んでいくのを楽しみにしています
コメントありがとうございます‼
今ごろのお返事すみません……!m(_ _)m
今度こそ流れを途切らせまいと、心機一転テイストも変えて始めたはずが、いきなり滞りまして……(;>_<;)そろそろ復調しますので、どうぞよろしくお願いいたします‼m(_ _)m