最近、続けて月村了衛の作品を読んだ。
最初に読んだのは、
「槐(エンジュ) 」 月村了衛著 光文社刊
中学校の部活動の夏季合宿で葦乃湖を訪れた、それぞれに個性のある生徒たち男女7人と、引率の教頭先生、それに地味な代用教員の女性教師たち。寂れた湖畔のキャンプ場で、さほど代わり映えのない合宿を行うはずだったのだが、突如襲来した半グレ集団、関帝連合によってキャンプ地は一瞬にして血の海と化す。主人公の公一ら9名はとりあえず虐殺を免れたものの、このまま生きて帰ることができる望みはほとんど無いに等しかった。だが、地味でまったく目立たない女性教師だと思われていた由良先生は、実はかつて中東で暗躍していた、超一級のテロリスト「槐」の世を忍ぶ姿だった。たった一人で関帝連合を手もなく血祭りに上げてゆく槐の登場で、形勢は一気に逆転するかと思われたのだが、そこにさらに中国マフィアが絡んできて……という物語。
残虐なアクション小説と青春小説が同居した、まるでかつてのソノラマ文庫の進化系を彷彿とさせるような作品で、とても面白い。後味の良いのも、気に入った。たった一枚のカントリーマアムが運命を変えたというのも、まあそ嘘臭くて安直だと言われそうだけれども、この小説なら、悪くないと思った。
「槐」が面白かったので、続いて、代表作とされる「機龍警察」シリーズを、発表順に読んだ。現在単行本として読めるのは、
「機龍警察〔完全版〕」 月村了衛著 早川書房刊
「機龍警察 自爆条項」 月村了衛著 ハヤカワ文庫JA 早川書房刊
「機龍警察 暗黒市場」 月村了衛著 早川書房刊
「機龍警察 未亡旅団」 月村了衛著 早川書房刊
「機龍警察 火宅」 月村了衛著 早川書房刊
の五冊。
このうち、最後の「火宅」は、短篇集。
さすがに代表作とされるだけあって、決して薄くはない各巻を、一気に読んでしまった。ロボットアニメのガジェットを、警察小説に、さほど無理のない形で持ち込んだ小説という感じだが、とても面白い。「龍機兵」と呼ばれる、一種のパワードスーツである戦闘兵器を導入した警視庁の特捜部が、国際的なテロリストたちとギリギリの戦いを繰り広げるというのが基本的なストーリーだが、日本の警察内部にも敵がいるということが示唆されており、物語に厚みを持たせている。ネットで、いくらでも情報はあるだろうから、細かい説明は省くけれども、SF好きでなくとも、読み応えのある作品であることは保証つき。シリーズとしての通し番号は打たれていないけれども、最初から順に読むべき。個人的には、二作目の「自爆条項」が今の所一番面白く感じ、「未亡旅団」はやや物足りなく感じたが、それはおそらく、最初のインパクトが薄れたのと、ある程度のパターンが読めるようになったこと、それに加えて、登場人物たちのこれまでのバックグラウンドがそれまでに何度も言及されているせいで、新鮮味を感じなくなったせいだろう。ややメロドラマ的だったからというのも、あるかもしれない。発表された長編四作品は、それぞれ、登場人物の過去と絡めながら展開するものだったし、おそらくはまだ鈴石緑らの過去編もあるだろうが、それらが出尽くした後、物語がどう展開してゆくのかが楽しみ。
「コルトM1851残月」 月村了衛著 講談社刊
機龍警察シリーズを読んでいる間、箸休め的に、これを一冊挟んだ。
江戸を舞台にした、時代小説であり、ノワール。偶然手に入れたコルトに憑かれた男の物語。悪い奴しか出てこないと言っても過言ではない小説だが、そこがいっそ清々しい。全編に漂う、まだ電灯のない時代の、ねっとりとした感じがいい。映像化すると面白いかもしれない。第17回大藪春彦賞受賞作。
******
ついに安保法制可決。政治が、カネと巨大な権力の前にひれ伏した日。
これから、軍備拡大のために大きな予算が動くだろう。社会保障など、知ったことではないだろう。
格差は、広がり続けるだろう。
テロリストたちは、待ってましたとばかりに動き始めるだろう。あちらこちらで、日本人の犠牲が出るだろう。
そう思うと、暗澹たる気持ちにもなるが、その先のことは誰にもわからない。
どんな時代になってゆくだろう。
最初に読んだのは、
「槐(エンジュ) 」 月村了衛著 光文社刊
中学校の部活動の夏季合宿で葦乃湖を訪れた、それぞれに個性のある生徒たち男女7人と、引率の教頭先生、それに地味な代用教員の女性教師たち。寂れた湖畔のキャンプ場で、さほど代わり映えのない合宿を行うはずだったのだが、突如襲来した半グレ集団、関帝連合によってキャンプ地は一瞬にして血の海と化す。主人公の公一ら9名はとりあえず虐殺を免れたものの、このまま生きて帰ることができる望みはほとんど無いに等しかった。だが、地味でまったく目立たない女性教師だと思われていた由良先生は、実はかつて中東で暗躍していた、超一級のテロリスト「槐」の世を忍ぶ姿だった。たった一人で関帝連合を手もなく血祭りに上げてゆく槐の登場で、形勢は一気に逆転するかと思われたのだが、そこにさらに中国マフィアが絡んできて……という物語。
残虐なアクション小説と青春小説が同居した、まるでかつてのソノラマ文庫の進化系を彷彿とさせるような作品で、とても面白い。後味の良いのも、気に入った。たった一枚のカントリーマアムが運命を変えたというのも、まあそ嘘臭くて安直だと言われそうだけれども、この小説なら、悪くないと思った。
「槐」が面白かったので、続いて、代表作とされる「機龍警察」シリーズを、発表順に読んだ。現在単行本として読めるのは、
「機龍警察〔完全版〕」 月村了衛著 早川書房刊
「機龍警察 自爆条項」 月村了衛著 ハヤカワ文庫JA 早川書房刊
「機龍警察 暗黒市場」 月村了衛著 早川書房刊
「機龍警察 未亡旅団」 月村了衛著 早川書房刊
「機龍警察 火宅」 月村了衛著 早川書房刊
の五冊。
このうち、最後の「火宅」は、短篇集。
さすがに代表作とされるだけあって、決して薄くはない各巻を、一気に読んでしまった。ロボットアニメのガジェットを、警察小説に、さほど無理のない形で持ち込んだ小説という感じだが、とても面白い。「龍機兵」と呼ばれる、一種のパワードスーツである戦闘兵器を導入した警視庁の特捜部が、国際的なテロリストたちとギリギリの戦いを繰り広げるというのが基本的なストーリーだが、日本の警察内部にも敵がいるということが示唆されており、物語に厚みを持たせている。ネットで、いくらでも情報はあるだろうから、細かい説明は省くけれども、SF好きでなくとも、読み応えのある作品であることは保証つき。シリーズとしての通し番号は打たれていないけれども、最初から順に読むべき。個人的には、二作目の「自爆条項」が今の所一番面白く感じ、「未亡旅団」はやや物足りなく感じたが、それはおそらく、最初のインパクトが薄れたのと、ある程度のパターンが読めるようになったこと、それに加えて、登場人物たちのこれまでのバックグラウンドがそれまでに何度も言及されているせいで、新鮮味を感じなくなったせいだろう。ややメロドラマ的だったからというのも、あるかもしれない。発表された長編四作品は、それぞれ、登場人物の過去と絡めながら展開するものだったし、おそらくはまだ鈴石緑らの過去編もあるだろうが、それらが出尽くした後、物語がどう展開してゆくのかが楽しみ。
「コルトM1851残月」 月村了衛著 講談社刊
機龍警察シリーズを読んでいる間、箸休め的に、これを一冊挟んだ。
江戸を舞台にした、時代小説であり、ノワール。偶然手に入れたコルトに憑かれた男の物語。悪い奴しか出てこないと言っても過言ではない小説だが、そこがいっそ清々しい。全編に漂う、まだ電灯のない時代の、ねっとりとした感じがいい。映像化すると面白いかもしれない。第17回大藪春彦賞受賞作。
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ついに安保法制可決。政治が、カネと巨大な権力の前にひれ伏した日。
これから、軍備拡大のために大きな予算が動くだろう。社会保障など、知ったことではないだろう。
格差は、広がり続けるだろう。
テロリストたちは、待ってましたとばかりに動き始めるだろう。あちらこちらで、日本人の犠牲が出るだろう。
そう思うと、暗澹たる気持ちにもなるが、その先のことは誰にもわからない。
どんな時代になってゆくだろう。
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