──お待ちあそばしませ。水神に声をかけたのは、息吹姫のかたわらに影のように付きしたがっていた女性だった。年かっこうからして、女官長といったところだろうか。息吹は驚いたように、その女性に視線を向けた。「申し訳ございません、姫さま」女性は目を伏せる。「つい差し出た振舞いをいたしました」そう言いながらも、ふたたび女性は水神に向き直る。「水神のきみには遠路のお越し、篤く御礼申し上げます。ですがご覧の通り姫さまは、お加減がすぐれませぬ。せっかくのお成りではございますが──」「よい」今度は息吹が、口をはさむ番だった。「姫さま」息吹は相変わらず消え入りそうな、けれど芯の強さを湛えたまなざしを女性に据える。「──山吹」「はい」「そなたの気持ちは嬉しい。でも、わたくしは今宵、水神さまに嫁ぐと決めたのです。どうか理解しておくれ」それは決然とした一言だった。山吹と呼ばれた女性も、もはや口をつぐむしかなかった。
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