SNファンタジック日報

フラメンコと音楽をテーマにファンタジーを書きつづる新渡 春(にいど・しゅん)の、あるいはファンタジックな日々の報告。

新渡定型詩2024

2024-08-29 14:19:07 | 書いた話
想い出

祖父母ちちははの
言の葉のあまた
指繰りたどれば
想い出はあらた

優しき童話に
響きよき詩歌
あたたかき手紙
往時へ誘うか

吾れまた綴らん
おのれの言葉を
この身に継ぎたる
想いのかけらを


──祖父母ちちははに





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新渡定型詩2024

2024-04-17 18:08:27 | 書いた話
ロマンセ

はるかいにしえの
騎士のものがたり
たくらみによりて
父を奪われり

そを踊りたるは
気鋭の踊り手
紅きパニュエロに
想いを託して

洋の東西を
超えてつながりし
ふたつの魂
光りてあれかし


──小谷野宏司に





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新渡定型詩2024

2024-04-03 18:03:20 | 書いた話
ヒターナ・ハポネサ

ヒターナ・ハポネサ
かくも呼ばれたる
瞳は漆黒
きらり輝ける

すべてを見透かす
笑みをば浮かべて
その最奥には
慈愛を隠して

夫の声だけ
聞き分ける耳よ
天与の踊りの
無二なる光よ


──佐藤佑子に

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竜の唄を継ぐもの 第13話(最終回)

2023-10-11 04:14:52 | 書いた話
「唄いぶりが、少し変わりましたな」「以前より、お声がやさしくなられた。けれど、かつて以上の芯の強さも感じます」そうした声が水神の耳に届きはじめたのは、息吹(イブ)のいた竜神の宮を辞してしばらくのちのことだった。水神は何の言い訳もしなかったが、そのたびに、そっと囁くのだった。「……だそうだ、息吹」いつしか水神は、息吹を敬称で呼ぶのをやめていた。おのれのなかに宿った息吹は、すでに自らの一部なのだから。水神の歌がやさしく強くなったとすれば、それは、息吹の歌が呼び覚ましたものにほかならない。いつしか気づけば水神は、みずからの意志で、息吹の姿と声をまとえるようになっていた。すなわち、「男女双方の声をあやつる、稀なる水神」の誕生であった。息吹の姿に変わるとき、しばらくは胸の高鳴りを感じたものだった。それはかつて水神にひそかに寄せられた、息吹の想いの名残かもしれなかった。けれど、朝の露が日の光に乾くように、その高鳴りもやがて、静かに深く、水神の中に吸い込まれていった。そして先代の水神となったいまも、折にふれてかれは唄うのだ。流れゆく水の唄と、やさしい山の竜の唄を。(了)
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竜の唄を継ぐもの 第12話

2023-08-15 19:00:01 | 書いた話
みずからの声が、山神・息吹(イブ)の声になっている。水神の驚きは、それだけに留まらなかった。側仕えの山吹の涙にほだされるまでもない。己の変化に、気づかないわけにはいられなかった。変わったのは、声だけではなかった。姿もまた、ひともとの青柳さながら、優しくたおやかな、息吹そのひとの姿になっていたのだから。「いったい何が……」水神は呟いた──息吹の、声で。心は、水神のままであるというのに。“わたくしを、その身にお納めくださいませ。”──息吹の言葉が、水神の胸によみがえる。水神は、愕然と我が身をかえりみた。息吹の声、息吹の姿。息吹が己の枝に宿した朝の露──それを、水神は飲んだ。その朝露に息吹が託したものは──息吹に残されたいのち、息吹の魂、水神への想いそのものであったのだ。いま、水神はあらためてそのことを知った。「……わかった、息吹殿」水神は言った。元の己の声で。「ともに生きよう。そして、唄おう」
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竜の唄を継ぐもの 第11話

2023-04-04 15:24:03 | 書いた話
側仕えの山吹が水神に伝えた、山神・息吹(イブ)の深い、けれど秘められた想い。水神には告げられることなく、それでも、門外不出のその唄を聴き覚えるほどに一途で健気だった想い。水神は息吹のたおやかな姿を心に描いた。そして、彼女が想いの丈を込めて水神に託した朝露の名残りを身の奥に感じたとき、水神は、自分の中に、これまでに味わったことのない感覚がひたひたと充ちてくるのをおぼえた。我が身が我が身でありながら、我が身でなくなるような……。ひきつったように、山吹が目を見開いた。一度、二度、大きく喘ぐように息を呑む。「……山吹、殿?」自らが発した声に水神が驚いたのと、「姫さま……!」山吹が声を振り絞るのとは、ほぼ同時であった。そのまま山吹は、はらはらと涙をこぼしながら、ひと足、またひと足、水神に歩み寄る。「これはいったい……」そう問いかけて、水神もあらためて気づく。自分の声が、息吹のそれになっていることに。
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竜の唄を継ぐもの 第10話

2023-01-17 17:25:02 | 書いた話
「姫さまは」水神の帰り支度を始めながら、山吹がぽつりと口をひらいた。けれどその目は水神にではなく、その傍らの華奢な柳に注がれたままであった。女あるじである息吹(イブ)が人の身でなくなっても、どこまでも側仕えの仕事を全うしようとしている健気さに、水神は胸を打たれた。水神の沈黙を、気遣いと取ったのだろう。意を決したように、山吹は言葉を継いだ。「姫さまは、水神の君のお歌が大好きでございました。水神の君がお近くを通られるたび、耳さとく聴きつけてはご一緒に口ずさんでおられました」「……」水神はひそかに驚いた。水神はその歌をもて水を治める──修行を積んで覚えた歌の数かずを、山神とはいいながら、聴いただけで覚えられるだろうか。「……それほどまでに、お慕いしていたのです、姫さまは」水神の心を読んだかのように、山吹。「お会いしたこともない、水神の君のことを」そのとき、何かを言いたげに、柳の枝がそっと揺れた。
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竜の唄を継ぐもの 第9話

2022-12-02 17:39:11 | 書いた話
「わたくしの本性は、弟・今際(イマワ)とともに山を護ります山の竜。ですが、本体はひともとの柳でございます。その枝に宿る朝の露、そこにわたくしの残るいのちをすべて注ぎます。どうぞその露をお飲みくださいませ」純白の山椿のようだった息吹(イブ)の姿は、山吹が涙にくれながらそっと被せる衣の陰で、徐々に変化していった。彼女の姿がかききえる前、薄い衣を透かすようにして水神の目に映ったのは、優しく華奢な白竜であった。「息吹殿──」呼びかけようとした声を、水神はそっと呑んだ。どうせ聞こえまいと思ったからではない。あまりにも健気な息吹の決意を、今はただ見届けてやりたかった。消えたかに見えた場所に、しばらくして、動きがあった。「姫さま……」山吹が、堪えかねたような声とともに衣をはらりと落とす。「……!」水神の目の先に、先ほどの白竜を彷彿させる、華奢な柳があった。土もないのに、自らの力ですっくと立つ柳であった。
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竜の唄を継ぐもの 第8話

2022-10-28 15:48:48 | 書いた話
「わたくしを、その身にお納めくださいませ」──山神・息吹(イブ)の申し出は、水神を戸惑わせた。「息吹殿。それはいったい……」「家族との告別は済ませてまいりましたゆえ、ご懸念なさいませんように」その言葉で、水神にも得心のいくところはあった。仮にも、地帝の娘の婚礼である。それだというのにその場には、父たる地帝はおろか、ほかの家族、親族のたぐいが誰も見当たらない。控えているのは、先ほど声をかけてきた山吹という側仕えただひとり。もともとこうした晴れの場に同道させる親族、眷属もなく、根っからの独り身の己れとは話が違うだろう。息吹が自らの意思でそうしたというのなら、このありようも腑に落ちる。それきり息吹も黙り込み、しばしの時が過ぎた。どこか遠くで、鳥が鳴いた。(サヨナキドリ……)水神はかすかにおもてを上げた。夜明けが、少しずつ迫っている。残された時間は多くはなかった。「承知した、息吹殿」水神は言った。
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竜の唄を継ぐもの 第7話

2022-08-10 14:51:33 | 書いた話
細くたおやかな調子でありながら、息吹(イブ)の声は、側仕えの山吹を一言で下がらせるほどに凛と響いた。そしてその声は、水神の胸のうちにもまた、まっすぐなひと筋の光のように届いたのだった。そのとき、水神はあらためて確信した。息吹が山神であることを。彼女の声から伝わるもの、それはまさしく、健やかな地の力をあやつる山神ならではの、魂の息吹きであった。「……ま」「……」「……水神さま」呼ばれていることに気づき、われにもなく水神はうろたえた。「──ご無礼を」息吹は再び、水神の前に深くこうべを垂れる。「一世一代のお願いがございまする」「──なんなりと」同情した、わけではない。だが、自分にできることなら、叶えてやりたいと思った。息吹というこの健気な“新妻”に、力が残っているうちに。息吹の白い頬に、微かな安堵と感謝の色が浮かぶ。「わたくしを、その身にお納めくださいませ」言い切ったその言葉は、水神を驚かせた。
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