男女双方の声──先の水神の想いは、天宮に召還された遠い日の記憶へと迷い込む。「息吹(イブ)……殿?」その名には、聞き覚えがあった。地帝が得たという双子、その片方が息吹という名前だったはずだ。それだけで覚えていたわけではない。双子のもう一方が、確か今際(イマワ)といった。息吹と、今際。始まりと終わりが対になったようだ、と、印象に残っていたのだ。「左様。その息吹殿を、そなたに嫁がせたいとの話が来ておる」天帝じきじきの呼び出しとあれば、それはもはや下命だった。水神の位に就いて三百年ばかり、そろそろ妻を迎えてもよい頃合いではあった。「よきように」短い返事で、事は決まった。天帝は満足げに言った。「水神としてのそなたの才は際立っておる。地帝の婿となれば、天地をつなぐ神としての役割も期されよう。よろしく頼む」「御意」涼やかに水神は笑った。立身に関心はなかったが、せっかくの賛辞を無下にすることもあるまい。
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