つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

ナナミズム全開

2006-07-31 23:26:23 | ミステリ
さて、このタイプの主人公は珍しい第608回は、

タイトル:死んでも治らない
著者:若竹七海
文庫名:光文社文庫

であります。

若竹七海の連作短編集です。
表題作を含む五編+αを収録。
例によって一つずつ感想を書いていきます。

『死んでも治らない』……嫌々なった警察官を辞め、その時の体験を元にして『死んでも治らない』という本を書き上げた大道寺圭。だが、彼は自称『プロの犯罪者』を名乗るトレーシーという男に誘拐されてしまう。相手はしきりに自分の優秀さを吹聴した上で、ある事件の話を始めるが――。
ダークヒーロー大道寺圭登場編。間抜けな犯罪者のエピソードをまとめた本を出すという神経も凄いが、口より先に手が出てしまうあたり、葉村晶の裏キャラと言ってもいいかも知れない。ストーリーにヒネリはないものの、ラストで悪党に放つ皮肉たっぷりの台詞が気持ちいい逸品。

『猿には向かない職業』……馴染みのスリ・花巻が厄介なトラブルを持ち込んできた。大道寺の著作のせいで自分がスリであることがばれ、娘が家出してしまったと言うのだ。責任取って、娘を探して欲しいと花巻は迫るが――。
自業自得だろうよ、と言いたくなる依頼人のキャラクターは、葉村晶のシリーズに通じるものがある。ただ、こっちの場合、主役の性格にもかなり問題があると思うが(笑)。序盤の仕掛けは面白いのだが、強引かつ唐突なラストに閉口。味も素っ気もないのがハードボイルドと言ってしまえばそれまでなのかも知れないが。

『殺しても死なない』……大道寺は、幼馴染みの編集者・彦坂夏見に尻を叩かれて、ようやく二作目『殺しても死なない』を発表した。しばらくぶりの暢気な目覚めの後、彼は郵便受けに妙な手紙が入っていることに気づく――。
作家を悩ますものの一つ、相手の苦労も考えずに自分の作品を送りつけてくる無神経な奴、を扱った作品。微妙に内容を変えた原稿を何度も読まされるため、かなり疲れた。ただ、手紙の裏に隠された真相と、大道寺のケリの付け方は好き。

『転落と崩壊』……何の因果か、事故死した作家の原稿を引き継ぐことになった大道寺。活火山の支配下にある山荘に資料を取りに行くハメになった上、不愉快極まりない人物達の相手までしなくてはならなくなるのだが――。
イチオシ。短編としては本書の中で一番上手くまとまっている。出てくるキャラクター全員に毒がある上、大道寺もかなりダークな面を見せる、らしい作品。(笑)

『泥棒の逆恨み』……葉崎文化センターで講演を行うことになった大道寺。しかし、送り迎えの車に乗っていたのは――。
これ一本だけ妙に浮いている作品。かなり毒の薄い話で、犯人二人のキャラクターも相まって、最後まで気楽に読める。短編特有のトリックがあり、見事に引っかかってしまったのがちょっと悔しい。

『大道寺圭最後の事件1~6』……独立した短編を、最初と最後及び、各編の間に分けて挿入したもの。大道寺が警察を辞めるきっかけとなった事件を扱っており、各短編のヒントも入っている。試みとしては面白いが、話に魅力を感じるかと言うと疑問形。ラストの大道寺の台詞が、その後の事件を暗示しているのはなかなか良い。

毒満載の若竹七海復活、と言った所でしょうか。
葉村晶物と同じ感覚で読める反面、事務的に事件を処理する退屈な描写まで同じなのがちと残念。
それぞれ独立した短編をつなげるため、間に別の話を挿入しているものの、全体的にまとまっていないのもマイナス。別に無理に連作っぽくしなくてもいいんだがなぁ……。

ただ、別作品に登場したキャラクターが登場したり、葉村よりもカタルシスが増加してたりするので、若竹ファンなら読んでも損はないかと思われます――オススメ(?)。



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