つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

続いてしまいました

2006-08-22 23:18:18 | ファンタジー(異世界)
さて、目指せ666回(笑)な第630回は、

タイトル:抗いし者たちの系譜 虚構の勇者
著者:三浦良
出版社:富士見書房 富士見ファンタジア文庫

であります。

先週紹介した、『抗いし者たちの系譜 逆襲の魔王』の続編です。
前回のラスが完璧だったので、続編書いて大丈夫なのか? と危惧していたのですが……さて。



遍歴三年、一枚の書簡が大陸統一国家サッハースの重臣達の元に届いた。
そこに書かれた短い一文は、瞬く間に宮廷内に広まり、多くの者を動揺させる。
散々悩んだ末、帝国宰相スキピオは皇帝サラ・シャンカーラにその件を報告した。

報告を受けてもサラは動揺を示さなかったが、スキピオの仕事は終わらなかった。
書簡の文面について対策会議を開くものの、謀臣達の議論には果てがない。
ようやく出た結論は、疑わしき者に監視を付ける、というものだった……。

問題は他にもあった、近く、皇帝サラが城を留守にするのである。
スキピオは皇帝不在時の精神的支柱としてラジャスを指名する。
だがそれは、非力な人間でしかない彼が元魔王と対峙し、説得せねばならぬことを意味していた――!



モロにスキピオ視点で書きましたが、本作の主人公はサラ・シャンカーラです。(笑)
前作からさほど時間は過ぎておらず、例によって、帝国を支えるサラ+スキピオ+グレンデルの会話で物語はスタートします。
皇帝暗殺未遂事件が終わり、ようやく普通の生活を送れるかと思いきや、またも新たな問題を抱えてしまうあたりはさすが新興国家ですね。(爆)

書簡の内容に付いては、先に解っちゃうと興醒めなので読んで確かめて下さい。
カバーの粗筋に書いてあるのが気に食わんが……誰だ、解説書いた奴!
ともあれ、この一文により帝国内部は揺れ、再び謀略の嵐が吹き荒れます。

ただ、この作者、謀略物が好きなのは解るんだけど上手いかと言われると……疑問。

前巻でとにかく引っかかった、『表も裏も作者が細かく解説してしまう』という点は、スキピオをメインに持ってきて、彼の葛藤に重点を置くことである程度解消されています。
でも、会議で登場する謀臣達の無能っぷりはひどいし、ラス手前で唐突に犯人として差し出された方の犯行理由も幼稚で、やっぱり知略戦を上手く書けているとは思えない。
おまけに最後は、すべてを理解しているスーパーキャラ二人が事態を収拾してしまうというアレな仕様で……ラジャス先生何しに出てきたんだか。(爆)

サラの出番を押さえた代わりに、章の合間に彼女の過去話を入れているのも蛇足。
今更、サラの凄さを強調してくれなくてもいい、って感じです。完全に作者の自己満足。
対決シーンの最後で某キャラが言った台詞は笑えたけど、それだけかな。

とまぁ、マイナス面は多々あるのですが――

スキピオ君楽しいから許そう。

強く正しく美しいけど中身はボケボケな宰相付秘書官ティアカバンが登場したおかげで、前巻よりさらにキャラが立っています。
ラジャスとの対面で、地味~に再登場しているホウキがフォローを入れるシーンは感涙もの。うんうん、非力だけどいい感じに慕われてるよねぇスキピオ君。
他にも、いかにも一癖ある軍司令ウィチィロポチトリが登場したり、ちょっと帰ってきたフェルグスが割と美味しい台詞をもらってたりと、今回もキャラ物としてはいい感じです。

出番は少ないものの、最後はちゃんとサラとラジャスでシメているのも好印象。
ただ、さらに続きが出ることが前提になっているので、前作ほど綺麗に終わってはいません。次巻できっきり完結することを期待すればいいんだろうけど。
個人的には、スキピオと双璧をなす近衛隊長グレンデルの活躍も見てみたかったりしますが、人間中心のこの話のカラーからすると、やっぱり脇で終わるのかなぁ。

少々パワーダウンした気はしますが、読める作品ではあります。オススメ。
最後のおまけ漫画がかなりいい味出しているので、スキピオファンは要チェックです。(笑)