側仕えの山吹が水神に伝えた、山神・息吹(イブ)の深い、けれど秘められた想い。水神には告げられることなく、それでも、門外不出のその唄を聴き覚えるほどに一途で健気だった想い。水神は息吹のたおやかな姿を心に描いた。そして、彼女が想いの丈を込めて水神に託した朝露の名残りを身の奥に感じたとき、水神は、自分の中に、これまでに味わったことのない感覚がひたひたと充ちてくるのをおぼえた。我が身が我が身でありながら、我が身でなくなるような……。ひきつったように、山吹が目を見開いた。一度、二度、大きく喘ぐように息を呑む。「……山吹、殿?」自らが発した声に水神が驚いたのと、「姫さま……!」山吹が声を振り絞るのとは、ほぼ同時であった。そのまま山吹は、はらはらと涙をこぼしながら、ひと足、またひと足、水神に歩み寄る。「これはいったい……」そう問いかけて、水神もあらためて気づく。自分の声が、息吹のそれになっていることに。
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