興味津々心理学

アメリカ発の臨床心理学博士、黒川隆徳によるあなたの日常の心理学。三度の飯よりサイコセラピーが好き。

性格は変えられるのか

2022-10-12 | プチ精神分析学/精神力動学

「性格は変わらない」とか、「性格は生まれつき」とか、「性格だからしょうがない」と言う人をよく見かけます。


後ほど話しますが、これはいずれも不正確なものです。しかし最近は社会的な影響力を持ち、フォロワーの人生相談に携わっているYouTuberの人たちまでこのように言っていたりするので、いささか気掛かりになります。


ただ、これらの主張はデタラメではなく、少なくとも半分は正しいのです。


こうした方達が何気なく使っている「性格」という語彙は、正確には「気質」(temperament)と呼ばれる、それこそ生まれつきの性質で、「性格」のベースになるもので、確かにこれは変わりにくいものです。


例えば、外向性と内向性、冒険好きと用心深さ、といった気質は、「三つ子の魂百まで」的に変わりにくいものです。


この気質の部分は変わらないですし、そもそも変える努力をするべきでもないと思います。それよりも、自分の気質とは折り合いをつけて受け入れていくのが良いでしょう。


現代の文化的、社会的には、なんだか外向的な人の方が望ましく優れているというような風潮がありますが、実際のところ、内向的で自己実現をしたり幸せな人生を送っている人はたくさんいますし、外向的で不適応を起こしたり社会的・経済的に深刻な問題を抱えている人もたくさんいます。もちろんその逆もまた然りです。


性格とは、この「気質」が親子関係や生育環境によってどのように展開していくかによって作られていきます。つまり性格とは、遺伝と環境の複雑な相互作用によって形成されます。


性格の中にも比較的変えやすいものと変えにくいものがあり、気質的な部分は変えにくいですが、生育環境や人間関係の影響が大きい部分は変えていけます。例えばその人の自己評価や自己肯定感などは変動しやすい要素だといわれています。


とは言っても、人の性格はとても長い時間を掛けて遺伝的要素と環境的要素が化学反応の如く相互作用を起こしてできていくもので、多くの自己啓発本やYouTuberの提案が付け焼き刃的で効果が限定的であるのはそのためです。


長年掛けて作られたものを変えていくにはそれなりのまとまった時間と根気と努力が必要で、例えばサディスティックで悪意のある人は、その病的に強く歪んだ自己愛の調整や攻撃性の改善などが要求されるわけですが、病識の低さやモチベーションやコミットメントの問題で、その然るべき時間と根気と努力が持てないゆえに変われないのです。


実際、病識があり、どうしても変わりたい、治したい、成長したいと望む人は、そこへの時間と根気と努力を惜しまず、長年掛けて人格障害すら克服するのです。私自身そうした事例はたくさん見てきました。


もうひとつ問題なのは、気質と、環境的に作られた性格の部分がマッチしていない人たちです。


例えば、実は外向的な気質なのに、生育環境の影響で猜疑心が強かったり攻撃性が強くてうまく人と付き合えない人は、たくさんの社交が必要なのにそれが得られず、満たされません。


逆に、生育歴の影響で、自分は外向的だと思い込んでいて、本当は内向性が強いのにその人にとって過度の社交を続けるライフスタイルを送っている人は、実はすごいストレスを感じていたり、慢性的な疲労感を感じていて、やはり幸福ではありません。


興味深いのは、コロナ禍によって、リモートワークなど、家の中にいる時間が半強制的に長くなったことで、自分を再発見する方が多かった事です。私の知人は、とても社交的な人で、本人も自分は外向性の強い人間だと思っていたら、コロナ禍の巣篭もり生活が予想外に快適で、いつになくハッピーで、まさか自分が求めていたのはこれだったのかと驚かれていました。


性格を変える努力も大事ですが、一方で、性格を変える事に労力を注ぐ代わりに、自身の本来の気質を見極めて、受け入れて、それに合わせてライフスタイルを調整する事で、心の調和が取れて、自己肯定感が上がったり、不安が軽減したり、気分が晴れたりして、結果として性格が大きく改善する事例もあります。


いずれにしても、「性格だから」と結論付ける前に取り組める事はたくさんあります。性格は本人の努力と根気次第で変えていけるのです。





最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。