つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

ピエロと言えば『IT(イット)』

2006-08-21 23:45:03 | ミステリ
さて、何だかんだでまたミステリを読む第629回は、

タイトル:重力ピエロ
著者:伊坂幸太郎
出版社:新潮社 新潮文庫

であります。

お初の作家さんです。
普通は短編から入るのですが、タイトルに惹かれたので手に取ってみました。
ショートショートのように細かく切った章が連続しているので、最初はちょっと戸惑いました……慣れたけど。



『私』には春という名の弟がいる。
私達は半分しか血がつながっていない、父親が異なるのだ。
口には出さないものの、春はずっとその半分の血を呪い続けている。

この所、仙台市内では放火が頻発しており、私の会社も被害に遭った。
同期の男が放火魔遺伝子の存在を口にするが、私はきっぱりとそれを否定する。
遺伝子が全てを決定するのなら、春の苦悩は現実のものとなってしまうからだ。

春から電話があった、会社が無事かどうかの確認だった。
私は、なぜ事前に放火を予測できたのかを尋ねてみる。
春は言った、放火事件にはルールがあると――。



兄と弟と父、三人の想いが絡み合う長編ミステリ。
全編、主人公(兄)の一人称単数、別視点からのフォローはありません。
メイン三人に亡き母を加えた四人家族の姿を描くことに重点を置いており、過去を振り返る会話、及び、回想シーンが非常に多いのが特徴。

メインストーリーは、兄弟が連続放火事件の推理を進める内に、現在進行形の事件と春の出生に関わる過去の事件が接近していくというもの。
これに、ガンのため入院している父との対話、春に執着する女性との接触、主人公独自の事件調査等のサブストーリーを加えることで、物語のバランスを取っています。
メイン、サブ共に会話が多いのですが、遺伝子法則、進化論等、専門的な話題が多いため、興味が持てない方にはちと辛いかも。
(しかもこれらは兄弟の人格を構成する重要パーツなので、読み飛ばすわけにもいかない)

ミステリとしては綺麗にまとまっています。
出した要素の殆どを回収し、主人公達の物語にもきっちり決着付けているので、矛盾点を気にする人でも引っかかることはあまりないかと。
もっとも、伏線の張り方から最後のオチに至るまで、すべてが素直過ぎるため、簡単に先が読めて実際その通りになってしまうという不満もありますが……。

個人的には好きだけど、非常に人を選ぶ作品なのでオススメは付けません。
ミステリとしてではなく、謎解き要素を入れた青春小説と割り切って読むべき。
どちらかと言うと翻訳物に近い文章なので、そこも好みが分かれる所かと。