「島はぼくらと」 辻村深月著 講談社刊
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瀬戸内海に浮かぶ小さな島、冴島を舞台にした物語。ミステリー性はほぼ無く、ストレートな青春小説と言っていいと思う。ちなみに、冴島というのは架空の島のようなのだが、どこの島がモデルなのかは、正直分からない。小豆島にしては小さすぎるし、地理的には家島諸島(坊勢島とか)あたりだろうかとも思うけれども、行ったことはないので、なんとも言えない。実家が神戸だったので、瀬戸内海は目の前だったのだが、火山云々というのはあまり聞いたことがなかったと思うし、多分、いろんな島をミックスして作った、完全に架空の島なのだろう。
小さな共同体、つまり「ムラ」の持つ、独特の閉塞感を描いた作品は数多い。最近読んだ中でも、「入らずの森」などはまさにそうで、理想だけでやってきたIターンの男がどうしても村の人々に溶け込めない様子が描かれたりしていた。この作品も、島というある種息苦しい「ムラ社会」を描いてはいるが、決してそれをすべて否定しているわけではなく、そうしたムラ社会のシステムが、決して固定化された、融通のきかないばかりのものではなく、一定の有機的な柔らかさをも合わせて持っているということも描かれ、そういう独自性が育った背景とともに、むしろある程度肯定的に捕らえようとしている。人が作り上げたものだから、人が変えることもできるというわけである。小説としては、東日本大震災の影響下で書かれた作品という印象がやはりあったし、辻村深月作品としては、幾分風通しの良すぎる、さほど作りこまれてはいない小説のように思えたが、読後感は悪くなかった。
ちなみに、この作品にも、彼女ならではのスターシステムが生きている。脚本家、赤羽環が大事な役割を持って登場するのだ。個人的には、この作品自体がどこか何かの作品の前日譚のようなところがあるように思えたので、いずれこの小説に出てきた登場人物の誰かが(ヨシノとか、新とかが)、これから書かれる別の作品で活躍しそうな気がした。