つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

ゴスロリホームズ登場

2007-03-14 23:50:13 | ミステリ+ホラー
さて、絵って偉大だと思う第834回は、

タイトル:GOSICK ―ゴシック―
著者:桜庭一樹
出版社:富士見書房 富士見ミステリー文庫(初版:H15)

であります。

長い沈黙期間を経て、再登場! な方です。
第821回で、富士見ミステリー文庫思いっきりけなしてるやん、というツッコミはない方向で。(爆)
同作者の『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』が結構当たりだったし、これも割と人気がある作品みたいなので、手に取ってみました。



時は一九一四年。
答えを求める『彼ら』に老婆ロクサーヌは、巨大な箱を水面に浮かべるよう命じた。
雷鳴轟く中、しわがれた声が箱を用意した後の行動を指示する――野兎を走らせろ!

それから十年後、場所はヨーロッパの小国、ソヴュール王国にある聖マルグリット学園。
東洋の島国からの留学生・九城一弥は、クラスメートのアブリルに怪談話を聞かされていた。
すべての乗員を消し去った後、海の底に沈んだ豪華客船『Queen Berry号』……それは今でも、嵐の夜に突如としてその巨体を現すのだという。

怪談話も終わり、一弥はいつものように聖マルグリット大図書館の階段を上っていた。
一番上の秘密の部屋にいるエメラルド・グリーンの瞳の陶人形に、授業のプリントを渡すために。
陶人形の名はヴィクトリカ――常に、退屈を紛らわせてくれる混沌(カオス)を求めている少女である。

一弥が先生から聞いた『占い師ロクサーヌ殺人事件』は、果たしてヴィクトリカの退屈を紛らわせてくれるのか――?



シャーロック・ホームズの劣化コピーである少女・ヴィクトリカと真面目で純情な少年・一弥が、十年前に沈んだ筈の船『Queen Berry号』で怪事件に巻き込まれるミステリです。
シリーズ物の初巻ということで、序盤はキャラ紹介がメインかな? と思っていたのですが、学園の近くで起こった殺人事件をヴィクトリカが解決し、その絡みで二人は旅行に出発、気付いたら謎の招待状を手にしていたというかなり強引な展開で、あっという間に舞台は『Queen Berry号』に移ります。
さらに、食事に眠り薬を盛られ、目覚めてみると船には二人を含めて十二人の乗客しか残っていない……そんな、『キューブ』や『そして扉が閉ざされた』を彷彿とさせる美味しい展開が続き、私としてはかなーり期待したのですが……。

密室脱出物としては二級

――でした。

そもそも、目覚めてすぐに十二人の内七人を切り捨てちゃう時点で無茶苦茶です。
これが、読者も知らない人間が五人ならドラマになるのですが、五人中二人が主人公な時点で、推理も緊張感もありません。
しかも、主人公達の物語と並行して十年前の出来事を描く章『モノローグ』があるため、あっさりとネタは割れます。(をい)

奇妙な展開に混乱する人々に、偉そうに講釈する探偵役・ヴィクトリカのキャラもイマイチ。
『頭でっかちなガキンチョ』という表現がぴったりはまる彼女は、「湧き出る『知恵の泉』が教えてくれた」とかいう決まり文句をのたまいつつ、いくつかの謎を解くのですが……誰でも解ることを大げさに言ってるだけです。
いわゆる、他がおバカだから相対的に賢く見えるキャラの典型で、作者がホームズごっこをやりたいから出した、という印象しかありませんでした。どうにかしてくれ。

まぁそれでも、謎の老婆ロクサーヌが十年前にやらせた『野兎狩り』とか、『モノローグ』でのバトルロワイヤル的展開など、面白いと思える部分がないではありません。
しかし、それを考慮しても致命的な点が一つ。

この方、三人称の地の文が物凄く下手……。

一弥の一人称の文章を無理矢理三人称にして、時折別の視点を混ぜてあるのですが、上手くいってません。
神の視点か個人の視点か曖昧だったり、一弥の視点の筈なのに別の視点が混入してたり、もうボロボロ。
『モノローグ』の方は某人物の一人称で書かれており、そっちがかなり上手いだけに、主人公サイドの地の文の粗さがやけに目立ちました。

面白いネタを扱っているのに、それを生かし切れていません。合掌。
キャラ物、ミステリー、ホラー、色々な要素を入れていますが、どれも決定打になっていない、中途半端な作品です。



――【つれづれナビ!】――
 ◆ 『桜庭一樹』のまとめページへ
 ◇ 『ライトノベル一覧表(その1)』へ
 ◆ 『つれづれ総合案内所』へ