いつだってワークライフバランス

「仕事と生活の調和」を意味する
ワークライフバランス。
より良いあり方を考えるブログです。

六月大歌舞伎・第一部@歌舞伎座

2022-06-30 | 歌舞伎

「車引」は菅原道真公の左遷に関連する『菅原伝授手習鑑』の一部(三段目)で、ここだけ切り取られると何が何だか分からない内容のため、

歌舞伎初心者にはやや辛い演目だと思われます。

内容云々でなく、歌舞伎の様式美をたっぷりと見せるものなので、役者はいつもにも増して責任重大だといえるでしょう。

こうした重厚な時代物は、楽しめなければ居眠り続出となりかねません。

 

三つ子の兄弟(それぞれ明らかな違いがあって三つ子には見えませんが)を誰が演じるかが見どころの一つです。

今回は松緑@松王丸、巳之助@梅王丸、壱太郎@桜丸で若返っていて新鮮な配役。

加えて松王丸が仕える、ときの権力者・藤原時平を何と猿之助が勤めました。

 

いやぁ~、面白かった。

「車引」をこんなにしっかり観たのは久しぶり。

 

最も驚いたのが巳之助君。

すごい立派。この人こんなに大きかったかしら? と思える抜群の存在感。

どっしり構えて荒事のお約束、足の指を1本だけ反らせてどっかと座っていました。

 

台詞にも安定感があって、十代の頃、浅草歌舞伎で「おいおい、大丈夫か? この先歌舞伎役者としてやっていけるの??」と

不安を感じたことが嘘のよう。

成長しましたね~。

 

松緑はこういう時代物はまさにはまり役で、歌舞伎人形みたい。

可愛いと言っては失礼かもしれませんが、他の二人との年齢差を全く感じない少年のような可愛らしさなんです。

歌舞伎の錦絵から抜け出してきたキャラクターのよう。

 

猿之助は青の筋隈が似合ってました。

巨悪の時平を勤めるには、ちょっと違うかなという懸念が一瞬で吹き飛んだ堂々たる姿。

顔もすごく綺麗でした。

 

もう一つの「猪八戒」ではいつもの猿之助の顔に戻り、一時間近く出ずっぱりで動き、舞い続けました。

猿之助@猪八戒と猿弥@妖魔の踊りは息ぴったり。

葵太夫の台詞に見事に乗っていて軽やか。

 

傍目に見てても相当体力を使う舞台だと分かり、最後の方で大勢と立ち回りをする場面では猿之助にやや疲れが見えました。

でも、早替りや宙乗りをしなくてもこの人には技があります。

その技を存分に披露できる演目を選んで、これからも見たことのない舞台を展開していっていただきたいものです。

 

今月の歌舞伎座はコロナで三部制になってから初めて三部とも見て、どれも外れナシ! 

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六月大歌舞伎・第二部@歌舞伎座

2022-06-29 | 歌舞伎

大河ドラマの影響で人気急上昇中の美少年こと、染五郎が弱冠17歳で主役を勤めた「信康」。

私は初めて見る演目です。

 

染五郎と言えば子役の金太郎時代に女の子かと思うような可憐さで、大向さんが「豆高麗っ!」と叫んだときは

「はぁ~、そういう言い方があるのね」と妙に感心したことが記憶に残っています。

四頭身くらいで小さく、あどけなくって可愛くってまさに「お豆ちゃん」って感じでしたから。

 

ちなみに現幸四郎の染五郎時代は「染高麗」と呼ばれていました。

お父様の白鴎さんは以前から屋号のまま「高麗屋」。

コロナのせいで大向こうが禁止になって久しく、懐かしく思い出されます。

素人の大向こうもどきは正直迷惑なものですが(真後ろで叫ばれるとビックリするのよ)、プロの方は声も渋いし間合いを計って絶妙。

 

肝心の舞台は、染五郎は早々に登場するのですが、舞台中央に立った瞬間、とても小さいというか舞台が妙に空いた感じになりました。

高身長で小さいはずはないんですが、歌舞伎の舞台は本当に不思議で、さほど大きくはない故團十郎丈が「勧進帳」の弁慶で登場すると

ものすごく大きく見えたものです。

これは私の思い入れが強いせいばかりでなく、松竹座で見たとき関西のお客さまは感想をリアルタイムで口に出しておっしゃるのですが

「でっかいなぁ」「かっこええわぁ」「これを見にきたんやで」と興奮されていましたから。

 

一方、染五郎は線が細く予想に反して普通でした。

少なくとも私は、飛び抜けた美を彼に感じることができなかったのが残念。

 

では内容が面白くないかと言うと全然そんなことはなく、周囲の役者が若い主役を盛り立てて素晴らしい出来でした。

特に白鴎@家康、魁春@築山御前が立派。

このお二方が出てくるだけで舞台が大きくなります。

 

白鴎なんて端っこに座っているだけなのに、とてつもなく大きな存在感で息子・信康を信長の命で切腹させなくてはならない苦悩を

台詞なしでも全身に滲ませてお見事。

魁春は意地の悪い姑とは言え名門今川家の人間としての誇りも品格も失わず、どんな言葉を発しても格調高く舞台全体の格を上げてみせる技が秀逸。

高貴な姫や武家の奥方が非常に似合う役者です。

 

白鴎と魁春、このお二人で十分舞台が締まるのですが、他の役者たちがまた泣かせます。

幼いとさえ感じた若い美少年を補って脇を固めた重臣、家来がすごくいいんです。

彼らはそれぞれ個性的で、三河武士の層の厚さを彷彿とさせるようなリアリティがありました。

 

鴈治郎、コロコロして人の良さ丸出しでほのぼのする~。

対照的に錦之助が情感抑えめで品格を感じさせ、どちらも若のことを心から想っているのが分かり泣ける……。

お預けの身になったお城の家臣たちも登場場面は最後のほうだけですが、彼らこそが観客の涙を誘う演技をしてくれたと思います。

 

もう一幕の舞踊劇「勢獅子」は役者が揃いましたね~。

これまで各部ごとに役者を違えて重複しない工夫がされていた封印がようやく解かれました。

他の部と役者もスタッフも変えることで、仮にどこかの部で何か起きてもその部だけの休演で済むというわけ。

でも、これだと役者が揃わず演目が限られてくる難点があるのです。

 

今回は舞踊があまり好みでない私でさえ、華やかな様子に心が躍るよう。

大勢出てきて、二人組や四人組になって異なる種類の踊りを披露し合います。

何だか舞台で他の人の踊りを見ている役者さんたちも楽しそう。

 

松緑と梅玉は親子ほど年齢差がありますが、踊り出すとどちらも粋がよくてカッコいい。

縁側に座ってまったりしてるときの梅玉は優しげなのに、ひとたび踊り出せばキリリとなる。

江戸っ子って感じですね。

 

扇雀さん綺麗、姿が美しい。

CMに出られておっしゃっているとおり、体をS字ラインに保って決めるのは大変でしょうが、色っぽくて素敵です。

鳶の坂東亀蔵&種之助の獅子舞もキビキビした爽快な舞いで三階席からでしたが、御利益を感じました。

 

八月からは花道脇以外は従来どおりの席で販売するそうです。

多くの役者さんの登場機会を増やすためにも、少し窮屈になっても我慢しますとも!

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六月大歌舞伎・第三部@歌舞伎座

2022-06-28 | 歌舞伎

仁左衛門休演の激震が走った第三部が昨日、無事に千穐楽を終えられたようで心から安堵しています。

3時間越えの舞台、途中20分の幕間はあるものの主役の玉三郎は出ずっぱり、喋りっぱなしの過酷な舞台。

 

「源氏店」の予定が、共演の仁左衛門が帯状疱疹でカツラを被れないということで先行予約翌日に降板、演目変更になりました。

こちらはゴールデンコンビの彼らの手に入ったお役ですが、「ふるあめりかに袖はぬらさじ」は歌舞伎歴23年目の私でも一度しか見たことのないレアもの。

急な変更にも関わらず、玉さんは三日目にして膨大な台詞が完全に入っていたことに驚嘆しました。

 

もともと杉村春子の当たり役で新派の演目のため、歌舞伎調の台詞でなく現代的で超早口。

珍しく若干噛むところもありましたが、普通に喋っていてもあんなに早口だとむしろ噛まないほうが不自然。

何をやっても玉さんなら、さすがですね~となるすごさよ。

 

色は売らない三味線弾きの芸者さんですが、花魁より美しい。

「私もこう見えて昔は綺麗だったんですのよ~」と冗談口で愛嬌たっぷりに振る舞うものの、いえいえ今だって一番お綺麗ではありませんか。

異人さんも本音では玉三郎@お園さんのほうに行きたいのでは? と思いたくなるイイ女!

実際、玉さんを見る目は皆さんウットリして、座持ちの良い芸者を見る目ではない。

うんうん、分かるわぁ。

 

以前、勘三郎丈が勤めて愉快だったお役・岩亀楼主人は鴈治郎。

この人には丸っこい顔や体から醸し出す柔らかいムードに加えて、そこはかとないユーモアがあって大いに期待していましたが、

観劇した三日目はまだ台詞の多さとテンポの速さにノリきれていないご様子でした。

 

急遽、演目が変わって大変だったのは彼も同じですものね。

それでも台詞自体はきちんと入っているし、上方役者ならではの品の良いおかしみは健在。

 

それにしても過去の実際の舞台も、そのシネマ歌舞伎版も観ましたがその美は衰えることなく、ますます磨きがかかってます。

おそらくお衣装も変えてる?

幹部俳優の衣装は自前なので、玉さんのコーディネートセンスが光ります。

最後の白黒の粋なお召し物も素晴らしい。

真似したい~と見惚れるばかりの女っぷり。

 

その後、帰宅して同行者に撮ってもらった自分の和服姿を見て、やはりモデルの違いでこんなにも変わる……。

私が玉さんコーデを真似てもああはならないよね、と客観視できました。

 

内容が面白いのは無論のこと、玉三郎オンステージの趣きの舞台を

二列目真ん中で観劇できた喜びに浸った夜でした~。

はぁ~、眼福眼福。

 

27日千穐楽。

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