つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

「ついで」の確率

2007-03-03 18:40:35 | ファンタジー(異世界)
さて、3巻まで読んでるからねの第823回は、

タイトル:狼と香辛料4
著者:支倉凍砂
出版社:メディアワークス 電撃文庫(初版:H19)

であります。

ちゃんとラノベ以外もと思いつつも記事にしてしまうラノベ。
まぁ、ちょうど「9S <ナインエス>」シリーズの残りを買いに本屋に立ち寄ったら、ちょうど新刊で出ていたので、ちょうどいいからと「ついで」に買っておいた作品なんだけど。

さて、デビューのときから比較的評価のよかった……と思っていたら1巻はけっこうぼろくそ言ってるなぁ(笑)
……今後の精進次第、ってことだったけど、3巻はおもしろく読めたし、巻が進むごとによくなっているので食指は動く、と。
では、この4巻はと言うと……。

「狼神ホロの故郷ヨイツを探すため、北を目指す行商人ロレンス。異教徒の町クメルスンで得た情報をもとに、二人は田舎の村テレオにやってくる。
テレオの協会にいる司祭は、異教の神々の話だけを専門に集める修道士の居場所を知っているという。しかし、教会を訪れたロレンスとホロを出迎えたのは、無愛想な少女エルサだった。
さらにそこで、ロレンスたちは村存続の危機に巻き込まれてしまう。二人はヨイツへの手がかりをつかみ、無事に村を出立できるのか……。
話題の異色ファンタジー、第12回電撃小説大賞<銀賞>受賞作第4弾。」

なんか、この4巻、いままででいちばん構成がいい。
前半は、テレオでのヨイツへの手がかり探しとロレンス、ホロのけっこう甘々な展開で、中盤からテレオを襲う危機とそれに起因するふたりの危機、そしてそれを解決するラストと、流れはとてもすんなりとしていて、張られた伏線の用い方もさりげなく、オチもうまく、ストーリーはきっちりとまとまっている。

クライマックスも、ホロの狼としてではなく、もともと豊作を祈願されていた神としての派手さのない力を用いながらも、しっかりと盛り上げており、派手さのない素朴なキャラや雰囲気を壊さず、いい感じに作ってある。
また、メインのゲストキャラであるエルサとエヴァンのふたりの物語が、ロレンスとホロの関係にうまく調和して語られているところも好印象。
ストーリー展開、雰囲気ともに順調な進化の跡が見える秀作と言っていいだろう。

……が、やはりこの著者、文章というものをもっと考えて書いてもらいたい。
分量や情景描写など、基本的なところはきちんと押さえているのでそこはいいのだが、ことあるごとにかなり回りくどい言い回しを使いすぎる。
通常、文章を追って想像力が情景やキャラの動きを頭に展開するものだと思うが、そのストーリー展開では本来来るはずのない意味不明の言い回しが多い。
それはもちろん、読んでいけばきちんと説明されるものではあり、ストーリー展開上、隠さなければならないことや、ロレンスの商人としての駆け引きなど、必要な場面というものはあるのだが、そうでない場面でのこうした言い回しは、想像上の情景などをばっさりと断ち切ってしまう場合が往々にしてある。
効果的に使うところ、ストーリーの流れを重視するところなど、考えてから書いてもらいたいもの。

もっとも、こうした欠点はある意味、苦言に近い、かな。
ここまでしっかりと書いているのだから、ここさえ気にならないようになれば、ただの良品に「文句なし」がつくだろうからね。
まぁでも、欠点らしい欠点はここだけなので、総評としては当然、良品。

しかし……、なんかふと「ついで」に手を伸ばした作品のほうがおもしろかったりすることってけっこうあるような気がするなぁ。
マーフィーの法則みたいなもんかしらん?(笑)



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