つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

読んだことがないと思ったのに

2007-11-18 17:02:31 | ホラー
さて、毛色が違うからいっかの第921回は、

タイトル:幻少女
著者:高橋克彦
出版社:角川書店 角川文庫(初版:'02)

であります。

このひと読んだことなかったよなぁ、と思って手にしたものの、目録を見てみたら伝奇小説を読んでました(^_^;
まぁでも、前のは長編の伝奇小説。
今回のは裏表紙の解説文に「幻想ホラー掌編集」とあるように、短編集。
しかも200ページあまりのページ数に27もの作品が収録されているので、短編と言うよりショートショート集と言った感じ。

とは言え、27編もあるのを全部書いていくのも何なので、いくつかをば。

○祈り作戦
『きっかけはクラスの女の子だった。
入学したときに植えた桜の木。風が強くて花びらが飛ばないように祈っていた女の子の祈りが届いて、その桜だけがまだ花びらをたたえていた。
信じ切れていなかったぼくだったが、入院中の先生の無事を祈ったとき、先生が奇跡的に助かったことで考えを変えた。
そして、それはぼくたち、子供だけに与えられた力だと知ったクラスメイトたちは、もっと大きなことを願おうと、祈りを続けた。』

単純ないい話、と言うものだが子供の無邪気さや幻想的な雰囲気、余韻に満ちた佳品。
とは言え、今時の小学5年生はこんな無邪気じゃないとは思うけど。

○電話
『あるとき、昔使っていた時計が出てきた。それを見て、私は少し落ち込んでいた。
過去の私、貧乏だったら妻と幸せだった時期と、その崩壊。成功と新しい妻との生活。様々な思いが巡っていた。
そんなとき、電話が鳴った。
「幸福なの?」
だったそれだけの電話の声は、死んだ妻の道代だった。』

パラレルワールドで、別の歴史を歩んだ世界が電話でつながる、と言うものでネタ的にはありふれたもの。
ただ、これも主人公である「私」の哀愁と余韻が感じられる作品。

○明日の夢
『教頭である私には、予知夢を見ると言う特技があり、それを夢日記として憶えている限り記録していることにしていた。
そのことはおなじ学校に、何年かいる教師たちの間では有名だったが、予言と言えるほどのものではなく、他愛ない日常を夢に見ていると言う程度のものだった。
研修で一緒になった若い女教師がイカスミのパスタを頼むところやそのときの服装、その程度だった。
だが、気付くと予知夢で見る光景がどんどん短い期間に集中し始めていた。
それを確かめるべく、夢日記を詳細に見ていた私はあることに気付いた。』

予知夢というネタを扱ってはいるが、妙に現実味があって、その現実味がラストのオチの怖さを際立たせている。
と言うか、けっこうこのラスト、シャレにならねぇ……。

○不思議な卵
『ぼくは入院中の弟に、工作で作った卵を不思議な卵だと言って渡した。卵がかえれば何でも夢が叶う、そんなふうに言って。
最初は他愛ない思いつきみたいなものだった。それまでに弟の願い事を聞いて、退院できる日に、こっそり弟が欲しいものと交換しておく。両親の許可ももらって願い事の「犬が欲しい」というもの聞いておいた。
だが、弟の病気は退院できなくなってしまった。
それでも弟は、夢が叶うと言う卵を大切に暖めていた。』

これはたった4ページの小品で、系統としては「祈り作戦」とおなじいい話の部類。
子供らしい思いつきがかわいらしく、心温まる作品。

……と、いくつか、って4つだけかい……(爆)
と言うか、「幻想ホラー」と銘打ってあるが、実はホラー作品のほうがほとんどおもしろくないのよねぇ。
中には少しくらい怖さのある作品がないわけではないけど、「これは怖い!」って思えるものはほとんどない。

むしろ、「怖さ」よりも「幻想」に重点があるほうが、雰囲気もありいい話が多い。
さらに作品によってページ数がだいぶ多い短編と呼べるくらいのものもあるのだが、短編ではなく、10ページにも満たないショートショートのほうが想像力が掻き立てられるし、雰囲気、余韻ともに感じられるものが多い。

まぁでも、こういう短編集だとどうしてもおもしろいものもあれば、いまいちなのもあるのは仕方がない。
私はいまいちだと思ったけど、読むひとによってはおもしろいと思えるものもあるだろうしね。
それに、以前読んだ伝奇小説なんかよりはよっぽどかマシ。

なので、総評としては及第。
でもやっぱり、この手の人間の内面をホラーとして描くのは女性のほうがうまいと思うね。
刺繍する少女」なんてその最たるものって感じだし。

〈メドゥサを読んだ〉

2007-04-21 23:59:59 | ホラー
さて、第872回は、

タイトル:メドゥサ、鏡をごらん
著者:井上夢人
出版社:講談社 講談社NOVELS(初版:'97)

であります。

二度目の登場となる、井上夢人の長編です。
前回読んだ『プラスティック』はかなり特殊な作品でしたが、こちらはネタこそ奇抜ながら割と普通のミステリっぽく――見える作品。
実際どうだったかは、粗筋の後で書きます。



作家の藤井陽造が自殺した。
異様なのはその死に方だった……彼は自らをセメントで塗り固め、石像になっていたのである。
さらに、彼の死体と一緒に塗り込められていたガラスの小瓶には、奇妙なメッセージが残されていた――〈メドゥサを見た〉と。

ある日、藤井の娘・菜名子が、「父の家に行ってみようかって思うの」と電話をかけてきた。
彼女の婚約者である〈私〉は、ようやく父親の異様な死と向き合う決心が付いたのだろう、と納得し、同行を約束する。
行きの電車の中で菜名子は藤井の日記を見せ、そこに出てくる最後の原稿を探し出したいと言った。

藤井はなぜ自殺したのか?
最後に書かれた原稿の行方は?
彼が見たという、メドゥサとは一体何なのか?

菜名子の制止も聞かず、謎の泥沼へと踏み込んいく内に、〈私〉の周囲で奇妙な現象が――。



例によって一言で言うと――

理不尽系のホラーです。

ミステリだと思って読んでいると痛い目に遭うのでご注意下さい。

それでも、序盤はかなりミステリ色が濃いです。
奇妙なやり方で自殺した作家、意図的に処分されたと思われる原稿、不可解なメッセージと引きは充分。
主人公である〈私〉の行動もミステリのやり方に沿っており、地道に死者の足跡を追ってきます。

カラーが一変するのは、四分の一を過ぎた辺り。
ロジックで説明がつかない現象が頻発し、空気もかなり重くなります。
常識が崩壊する中、どうにかして筋の通った答えを見つけようと足掻く主人公の姿は……憐れと言えば憐れだけど、警告無視して首突っ込んでる時点で自業自得。(笑)

ま、好奇心猫を殺すってところでしょうか?

理不尽系ホラーだから仕方ないと言ってしまえばそれまでなんでしょうが、オチも当然、納得とか理解とかロジックとかって言葉とは無縁の不可解なものでした。
岡嶋二人名義ながら、実質、井上夢人個人の作品だった『クラインの壺』はまだ、「結局どっちなの?」で済みましたが、こっちはもうそういうレベルではありません。
次々と発生する超常現象やら、主人公を襲う異変やら、某キーパーソンの目的やら、ありとあらゆる謎と疑問をほったらかしにしたまま――そうなるしかないわな、という定番のオチで強引に終わっています。

前半の勢いに比べて、後半の失速っぷりが凄まじいので、総評としてはイマイチ。
「だから結局何がしたかったの?」と、理由を求めてしまう人間にこういう話が合わないだけかも知れませんが。(爆)



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サイコなのはどっち?

2007-02-24 23:25:23 | ホラー
さて、別にラノベ中心のブログではないのよの第816回は、

タイトル:壊れゆくひと
著者:島村洋子
出版社:角川書店 角川文庫(初版:H10)

であります。

ファンタジーをカテゴリのトップから……って何回言ったっけ、このフレーズ……(爆)
まぁ、それはひとつの理由ではあるんだけど、どーも「9S <ナインエス>」のおかげでライトノベルの冊数が増えてるのが気になるんだよね。
乱読上等が身上なんだから、いろいろと読むべきなんだけどねぇ……。
おもしろいのよ、「9S <ナインエス>」シリーズ……。

さておき、そんなわけもあってお初の作家さんでございます。……たぶん、ブログ内検索に引っかからなかったので。
ストーリーは、久本まりこと言う20代後半の主人公を中心とした物語で、詳細は以下。

「どこにでもいる普通の人々、あたりまえの日常生活が、私の周りで少しずつズレていく。
してもいないミスをあげつらう”いい人”と評判の同僚。
自分はアイドルの恋人だと言い張る子持ちの友人。
顔も思い出せないのに恋人だと手紙を送ってくる男。
狂ってしまったのは私なのか。
それとも周りの人々なのか。
現実と虚構の狭間から滲み出す狂気を描いたサイコ・ホラー」

だそうです。

そういうわけでカテゴリはホラーにしたけれど、この紹介文を読んで、ぞくぞくするようなこわ~い話を期待していたんだけど、ぜんぜん怖くなかった……。

ストーリーは、主人公まりこの一人称で語られ、一人称で描かれる以上のことはあまり書いていない。ほぼ、まりこが出会う様々な虚構を信じ込んでいる相手によって引き起こされるまりこの心の動きが主となっている。
紙面としては白いほうだが、描写不足と言うわけではないので、流れが悪いと言うことはない。

展開も、意外な結末とかが待っていると言うわけではないが、紹介文の「現実と虚構」という言葉には合っていて、物語としての出来はいいと思う。

ただ、サイコ・ホラーと銘打っている割に、まりこが様々な相手から感じ、考えることがとても淡泊だったりして、ホラーっぽさが薄くて怖くない。ラストのほうでちょろっと怖そうなところもあったけれど、「怖そう」であって「怖い」までは行かない。
まぁ、虚構の中にいる様々な相手に感じるまりこの気持ちはけっこう頷けるところがあるけれど、「そうそう」って頷けて怖いわけがない。
これなら小川洋子の「刺繍する少女」のほうがよっぽどか怖い。

とは言え、まりこの語る様々な虚構の中の人物との出会いと、まりこの中の現実と虚構が曖昧で、そうした境界線のあやふやな作品世界はしっかりと感じ取れる作品ではある。

と言うわけで、サイコ・ホラーでありながら怖くないが、物語の出来は悪くない……と言うところでこれは及第だろうね。

古くささ満載

2007-01-12 20:11:29 | ホラー
さて、ラノベの持禁が実は持禁でないのがわかったの第773回は、

タイトル:おさわがせ幽霊ゴースト
著者:竹河聖
出版社:朝日ソノラマ ソノラマ文庫(初版:H1)

であります。

竹河聖と言えば「風の大陸」シリーズ……と言いたいところでもないんだけど、いちおう昔読んでいたこともあり、懐かしさにかまけて借りてみると……古っ!(笑)
とは言え、確か竹河聖、元々の畑であるホラーと言うことで、それなりに期待しつつ……。

では、本書のことから。
オムニバス形式の短編連作で、主人公である高校生、佐藤一太郎とそのはとこ海棠華藻、玉緒の美人姉妹の3人のホラーコメディであります。
短編なので例の如く各話から。

「第一話 首なし美女でございます」
外面がよく美人な海棠姉妹に幼いころからいじられてきた一太郎は、姉妹の我が儘とその付き添いで親戚の旅館を訪れていた。
いつもながらに一太郎の前では傍若無人なふたりは、昼間に旅館の裏手で複数の話し声を聞く。

旅館の裏手が墓地であることを一太郎から聞いたふたりは、まさかと思いつつ、その日は眠りにつくが、まさかはまさかではなかった……。

「第二話 幽霊屋敷でございます」
一太郎とおなじ高校に通う海棠姉妹は、何かとお転婆な本性を語る一太郎に報復すべく、一太郎たち一家が仮住まいしているマンションを訪れ、一太郎を人気のない神社に連れ出す。
そこで首だけの幽霊に襲われるが、そのときは怪我もなく帰ることが出来た。

後日、小さな仔猫をもらった海棠姉妹は、いつものように一太郎を付き合わせ、かわいらしい仔猫にご満悦だったが、ふとしたことでバスケットの中から逃げてしまった仔猫を追って廃屋に入り……。

「第三話 学園七不思議でございます」
一太郎が通う高校で最近、男子更衣室で幽霊が出ると言う噂があった。
幽霊に、妙な縁がある一太郎は真っ昼間から出る幽霊の話を聞きながら、よくある学校の怪談話だと思っていたし、関わり合いになりたくもないとも思っていた。

だが、海棠姉妹の姉、華藻が過去のお転婆なときの写真を入れた定期入れを学校に忘れたことから玉緒も含めた3人は夜の学校に忍び込み……。

「第四話 背後霊でございます」
このところ頻繁に起きる幽霊との遭遇に嫌気が差していた3人は、またもや現れた満員電車並の幽霊たちに辟易し、第二話で少し世話になった神社の神主に助けを求める。

神主の見立てで3人に背後霊がついていることがわかり、お祓いをすることになったが背後霊はしぶとく抵抗し、それを目当てに神社に住む幽霊たちまで現れる始末。
果たして背後霊は無事、3人のもとから去ってくれるのか……。


良くも悪くも昔らしいホラーコメディ、と言えるだろう。
一太郎に海棠姉妹は、いまどきのラノベみたいに潜在的にすごい力があるとか、そういうこともなく、単に遭遇する幽霊……しかも一太郎たちで「遊んでいる」幽霊たちに振り回されたりする姿をコミカルに描いているだけ。
第四話で出てくる神主も、お祓いと言いながらも、らしいことはしているだけでラノベらしい「戦う」ということとは程遠い。
そうしたのを期待すると拍子抜けするだろうし、おもしろみも少ないだろう。

またコメディであるため、怖さと言った面からも縁遠いので、怖さを求めるにも向かない。
コメディだから笑えるかと言えば、まぁ、そこまで笑えるほどでもないが……。

っていいとこなしじゃん、これじゃ……(笑)

まぁ、いまから読むと、この時代よりもやや古めの海棠姉妹のキャラやいじられながらも美人ゆえにまんざらでもない一太郎のキャラなど、古くさい形のキャラ設定が何とも微妙な味になっているところはおもしろい。
話そのものも定番で、安心して読めるところはいいところだろう。
文章も重すぎず軽すぎず、多すぎず少なすぎずでバランスはいい。

読むものがなくなって、手軽に何かないかなぁ、と言ったくらいのときに「借りる」のはいいかもしれない。

珍しく最近の作品

2006-12-13 23:35:38 | ホラー
さて、時間の合間に読んでたので記憶がバラバラな第743回は、

タイトル:都市伝説セピア
著者:朱川湊人
出版社:文藝春秋 文春文庫(初版:H18)

であります。

お初の作家さん、の初短編集です。
デビュー作『フクロウ男』を含む全五編を収録。
例によって一つずつ感想を書いていきます。

『アイスマン』……子供の頃、客引きの少女に連れられて『河童の氷漬け』を見にいった私。しかしそれは河童などではなく――。
なんじゃそりゃ? と言いたくなる、不条理系ホラー。オチも定番で、特に見るべき所はない。

『昨日公園』……幼い頃、遠藤は友達を見捨てた。あの公園で何度も生き返り、何度も死んだ町田を――。
いわゆる、時間の強制力に立ち向かうタイムトリップ物。むか~し読んだ、『はるかリフレイン』という漫画もそうだったが、変えられない運命に何度も立ち向かうという行為は非常に切ない。オチもひねってあり、非常に完成度の高い作品に仕上がっている。一押し。

『フクロウ男』……友人からある男に届いた手紙。そこには驚くべき告白が記されていた。都市伝説の主人公『フクロウ男』の正体は自分だと言うのだ――。
手紙による告白、といった体裁の話。一言で言ってしまえば、フクロウ男と名乗るサイコキラーの話なのだが、都市伝説を作り上げる過程を非常に丁寧に書いており、ラストまで綺麗につなげている。ミステリ的なオチも見事で、さすが新人賞受賞作といったところ。

『死者恋』……謎に包まれた画家・鼎凛子の家を訪れたフリーライターは、今まで語られることのなかった彼女の過去を聞き出すことに成功した。しかし、それは実に奇妙な話で――。
最初から最後まで、凛子がフリーライターに語りかける形式の物語。若くして死んだ天才画家に恋した話に始まり、ある友人の話、その息子の話と移る内に、不気味な空気が行間に漂いだす。ラストの一文はホラー的オチの見本。

『月の石』……死の淵にある妻を励ましつつ、藤田は今日も仕事に出かける。だが、このところずっと気にかかっていることがあった。電車から見えるマンションのベランダに見知った男がいつも立っているのだ――。
ネタ的にはホラーだが、非常に物悲しい雰囲気の話。最後のオチでさらに恐怖をあおるかと思ったが、さらっと終わっててちょっと拍子抜けした。

好きか? と聞かれると微妙なのですが、割と出来のいい作品が揃った短編集です。
タイトルの通り、セピア色という表現がしっくりくる、ノスタルジックな話が多かったかな。

ホラー嫌いでない方にオススメ。
作者と同年代の方は、かなり楽しめるのではないでしょうか。

軽快なはず……なのに

2006-12-10 19:30:00 | ホラー
さて、最近突貫やなぁの第740回は、

タイトル:家族狂
著者:中村うさぎ
出版社:角川書店 角川文庫(初版:H11 単行本初版:H9)

であります。

「ゴクドーくん漫遊記」やその浪費生活エッセイなどで有名になった著者の、毛色の違う作品。
「ゴクドーくん~」シリーズはまったく読む気はしないのだが、サイコホラーと言う裏表紙にちょいと惹かれ、さらに本の薄さ(←重要(爆))から手に取ってみたもの。

ストーリーは……、

ハードボイルド作家の北村は、作品の信念そのままに反オカルト主義者だった。
しかし、ある日、家から帰ってきたら宅配便が置いてあった。ひとり暮らしの北村に、受け取りのはんこを押す人物がいるはずもない。
さらに留守電を設定し忘れたある日、編集者からの電話に伝言が残っていることも。

不可思議な出来事に、反オカルトを標榜する世界観が崩れる危機に見舞われそうになったそのとき、トイレに向かった北村は、トイレに堂々と居座る50絡みの男に出会う。
北村に自分の家だと言い張る中年男の登場に加え、風呂場に現れた10代の女性。
自分たちは家族で、父親の無理心中で死んだ幽霊だと告げてから、北村のマンションには一家4人の幽霊家族が住み着くようになった……。

と書いてみると、なんか単なる幽霊もの、と言う感じではあるけれど、この幽霊家族とは別に、主人公の北村が描くハードボイルド小説の偏執的なファンのストーカーや、そこから発生する事件、北村の過去が絡んでホラーと言うにふさわしい物語になっている。

展開も、北村の軽快な一人称で始まり、北村と幽霊家族とのやりとりなど、可笑しさのある序盤を見せ、中盤から次第にファンのストーカーや事件などからじわじわとホラー色が強くなり、終盤はきちんとサイコホラーをしている。
流れに無理はなく、文章量も適度にあって読み進めやすさがあるが、紙面が白いと言うこともなくバランスがいい。

う~む、初めてこのひとのを読んでみたが、意外におもしろかった。
ラストがちょっと間延びした感があるが、それを考慮に入れても十分楽しめる作品であろう。

普段読まないものばっか

2006-10-08 15:41:35 | ホラー
さて、ここんとこ違うジャンルばっかり増やしてんなぁの第677回は、

タイトル:瞽女ごぜの啼く家
著者:岩井志麻子
出版社:集英社(初版:H17)

であります。

明治時代、岡山県和気藤村には、瞽女屋敷と呼ばれ、盲目の女性たちが暮らす屋敷があった。
その盲目の女性たちは、請われて、または出向いて、三味線や歌で門付けを行い、あるいは按摩をし、あるいは死者の口寄せをすることを生業にしていた。

そんな瞽女たちの中、門付けをしているお芳は、三味線の腕も歌もうまくもないが下手でもなく、いつまで経ってもそんな調子の女性で、按摩のイク姉さんといつも組んで仕事をしていた。
生まれつき、目が見えないはずのお芳は、しかしどこかで目が見え、見ていたことがあるであろう光景を覚えていた。

幾人かの人間たちが、急拵えの竈で牛を煮ている光景。
牛は神の使いとされるこの村では、そんなことをするはずがない光景。

それと似ているように、瞽女屋敷の瞽女頭で、村の分限者の家に生まれたすわ子は、牛の頭を持つ牛女の影を、いつからか感じるようになり、それを酷く怖れていた。
次第に、牛女のせいか、すわ子は体調を崩し、床につく日が続くようになっていた。

そして、その影は、いつしかすわ子やお芳にひたひたと迫り、ふたりの因果を語り始める……。

ホラーであります。
夜中にスタンドの明かりだけで読むべきではない本であります(笑)

アメリカのホラー映画のように直截的な怖さではなく、いかにも日本らしい、ひたひた、じわじわと迫ってくるような怖さのある小説。
単行本としては150ページ足らずと短いながらも、いままで読んだ「女學校」や「自由戀愛」にも通じる、濃密な雰囲気を持っている。
ホラーと言っても、中盤以降の内容は、すわ子やその家にまつわる因果が主体となって描かれているところも、そう感じさせる一因だろうね。

ただ、読みやすさと言う意味ではやや難あり、かな。
お芳、イク姉さん、すわ子の3人の一人称が入れ替わりで語られており、また入れ替わりが1、2ページ程度で行われたり、入れ替わりが頻繁だったりすることがある。
こうした視点の入れ替わりが、作品の雰囲気などの一助となっているところはわかるのだが、物語の流れのよさには逆効果。

また、視点が変わるときに、その前で語り終わっていた時間が戻るところも、流れの悪さにつながっている。

とは言え、この著者らしい濃密な作品世界は十二分に堪能できる。
ただ……やっぱり、ひとを選びそうな作品ではあるし、文章的なところを考えると、さすがに良品とは言いにくい。
なので、総評、及第。

SFとはまた違って

2006-10-07 15:46:01 | ホラー
さて、なんか菅さんづいてんなぁの第676回は、

タイトル:夜陰譚
著者:菅浩江
出版社:光文社(初版:H13)

であります。

またもや菅浩江、そしてまたもや短編、さらにまたもや9編、そしてまたもや長くなりそうな予感……(爆)
最長記録を更新しないようにと思いつつ例の如く各話ごとに。

「夜陰譚」
肥満をコンプレックスにしている私は、自らが隠蔽される夜の闇に安心を見出していた。
いつものように夜の散歩中に、車一台がようやく通れるほどの露地で、電柱に漢数字で「十一」と縦書きされている電柱を見つけ、そしてそこで十一という顔を見ることが出来る男性に出会う。そこで男性は電柱に抱きつき、木の身体を得ることに成功する。

その姿から、昼間の様々な思いを胸に、自らの変容を願い、私は露地のコンクリート塀に十一を刻み始める。
コンプレックスと逃避、そして得た身体は……。

「つぐない」
小学生のころのクラスメイトへの後悔からフリーライターとしてDVドメスティックバイオレンスの取材を行う石沢典恵は、あるDVのサイトで紹介された久御山津和子に取材を行う。
優しく、好感の持てる津和子の、幼少時代からのDVの話を聞くに連れ、きっと津和子ならば過去の後悔の贖罪が出来ると思った典恵だが、次第に津和子の姿を知るに連れ、DVだと思っていたほんとうの原因を知る。

しかし、そのときにはすでに典恵は津和子に追い詰められようとしていた。

怖ぇ~……(爆)
怖いよ、この話……人間が。

「蟷螂の月」
沼地にぽつんと浮かぶ叢で月を見上げる蟷螂……そんな幻影に酔い、優しい姉を尊敬し、思う私の世界。
そんな世界で崇高に月に焦がれる蟷螂を見守りながら、幻影に翻弄される私は、とうとう会社でもその幻影に惑乱していた。
そのとき、いつも優しく微笑む姉ではなく、恐ろしい形相をした姉が現れる。
幸せな幻影の中に表れた不幸せなもうひとりの姉に私は……。

「つぐない」ほどではないものの、これもじゅーぶんホラー。
ラストの一文が、無邪気な感じの言葉になっているぶんだけ余計に怖い。

「贈り物」
沖縄で出会った彼にもらった、彼曰く「人魚の鱗」は、私の部屋で声を発した。
そこにはほんとうに人魚がいて、10人ほどの人魚たちは、私の魅力になる目を褒めそやし、彼が気に入るような目を手に入れるための評価を下すようになる。
彼の理想が鱗を通して、私に彼が認めたその目の美しさを語っている鱗はしかし……。

恋する相手への思い……と言いながら酷く冷めたラストが秀逸。

「和服継承」
狂った叔母とおなじお客さんに酌をするような仕事についた私が、客に叔母との関係や和服の着付けを習ったと言う昔話をする話。
私の語りの形式で、嫣然としたエロティシズムの感じられる作品。
これもラストの一文が見事。

「白い手」
芸大からミヤキ・インテリアへ入社した新卒の佐伯敦子は、小間使いのような仕事ばかりを与えられている脇屋香津美とともに、地下連絡通路にある百貨店のショーウィンドウの企画を進めていた。
香津美の美しいその手をきっかけにしたふたりの関係は、この企画でさらに縮まるが、敦子がこのことの成功によってパリへ行くことになったことで途切れる。
その後、社内でも評判だったバツイチの次長と結婚することになった敦子は、久しぶりに逢った香津美の、ささくれだった手を認める。

ん~、「贈り物」がなければいいのだが、似通った物語でおもしろみも半減。
ただし、ラストの悪意のない敦子の行動は、ストーリーの関係ですんごい嫉妬の権化に。

「桜湯道成寺」
歌舞伎(だと思う)の家元で育った老女が取材を受けて昔語りをする形式で進む話。
幼いころから成長する中で隠し、見えないようにしていた感情を、若先生の結婚を機に舞台で「道成寺」の主役を張ることになった晴れ舞台までを、桜を愛する私が語っている。

桜を愛すると言いながら見え隠れする憎悪や嫉妬と言った匂いを感じさせるところがよい。

「雪音」
3人の社員とともに自然食材などをネットショッピングで売る会社を経営している吉原は、部下の不手際と重く落ちてくる雪音に、身体も心も重みを増す感覚でいた。
そこへ見ず知らずの女性が現れ、自分と入れ替わり、完璧を求める自分とは異なる手法で会社を経営していく。
そんなやり方は認められない吉原は、しかし女性との会話の中で肯定と否定という矛盾を繰り返し……。

これも途中はいままでの話の中で語られるものをアレンジしただけと言う印象でいまいちだったのだが、それでもラストはいいんだよなぁ。

「美人の湯」
午前二時半、美人の湯として名高い露天風呂に入った私は、先客に声をかけられる。
私を含め、3人の女性がいる露天風呂で、容姿の醜さからの出来事を語り合い、久しぶりの楽しさを満喫した私は、翌朝誰にも会わずにすむように宿を後にする。
しかし、その道すがら、逆に宿を訪れる美貌のふたりの少女たちが歩いてきた。

これまたラストの痛烈な皮肉がおもしろい逸品。

さて、総評が難しいなぁ、これ……。
及第以上であることは間違いないのだが、話の途中がいまいちなのがけっこうあるんだよねぇ。
しかもこの短編集や前に読んだ「五人姉妹」にもあった気がするテーマだったりするところもマイナス。

ただ、概ねラストはよく、想像力を掻き立てられる話や余韻の深い話など、多彩。
なので、ラストのよさからマイナス分を勘案して、良品一歩手前、ってところかな。
でも、オススメできる短編集なのは間違いなし。

それにしても、やっぱりまた記事が長くなった……(爆)

感性派向き(?)

2006-09-23 18:24:08 | ホラー
さて、ぢつはミステリなキリ番の第662回は、

タイトル:妖櫻忌
著者:篠田節子
出版社:角川書店 角川文庫(初版:H16 単行本初版:H13)

であります。

起業してまだ年月の浅いアテナ書房の編集者をしている堀口は、著名な女流作家である大原鳳月の突然の死のため、その喪の手伝いをしていた。
その後、鳳月の優秀な助手である若桑律子が、きっと未完で終わるはずであろうと思っていた原稿とともに、自らの小説を持ち込んできた。

以前、律子の話を読み、研究者=論文としてはいいが、小説としては売り物にならないとしていた堀口は、その原稿を読み、ひとつの案を思い付く。
名の売れた若手演出家と死に、話題を提供した大原鳳月を影で支え続けてきた助手の、大原鳳月をモデルとした手記にすれば売れるのではないか、と。

その目論見は当たり、担当している雑誌の売り上げは上昇。
しかし、続きの原稿を見た堀口は、律子の筆に大原鳳月の影を見出す。
律子は、鳳月の遺作を自らの作品として発表しようとしているのではないか。
そんな疑念を持ち、様々な状況からそうした証拠を見つけ、確信するものの、次第に変わっていく律子の様子から理性と感情は乖離していく。

そして、死んだはずの大原鳳月は……。

裏表紙にホラー小説とあったのでホラーに分類はしたけれど、ホラーかなぁ、これ……。
確かに、ホラーっぽいところはないことはないが、ホラーという言葉のイメージとは違う、人間が持つ執着と言ったものの恐ろしさを十二分に感じ取ることが出来る。
だから、怪談のような日本的なぞっとするような怖さや、ハリウッドのB級ホラー映画のような直截的な恐ろしさ、と言うものを期待するとダメ。

この作品は、そうしたものではなく、もっと生々しい恐ろしさ、と言うのが魅力だろうからね。

ただし、やや読みにくい部分があるのが残念。
作中作として、律子が書いた作品の部分があったりするのだが、そうしたところの密度が濃すぎるきらいがある。
作中の人物の作品なのだから仕方がない部分もあるのだろうが、1行あけるなどの区切りをつけて、明らかに異なるもの、と言うところを見せてくれたりしたら、もっと読みやすくなったのではないかと思う。

ただ、雰囲気など、十二分に作品に浸れる……と言うか、引き込まれるものなので十分良品と言えるだろう。

しかし……作中で、時折登場しては主人公の堀口にあれこれと言ったりする村上顕子という女性編集者がいるのだが……。
いい女性キャラだねぇ、このひと(爆)

久々にクロスレビュー

2006-09-13 23:50:46 | ホラー
さて、意図せずして拾ってきた第652回は、

タイトル:水無月の墓
著者:小池真理子
出版社:新潮社 新潮文庫

であります。

小池真理子のホラー短編集です。
表題作を含む8編を収録。
買った後で相棒が読んでいたことを思い出しました。(このパターン多いな)

『足』……頻繁に訪れるべきではないと思いつつも、『私』は今週もまた妹夫婦の家へと向かっていた。不倫関係にある浜田が不在の時の寂しさを紛らせてくれるのは妹の家庭だけだったのだ。ふと、今は亡き叔母・筆子のことを思い出す。彼女もまた、『私』の家によく出入りしていた――。
現在と過去が交錯し、今の『私』と筆子おばさんが少しずつ重なっていく展開は見事。ほとんど完璧に重なったところで、ぶれていたピントを合わせるように、さっと終わらせているのもいい。

『ぼんやり』……喧噪を嫌うナオは、小さな一軒家を借りてぼんやりと生きていた。尋ねてくるのは、学生時代の友人・康代とその娘・こずえ、そして大学生の和春だけ。しかし、康代は来る度に夫の愚痴を撒き散らして、静かな時間にひびを入れる――。
どこか昔を懐かしむような語り口調が印象的。康代の傍若無人さが目立つが、影の薄い和春にもラストで面白い役回りを与えているのは上手い。真相が判明してもぼんやりしたままの主人公の姿が、奇妙な余韻を残す。

『神かくし』……母の七回忌、『私』は以前から折り合いの悪かった父方の叔母に嫌味を言われた。それだけならまだいいが、話は『私』の縁談、そして後妻だった母の中傷にまで及び――。
感情を抑えて笑うことで人との衝突を避けてきた主人公と、彼女の周囲で起こる謎の神隠し事件を描く、非常にホラーらしい話。素直な筋の話だが、ラストの雰囲気作りが素晴らしく、主人公の悲壮感がひしひしと伝わってくる。一押し。

『夜顔』……生来病弱で孤独だった『私』は、ある日出会った三人家族と触れ合うことで安らぎを得た。が、交通事故で重傷を負った弟の回復を祈る内に、再び心身に異常をきたしてしまう。そんな時、夢の中に彼らが現れて――。
寂しがりや達の饗宴。いわゆる『終わりなき連鎖物』で、ホラーはバッドエンドじゃないと駄目! という定義を用いるなら、本書中最もホラーらしい作品。でも、この人の書く話ってあんまり怖くなかったり。

『流山寺』……『私』は今でも十二時には帰宅するようにしている。夫が帰ってくるかも知れないからだ。彼はもう生者ではないが、自分が死んだことに気付いていない――。
妻が夫に対する想いを語る前半はいいが、ぼやかしたような後半部分はイマイチ。今まで(前の四編)のこともあって、ちょっと裏読みしてしまったが、あまり深く考えなくても良かったようだ。(爆)

『深雪』……大学生の保夫は、十日間で十万円という破格の短期アルバイトを引き受けた。別荘地内を巡回し、電話番をするだけの楽な仕事。だが、よりによって最終日に大雪が降り、彼は管理事務所で朝を待つハメになってしまう――。
ストレートな幽霊物。深夜の電話、豪雪を越えて来る訪問者、といったお約束の小道具を使い、色々期待させてくれるが、特に大きな仕掛けはなかった。ただ、サブで登場する狐がいい味出している。

『私の居る場所』……子供の頃、『私』は奇妙な世界を訪れたことがある。ある筈の家がなく、人の姿も見えない静寂の地。あの時は帰ることができたが、今度は――。
ちょっとしたヒネリを加えた異界訪問譚。一度目の転移は単なる異常現象のように描かれているが、二度目の転移の際、それが主人公の心理に起因していることが判明する。ラスト一行がかなり秀逸。

『水無月の墓』……ある雨の日、偶然にも『私』は阿久津と出会った場所を訪れていた。かつて不倫関係にあり、事故で失った男。二十数年が過ぎ、彼との関わりは綺麗さっぱり消えてしまった。だがその晩、彼の助手であった梶原から電話があり――。
以前読んだ、『康平の背中』(『七つの怖い扉』収録)に似ているな……と思ってたら、尻切れトンボなとこまで同じだった。結局何なの? と言いたくなるこのテの作品はあまり好みでない。

スプラッタではなくサイコ系のホラーでした。
じわじわと読者を追い詰めていくことより、丁寧に主人公の心理を追っていく方に重点を置いているため、ラストで不条理さを感じることが少ないのは結構好み。
ま、その分、筋が読みやすかったり、全然怖くなかったりするんですが、雰囲気作りが上手いのでさほど気になりません。ホラーというジャンルにこだわらなければかなり楽しめるのではないかと。

これは絶対読んどけ! と言うほど突き抜けた当たりはありませんが、読める作品の多い短編集です。オススメ。
ちなみに、LINN君の記事はオチまで喋っちゃってるので、未読の方はご注意下さい。(手遅れ?)


☆クロスレビュー!☆
この記事はSENが書いたものです。
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