初めの幾フレーズかは、ひどく静かだった。まるで店を包む夜気さながら、エストはゆっくりと舞う。ほとんど動かないように見えるが、軽く握られた両の手が、心のうちの緊張をそっと明かす。
今、踊りを彩るのは低く歌うギターのみ。フアンはエストから目を離すことなく、じっと時を待つ。
やがてギターの調子が変わる。気持ちの昂りを思わせるように、ラスゲアード(かき鳴らし)が盛り上がっていく。
それにつれて、エストが動いた。ギターとぴたりと調子を合わせた足さばき。動きが高まるにつれて、衣裳の裾が揺れる。
観客は思わず息を呑む。彼らはそこに、星にも似た輝きを見る。控え目の照明のもとでも、エストの瞳はきらきらとした輝きを帯びていた。
「……まるで、星の瞳だ……」
嘆息がてら思わず漏らしたのは、店主のミゲリートだったかもしれない。
エストは両腕を徐々に挙げていく。ナチョのギターと息を揃えて。やがて頭の上で、腕をすっと交錯させた──
「地獄……!」
裂帛の間合いで、フアンの歌が飛び込む。人々は後ろから拳でも浴びたように、フアンに目を向ける。
「お前が行くという地獄に
おれも一緒に行かねばならぬ……」
古い歌を、フアンは歌っていた。
そして人々は見る。エストの新たな変化を。エストは固く目を閉じていた。動きは決して停めていない。背後から聴こえるギターとカンテを、全身で受け止めているのが、明らかだった。
「地獄とは……」
十字を切る信心深い客がいる。
「おまえと一緒に行かねばならぬ……」
フアンの歌は続いていた。
今、踊りを彩るのは低く歌うギターのみ。フアンはエストから目を離すことなく、じっと時を待つ。
やがてギターの調子が変わる。気持ちの昂りを思わせるように、ラスゲアード(かき鳴らし)が盛り上がっていく。
それにつれて、エストが動いた。ギターとぴたりと調子を合わせた足さばき。動きが高まるにつれて、衣裳の裾が揺れる。
観客は思わず息を呑む。彼らはそこに、星にも似た輝きを見る。控え目の照明のもとでも、エストの瞳はきらきらとした輝きを帯びていた。
「……まるで、星の瞳だ……」
嘆息がてら思わず漏らしたのは、店主のミゲリートだったかもしれない。
エストは両腕を徐々に挙げていく。ナチョのギターと息を揃えて。やがて頭の上で、腕をすっと交錯させた──
「地獄……!」
裂帛の間合いで、フアンの歌が飛び込む。人々は後ろから拳でも浴びたように、フアンに目を向ける。
「お前が行くという地獄に
おれも一緒に行かねばならぬ……」
古い歌を、フアンは歌っていた。
そして人々は見る。エストの新たな変化を。エストは固く目を閉じていた。動きは決して停めていない。背後から聴こえるギターとカンテを、全身で受け止めているのが、明らかだった。
「地獄とは……」
十字を切る信心深い客がいる。
「おまえと一緒に行かねばならぬ……」
フアンの歌は続いていた。