SNファンタジック日報

フラメンコと音楽をテーマにファンタジーを書きつづる新渡 春(にいど・しゅん)の、あるいはファンタジックな日々の報告。

350字の神話6・双子の虹

2010-10-24 15:03:13 | 書いた話
三五〇字の神話 6 『双子の虹』

「わあ、虹だ!」「見て、二重になってる」「本当だ、すごーい」「きれいー」校庭にいた子どもたちは、空を眺めて、大騒ぎになった。校舎の中から顔を出す子どももいる。止めようとした先生も、「あら、きれいね」と思わずみとれてしまうほど、みごとな二重の虹だった。「ねえねえ、あの虹、歌ってるみたい」「うんうん、なんか、音楽が聴こえてくるよ」「すてきな音色だね!」その声が天上まで聞こえたように、実りの神が人の好さそうな顔をさらにほころばせる。「おふたりさん、今日は大サービスだねえ」美しい双子の虹の女神が、手にした竪琴をかき鳴らしながら優しく微笑む。「今日はわたくしたちのお誕生日ですもの」「うれしくなってつい」「それはお祝いしなくちゃな。わしのベーコンを届けるよ」「それは最高ね」ふたりは、花のようにわらった。
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350字の神話5・秋の実り

2010-10-18 12:18:14 | 書いた話
三五〇字の神話 5 『秋の実り』

「実りの神ったら、またあの男の子見てる」若い雨の女神に言われ、実りの神は人の好さそうな禿げ頭を撫でた。「わしの自由だろうよ」「はいはーい。どうせ無関係ですよお」「ま、ふくれるな。ほら、わしの特製ベーコン」実りの神の自慢の品に、雨の女神はたちまち笑顔になる。「で? なんであの人間の子が気になるの?」実りの神の顔が引き締まる。「あいつ、2年前わしのせいで母親を亡くしたんだ」その年の秋は暑かった。実りの神も、すべての畑には気が回らなかった。少年の母は、枯れた畑に水をやろうと遠くの沢に水汲みに行き、足を滑らせたのだ。「なのに、あいつ一言も天を責めず、一生懸命働いてんだ。だから、さ」雨の女神はベーコンをもう一切れつまむ。「だから実りの神の作るものは優しい味なのね」実りの神は無言で、つるりと頭を撫でた。
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350字の神話4・昼顔

2010-10-10 15:03:47 | 書いた話
三五〇字の神話 4 『昼顔』

「だめよお、昼顔摘んだら」「え?」男の子はきょとんとして、自分の手をおさえたきゃしゃな手の持ち主を見上げた。こんなおねえちゃん、近所にいたっけ。制服みたいなの着てるけど、なんかコスプレぽいなあ。大きな目で、そんなに睨まなくたっていいじゃん。「だめなのよお、昼顔摘んだら」「なんでだよ」「雨、降っちゃうんだからあ。あしたの運動会、中止になっちゃうわよ」「……」男の子は、摘みかけの昼顔から手を放した。そんなに欲しい花でもないし、いいや。「いい子ね。そしたら、あしたは雨降らさないであげよっと」男の子が振り向いたとき、もう見知らぬ彼女の姿はなかった。ほどなく天宮に戻った若い雨の女神は、くすくす笑いながら雨の袋の口をしっかり締めた。「なんで神さまが人間にことわざ教えてんのよお。イヤんなっちゃう、ホント」
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350字の神話3・流れ星

2010-10-05 09:59:19 | 書いた話
三五〇字の神話 3 『流れ星』

「あっ、流れ星」若い娘が見上げたほうを連れの男も懸命に眺めたが、その星の姿はもうとらえることができなかった。「惜しいな、見逃した。それで、願いごとは言えたの?」「無理よ。3回なんて言えないもの」「だよね」「意地悪よね、流れ星って。もうちょっとゆっくり流れてくれればいいのに」「まあまあ」男がなだめ、そのまま二人は、夜道を辿っていった。たまたまその会話を聞きつけた風神が、ふわりと空へ昇る。目指す先に、沢山の流れ星を両手に携えた女神の姿があった。「流れ星って意地悪だ、と言われてますよ、姉上」「ふうん」「どう、たまにはもう少しゆっくり流してあげたら?」「残念ね。わたしの性には合わないわ」言いながら女神はまた幾つも星を空へ流す。だがその速度がいつもよりゆるやかなのに風神は気づき、口の端で小さく笑った。
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