高だかとそびえる氷壁は、透き通った北の海を見下ろして、長い航海に出てゆく船を見送っていた。これまでに何艘の船が、この氷壁のかたわらを過ぎていったことか。そして今の季節になると、そうした船と張り合いたがる氷山が海にあらわれる。中には、つまらぬ見栄で海に消えた者もいた。太陽神が春の息吹きを送って寄越すこの季節、つい自らの力を見せつけたくなるのもわからなくはないが……「力じまんは身のおわり、か」氷壁から洩れた呟きを、耳にしたのは行きずりの風。「珍しく感傷的ですね?」風の問いかけに、氷壁から声が返った。「昔、そう書いた作家がいたのさ。今は大丈夫、“大地の門”があるからね」そのとき、かつて氷壁のもとを旅立った船団が到達した、西の海辺を護る大門のそばで、春を告げる高らかな踊りの調べが鳴りわたった。まさに『大地の門』と題されたその調べは、あらゆる災いを打ちはらうように、世の果てまでも豊かに響いていった。
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