つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

ギフトは天使……?

2006-03-11 16:39:12 | ミステリ
さて、2週間ぶりにご登場願うの第466回は、

タイトル:虹の家のアリス
著者:加納朋子
出版社:文春文庫

であります。

螺旋階段のアリス」に続く2作目で、大手企業の早期退職制度を利用して私立探偵に転身した仁木順平と、押しかけ助手の市村安梨沙が営む探偵事務所へ持ち込まれた依頼をこなすミステリ。

今回も短編連作で6本の作品が収録されている。

「虹の家のアリス」
表題作にもなっている作品で、安梨沙の伯母である篠原八重子とのやりとりから始まる。
唯一市村家へ意見できる八重子に、安梨沙が助手として働くことを認めてもらうためと、八重子が開いている「主婦道」……様々な場面での作法や礼儀を若い主婦たちに教える教室に来ている主婦のひとりの依頼を受けるために、仁木は八重子の家を、安梨沙とともに訪れていた。

ここでの依頼は、仁木がミセス・ハートと呼ぶ主婦が属する育児サークルで起きる出来事を解決する、というもの。
サークルで使っている児童館の多目的ルームの鍵が隣の多目的ルームのとすり替わっていたり、してもいない予約の取り消しの電話が児童館にあったり、そしてとうとう新聞を切り取っただけの文章で「ころす」と脅迫があったり……。

こうしたことでミセス・ハートは仁木にこの出来事に、相談を持ちかけてきた、と言うのだが、やはり初っぱなからミステリらしいネタふり……と思いきや、加納朋子らしいオチがついていて、ほっと出来る作品。

「牢の家のアリス」
前作でも登場した産婦人科医を経営している青山医師の病院で、生まれたばかりの赤ん坊が誘拐された、と言うことを仕事がないので営業をするべし、と言う安梨沙の薦めで青山病院に電話をかけたときに知ったところから始まる。

最初が「ころす」と言う文字からの脅迫、そして誘拐。
これまたミステリらしいネタふりだけど、実際に殺人だのと言った陰惨な方向に向かわないのが加納朋子らしいところ。

「猫の家のアリス」
1話目とおなじく、八重子の教室に出入りする猫好きの早苗という女性からの依頼で、猫好きが集まるネットの掲示板で書き込みがあった猫殺しの犯人を突き止めると言うもの。
掲示板への書き込みでは、アミちゃん、ボンちゃん、キャンディちゃんと、ABCの順に犠牲になっており、早苗の飼っている11匹のうち、次はDから始まるダニエルが犠牲になるのではないかと不安になってのことだった。

昨今現実でもあるような動物から人間へ……なんてことはやはりなく、早苗を取り巻く青年やかかりつけの動物病院の獣医などの人間模様と謎がうまく絡み合っている。

「幻の家のアリス」
ある少女の不思議な物語の断片から始まるこの短編は、純粋に謎解きをする話ではなく、前作の7つ目の話にも通じる安梨沙にまつわる話。
衣替えの季節になって、実家に着替えなどを取りに戻る安梨沙とともに、市村家へ訪れた仁木は、市村家へお手伝いをしている納谷蕗子という女性に、なぜ安梨沙がいままでのように自分に接してくれないのか、その原因を探ってほしい、と依頼される。

いつもにこやかに、明るく聡明な安梨沙の、ひとりの人間としての姿を垣間見ることが出来る話。

「鏡の家のアリス」
前作では名前しか出てこなかった仁木の息子の周平からの依頼で、結婚を考えている女性の由理亜につきまとうストーカーをどうにかしてほしい、と言うもの。
ストーカーと言っても、男性ではなく女性で、社員寮に暮らす周平には無理だから、その相手の由理亜に対して嫌がらせをしている、ということだった。

う~む、いろいろと書けることはあるのだが、これ以上書くとネタバレになってしまうのが痛い……。
あえて書くとすれば、由理亜とストーカーである田中明子という女性から見える人間が持つプラスとマイナスの対比が、ふむと頷かされる。

「夢の家のアリス」
いくつかの話が混在して1本のストーリーになっている話だが、ミステリとしてのメインは八重子の教室からの紹介で依頼があった花盗人の犯人を見つける、と言うもの。
他の話は、「鏡の家のアリス」と似ていて、仁木の娘である美佐子のお見合いの話だったり、「幻の家のアリス」のような安梨沙にまつわる話だったりする。

花盗人のほうは、盗まれた花がすべて香りの強い品種ばかりで、埋めた屍体の腐臭を隠すために……なんて推理も出てくるけれど、まぁ、そこはそれ、いつもどおり、と言うことで(^^

それにしても、今回は謎解きよりも、いつも以上に、仕事がない哀愁を漂わせる仁木や、その子供たちの結婚話などのホームドラマっぽい印象が強い。
それとラストのほうで仁木が天使だと思っていた安梨沙に、「尖った尻尾が生えて、近頃じゃどうやら角まで生えたらしいね。」と語るように、安梨沙に関わるストーリーの印象も強い、かな。

まぁ、おもしろいかおもしろくないかは、もう言わずもがななので言わないけど、これはけっこう「螺旋階段のアリス」と続けて読むのがいいかもしれない、と思ったりして。


☆クロスレビュー!☆
この記事はLINNが書いたものです。
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