つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

加納伝説スペシャル

2006-07-17 23:41:08 | ミステリ
さて、早々と続編も読んでしまった第594回は、

タイトル:虹の家のアリス
著者:加納朋子
文庫名:文春文庫

であります。

『螺旋階段のアリス』の続編です。
例によって一つずつ感想を書いていきます。

『虹の家のアリス』……安梨沙の伯母・篠原八重子が教師を務める『お教室』にて、仁木は主婦の一人ミセス・ハートから相談を受ける。彼女の所属する『虹の会』で、立て続けに奇妙な事件が起こったというのだ――。
いきなり一押し。「ころす」などという物騒な手紙の話が出て、すわ出動か? と思わさられるが、きっちりその場でカタを付けてしまう辺り、仁木さんも大したものだ。オチの美しさは特筆もの。ミセス・ハートの人柄も相まって、非常に爽やかな作品になっている。序盤で八重子が語る、安梨沙の危うさに付いての考察も的を射ていて良い。

『牢の家のアリス』……会社を辞めて一年が過ぎ、いよいよ独力で事務所を維持しなくてはならなくなった仁木。浮かない顔の所長に、安梨沙は依頼人探しを勧め、以前関わった人物の名を挙げた。気乗りしないまま電話をかけた仁木は、相手がちょうど問題を抱えていることを知り、絶句する。
事件自体は安直の一言で済む程度のもの。証拠が多すぎて、正直萎える。オチが少しひねってあり、安梨沙がその暗黒面を見せるところだけは面白い。つーか仁木さん、いい加減夢から覚めたらどうですか?

『猫の家のアリス』……篠原八重子を介して依頼を受けるため、再び『お教室』を訪れた仁木。現れた依頼人・美樹本早苗は馴染みの掲示板で問題視されている事件のことを語り、次は自分の番かも知れないと悲壮な顔を見せるのだが――。
もうとにかく依頼人の早苗に付いていけない作品。喋る時は主語を入れろ、貴様の常識と一般常識のズレぐらい認識しとけ、自分で守れないものを山ほど抱えて浸るな鬱陶しい、と偏見全開の言葉を投げたくなるぐらい嫌いなタイプ。ラストもやれやれといった所で、全体的に疲労感しか覚えない作品だった。ただ、探偵が解決するトラブルとして非常にらしいもの、とは言えるだろう。

『幻の家のアリス』……一度実家に帰って着替えを取って来たい、と希望した安梨沙に従って、仁木は彼女の家に車を走らせる。そこで出会ったハウスキーパー・納谷蕗子からの依頼。それは、こっそりと安梨沙の真意を探って欲しいというものだった――。
安梨沙というキャラクターを構成するパーツがまた一つ明らかになる話。彼女が昔書いたという作中作も登場し、どこか『ガラスの麒麟』を彷彿とさせる。仁木の娘・美佐子や安梨沙の元婚約者・栄一郎が登場し、最終話の足場固めをしていく、全体を通して考えると非常に重要な一編。ただ、妙に印象が薄いのはなぜだろう……?

『鏡の家のアリス』……珍しく、仁木は息子・周平の呼び出しを受ける。親に対する相談かと思いきや、やはり用があるのは探偵の自分に対してだった。結婚を考えてる女性が、ストーカー被害に遭っていると息子は語るが――。
善人がいて、悪人がいて、善人同士がくっついてめでたしという、加納朋子にしては実に薄っぺらで安易な物語。悪役のキャラクターがほとんど機械人形なのも驚くが、唐突に『事件が解決した』ということになってしまうラスも違和感が拭えない。それと周平君、『並はずれて心がきれいで優しい女性』って、どこの夢の国の住人ですか?(毒)

『夢の家のアリス』……仁木は個人的な問題に頭を悩ませていた。美佐子に縁談の話が持ち込まれたのだ、しかも自分の元上司から。しかし、そんな想いを断ち切るかのように、事務所には嵐が吹き荒れていた。同時に三つもの依頼が来ていたのである――。
様々な要素が交錯し、ともすれば空中分解しそうになる話を綺麗にまとめ上げている完結編(続いたりして……)。僅かなページ数でこれだけの要素を関連づけ、連作短編のトリとしての役割も持たせている力量は賞賛に値する。ようやく安梨沙の抱える問題と向き合うことができた仁木の、「いつも笑っているっていうのは、結果的にひどく不誠実なことなのかもしれないよ」という台詞は非常に美しい。

タイトルに『家』が付いていることからも解るように、ミステリ色が薄れ、ホームドラマの色が濃くなった続編です。
私の場合、好きな短編と嫌いな短編がくっきり別れてしまったので評価は微妙……趣味の問題だとは思うけど。
ただ、安梨沙と仁木の関係にまた一つ変化があるので前作のファンは読んどくべきでしょう、好みが合わないにしてもね。


☆クロスレビュー!☆
この記事はSENが書いたものです。
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