SNファンタジック日報

フラメンコと音楽をテーマにファンタジーを書きつづる新渡 春(にいど・しゅん)の、あるいはファンタジックな日々の報告。

新・指先のおとぎ話『バラに風吹く』

2017-05-26 11:42:04 | 書いた話
そのバラの木には幾輪もの花が咲いていた。色の濃い淡いはあるものの、海を染めて昇る朝日のような色をした花々は、時として花びらに小さな露の玉を光らせて、見るものの心を優しく癒すのだった。けれどその中に一輪だけ、ほかの花と違った心持ちの花があった。確かにその花びらはひときわ色あざやかで大ぶりで、人目を惹いた。そのバラみずからも、いつしか己の美しさに溺れるようになっていった。あるとき一陣の風が、バラの木のかたわらを過ぎた。バラたちはいっせいに身を屈めたが、あの大ぶりなバラだけは風をよけるどころか、むしろ己の存在を見せつけるかのように、風に向かって傲然と身をひるがえしてみせた。風は瞬時、バラの前で止まったかに見えた。「大いに夢見てバラの木のバラが……」高らかな調べに乗ってバラと風とが踊るかに見えたかの、次の刹那。風が牙をむいた。ごう、というひと吹き──風が去ったとき、高慢なバラの花は散り果てていた。
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