つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

うん、いいと思うよ

2007-03-27 23:58:02 | 小説全般
さて、読んだのだいぶん前だなぁの第847回は、

タイトル:LOVE ASH
著者:桜井亜美
出版社:幻冬舎 幻冬舎文庫(初版:H12)

であります。

前に読んだことはあって、それなりの評価だったのも関わらず、手に取らなかったんだよなぁ。
そいで前の回数を見てみると、第262回……。
2年前やし……。

さて、鬼門をようやく返上しかけた幻冬舎文庫の本書は、ひとりの不遇な過去を背負った青年の物語であります。
ストーリーは、

『両親に捨てられ、借金取りが連日訪れる家でたったひとり暮らし、その後、父親の知人である養い親に育てられた風尋響は、大学生のはずだった。
しかし、大学にも行かず、ミルクというネットで知り合った女性と金で抱かれる以外は、ただアパートで引きこもっているだけだった。

だが、その生活はミルクのたった一言で終わりを告げ、収入を絶たれたキョウはペットショップでバイトを始めた。
そこで出会った怪しげな男と密猟で店主が手に入れたワニ……コビトカイマンを巡る出来事の中で、昔、半同棲生活にまでなっていた元恋人のマシュリに出会う。

マシュリに連れられて行ったそこで自らの境遇を知ったキョウは、マシュリやそこで出会った人物たちと同様、ネット内で生きることを選び、データ上の死と実際の死を遂げた神流ヒカルの一部になろうとしていた。

しかし、それを止めたのは、ネットの延長線上で実在感のほとんどなかったけれど、それをキョウの中で実在にまで押し上げた、ミルクからの電話だった。』

不遇な環境で成長せざるを得ず、自ら社会不適応者と思い、心に大きな空洞を抱えた青年キョウの物語で、飢えた心が、自らを捨てる方向へ傾くか、それとも望むものを手に入れるかの天秤に揺れる姿が描かれている。
ストーリーとしては、ほんとうに天秤のように、捨てるほうへ傾き、手に入れるほうに傾きを繰り返しながら、ラストに至るもので、展開そのものはまとまっている。
ラストも、ありふれたものながら、その後を読み手に任せ、好みによって明と暗を選べるようになっているところも悪くない。

キョウのキャラクターは、ある程度のデフォルメはあるだろうし、設定された境遇の稀少性もあろうが、若い世代には共感できるところが多々あると思われる。
そういう意味では若いひと向けのように感じるが、そうした若い世代の心情を見る、と言う意味に取れば、そうでなくともそれなりにおもしろく読めるのではないかと思う。
戸籍を抹消し、非実在になろうとするマシュリ側と、キョウを求める実在側のミルクの対比もわかりやすく、他のキャラもしっかりしている。

物語としてはそれなりに興味深く読めたのだが……文章がちとねぇ……。
「てにをは」くらい、作家なんだからもうちょっと考えて書いてくれんかねぇ。
少々ならいいのだが、「てにをは」が変なおかげで、意味が通じない文や表現が散見されるところはマイナス。
流れで読んでいて引っかかり、読み返しては意味が通じず、ようやく「てにをは」を直して意味が通じる……なんて、何度も読み返さないといけない作業は面倒くさいって。

ストーリーとかはいいのに、これではやはり良品とは言い難い。
文章面も少々のことなら目をつぶるが、文章の基本中の基本「てにをは」がなっていなければねぇ。
まぁ、それでもいいところのほうが多いので、及第の中では評価は高いほうだろう。