さて、前から書こうと思っていた第595回は、
タイトル:ヒストリエ(1~3巻:以下続刊)
著者:岩明均
文庫名:アフタヌーンKC
であります。
かの傑作『寄生獣』の作者が送る古代史物語。
後にアレクサンドロス大王の書記官となるエウメネスを主人公に、紀元前300年代の世界をひたすらハードに描きます。
紀元前343年、アリストテレス一行はスパイ容疑でペルシア帝国に追われ、ヨーロッパの都市カルディアを目指していた。
軍の追っ手が迫っているにも関わらず、わざわざ陸路を寄り道してトロイヤ遺跡を見学するアリストテレス、そして、海路を塞がれることを危惧する弟子。
そんな折、彼らは小舟で向こう岸に渡ろうとしている青年エウメネスと出会う。
エウメネスは、かつてカルディアの富裕市民の子だった。
だが、その出自は異民族トラキア人であり、それ故に彼はそれまでの身分を剥奪され、奴隷として都市を出ることになったのだ。
書を愛する生活、美しき女戦士の最期を見る夢、一人のトラキア人との出会い、父親の死、そして途方もない長征行……記録者となり、後に記録される側に回った男の物語が始まる――。
歴史物を書くに当たって最大の障害は『その時代の常識』だと思いますが、本作はそのハードルをかなり高いレベルでクリアしています。
『ヘウレーカ』もそうでしたが、登場人物の会話や態度から読み取れる思考回路が非常に、らしい、のです。
象徴的なものの一つに奴隷に対する描写があります。
第一話でいきなり、エウメネスはアリストテレスの弟子に奴隷扱いされます。
弟子に比べると比較的柔軟な考え方をするアリストテレスですら、「自主を好むギリシア人に比べ、異民族の方に奴隷向き性質の人間が多いのは確かだろう」という発言をする。
しかしこれは彼らがギリシア人であることを考えれば極めて自然な態度です、なぜなら、彼らにとってはそれが当たり前だからです。
(『無知の知』で有名などっかの偉そうな人すら、奴隷制に疑問を提示したりはしていませんしね)
では使われる方もそう思っていたでしょうか? 無論、そんなわきゃありません。
彼らは飽くまでギリシア人の定めた枠に従わされているだけです、当然中には反乱を起こす者も現れます。
じゃあ、彼らを平気な顔して使っている者達は悪逆非道な連中ばかりかと言うと、そうではないわけで……。
岩明均の恐ろしいところは、そこに現代人の常識を持ち込むことを極力避け、飽くまでこの時代の常識は常識と割り切って淡々と物語を進行していく点にあります。
(だからって冷たい視点で見てるってわけではない)
富裕層から一気に奴隷になったエウメネスは非常に冷静かつドライな視点を持っており、一級のナビゲーターとして我々を古代世界へと誘ってくれます。
図書室に入り浸って身に付けた豊富な知識と、持って生まれた遊牧民族特有の荒々しい感覚、二つの武器を駆使して、彼はカルディアからティオス、さらに――。
って、まだ連載中なのでこの先どうなるか解りませんけど。(笑)
問題があるとすれば……やっぱり絵でしょうか。
正直、爬虫類という形容がぴったりな顔は、かなり人を選ぶと思います。
さらに、蝋人形のような死体がゴロゴロ出てくるので生理的に受け付けない人も多いかと。斬られた断面が黒で塗りつぶされているのも、気持ち悪さを助長してるし……。
絵が合わない方にはオススメしませんが、個人的にはかなり好きな作品です。
世界史好きなら、読んで損することはまずありません。
タイトル:ヒストリエ(1~3巻:以下続刊)
著者:岩明均
文庫名:アフタヌーンKC
であります。
かの傑作『寄生獣』の作者が送る古代史物語。
後にアレクサンドロス大王の書記官となるエウメネスを主人公に、紀元前300年代の世界をひたすらハードに描きます。
紀元前343年、アリストテレス一行はスパイ容疑でペルシア帝国に追われ、ヨーロッパの都市カルディアを目指していた。
軍の追っ手が迫っているにも関わらず、わざわざ陸路を寄り道してトロイヤ遺跡を見学するアリストテレス、そして、海路を塞がれることを危惧する弟子。
そんな折、彼らは小舟で向こう岸に渡ろうとしている青年エウメネスと出会う。
エウメネスは、かつてカルディアの富裕市民の子だった。
だが、その出自は異民族トラキア人であり、それ故に彼はそれまでの身分を剥奪され、奴隷として都市を出ることになったのだ。
書を愛する生活、美しき女戦士の最期を見る夢、一人のトラキア人との出会い、父親の死、そして途方もない長征行……記録者となり、後に記録される側に回った男の物語が始まる――。
歴史物を書くに当たって最大の障害は『その時代の常識』だと思いますが、本作はそのハードルをかなり高いレベルでクリアしています。
『ヘウレーカ』もそうでしたが、登場人物の会話や態度から読み取れる思考回路が非常に、らしい、のです。
象徴的なものの一つに奴隷に対する描写があります。
第一話でいきなり、エウメネスはアリストテレスの弟子に奴隷扱いされます。
弟子に比べると比較的柔軟な考え方をするアリストテレスですら、「自主を好むギリシア人に比べ、異民族の方に奴隷向き性質の人間が多いのは確かだろう」という発言をする。
しかしこれは彼らがギリシア人であることを考えれば極めて自然な態度です、なぜなら、彼らにとってはそれが当たり前だからです。
(『無知の知』で有名などっかの偉そうな人すら、奴隷制に疑問を提示したりはしていませんしね)
では使われる方もそう思っていたでしょうか? 無論、そんなわきゃありません。
彼らは飽くまでギリシア人の定めた枠に従わされているだけです、当然中には反乱を起こす者も現れます。
じゃあ、彼らを平気な顔して使っている者達は悪逆非道な連中ばかりかと言うと、そうではないわけで……。
岩明均の恐ろしいところは、そこに現代人の常識を持ち込むことを極力避け、飽くまでこの時代の常識は常識と割り切って淡々と物語を進行していく点にあります。
(だからって冷たい視点で見てるってわけではない)
富裕層から一気に奴隷になったエウメネスは非常に冷静かつドライな視点を持っており、一級のナビゲーターとして我々を古代世界へと誘ってくれます。
図書室に入り浸って身に付けた豊富な知識と、持って生まれた遊牧民族特有の荒々しい感覚、二つの武器を駆使して、彼はカルディアからティオス、さらに――。
って、まだ連載中なのでこの先どうなるか解りませんけど。(笑)
問題があるとすれば……やっぱり絵でしょうか。
正直、爬虫類という形容がぴったりな顔は、かなり人を選ぶと思います。
さらに、蝋人形のような死体がゴロゴロ出てくるので生理的に受け付けない人も多いかと。斬られた断面が黒で塗りつぶされているのも、気持ち悪さを助長してるし……。
絵が合わない方にはオススメしませんが、個人的にはかなり好きな作品です。
世界史好きなら、読んで損することはまずありません。