つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

一番恐いのはだ~れだ?

2006-07-05 23:35:56 | ミステリ+ホラー
さて、割と拾い物だった第582回は、

タイトル:ブラディ・ローズ
著者:今邑 彩
文庫名:創元推理文庫

であります。

お初の作家さんです、何となく拾ってきました。
薔薇が咲き誇る洋館の女主人となった主人公に、何者かの悪意が迫ります。



去年の五月、相澤花梨は苑田俊春と出会った。
東京のど真ん中にある洋館、その庭園で彼は薔薇の木を見回っていた。
薔薇という共通の話題を介して、花梨は俊春の茶会に誘われる。

俊春は、薔薇好きの妻・雪子を事故で亡くしたという。
一方花梨は、薔薇好きだった父を失い、孤独を感じていた。
花梨は、最初の出会いの時に俊春を父と錯覚したことを告白し、貴方もそうではないかと期待を込めて尋ねるが、俊春は即座に否定した――貴方は雪子には全く似ていない。

俊春の妹・晶の話により、雪子は事故ではなく、自殺であることが判明した。
さらに、俊春の後妻・良江が現れたことにより、花梨はショックを受ける。
それでも……お茶会に参加することをやめることはできず、数ヶ月が過ぎた――。



正直、序盤は痛かったです。
孤独を埋める方法を探している主人公、薔薇の庭園での運命的な出会い、再婚したものの幸せを感じていない男……おいおい、シンデレラストーリーかよっ! と三歩ぐらい後退。
花梨と俊春はどちらも夢見がちと言うかかなり妄想入ってる性格で、晶もファンタジー世界に生きてるような台詞を吐きまくる変人、そして話題は伝説の美少女・雪子に薔薇の歴史!

ここは私の馴染める世界じゃなさそうだ……と、本気で退却しかけたが、さすがにこれだけでレビュー書くのは問題あるのでもう少し読んでみる。

すいません、一気に読めました。

良江が雪子と同じ死に方をして、花梨がその後釜に座った途端、妙に甘ったるかった空気が毒満載のダークなカラーに変貌。
特殊な便箋に入った脅迫状が届くわ、自殺する直前までの良江の日記が見つかるわ、雪子の存在自体が不気味だわと、甘い妄想を一気に吹き飛ばすハードな展開がいい。
役に立たない旦那、不審な発言を繰り返す晶、雪子の話になると目の色を変える家政婦、おどおどしてるが怪しい位置にいるお手伝い、謎の園丁に囲まれた花梨の明日はどっちだ!
(実は花梨もどちらかと言うとダークサイド寄りだったりしますが……あははは)

モロ私好みの世界というのをさっ引いて、単純にミステリとして読んでもいい出来でした。
密閉型ミステリのお約束として、主人公以外全員疑わしいように描いてありますし、三番目の妻である花梨が二番目の妻と同じ体験をするという仕掛けも面白い。
そして、何と言っても秀逸なのがエピローグ! この真相と毒は素敵だ……。

それでも一応、引っかかるところはあります。
些細と言えば些細なのですが、同じ疑問を感じた人がいないか聞いてみたいところ。
(以下、ネタバレなので反転)
序盤(P32)、晶は雪子の部屋に入り、出窓から死体を確認したことを告白しています。
にも関わらずP75では、さも当然のように自分は雪子の部屋に入ったことはないとぬかし、花梨も晶の足が不自由だからという理由でそれを認めています。
花梨が健忘症なのか、単純に作者のミスなのか?


ミステリというよりはホラーです、でもオススメ。
腹に一物抱えた人々の不気味な戦いを御堪能下さい。