つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

タイトルには合うけれど

2006-08-19 15:55:33 | 恋愛小説
さて、相変わらず解説はアテにならないの第627回は、

タイトル:アクアリウムの鯨
著者:谷村志穂
出版社:角川書店 角川文庫

であります。

ダニの天敵学を研究している助教授のもとで助手をしている辻伽代子は、いつものようにダニの飼育、観察を行い、それを助教授の仲本へ報告する毎日を送っていた。
そんな毎日を送っていたあるとき、仲本から「ネイチャー・ワールド」と言う雑誌の企画に同行することを頼まれる。

雑誌の編集者と会い、どうするかを決めようと打ち合わせに向かった伽代子は、丸山と言う女性編集者に出会い、結局同行することに決める。
取材場所は瀬戸内海に浮かぶ無人島。
1週間の生態調査を目的としたその旅で出会った動植物、昆虫、魚類、そしてダイバーとして参加した高校生の拓也。

伽代子とおなじように仲本を愛する丸山や、拓也との関わりの中で、不器用で臆病な伽代子は次第に前に進んでいく。

あー、なんかストーリー紹介をするのでさえ、億劫……。
「自然を愛し、動物を、人間を愛するナイーヴでナチュラルな女性を描いた」とは裏表紙の紹介文だが、まぁ、確かに主人公の伽代子はそういう感じのキャラで、偽りはなかろう。
だが、繊細すぎるキャラはいくら心理描写などが十分だろうが、作品の中に没して個性が感じられない。

また、丸山や拓也という伽代子の周囲にいるメインキャラも、伽代子の引き立て役、もしくはストーリー上のパーツでしかなく、影の薄い伽代子に増して影が薄い。
まぁ、薄いキャラの後ろにいるんだから余計薄いのは当然だが。

ただ、作品そのものの雰囲気や描写などについては、タイトルにある「アクアリウム」という単語にふさわしい透明感を備えている。
特に、動物生態学を専攻していたと言うだけあって、無人島での生態調査のところの描写はとても充実しており、さりとて雰囲気を壊すようなことはないところはいい。

……と、いいところがないわけではないが、全体として透明感があるそれがすっきりとしたものではなく、重く単調な感がある。
長編としてはページ数は少ないからいいものの、このままでだらだらと長く続けられたら苦痛以外の何物でもないだろうねぇ。

総評、落第。