「いじめをふせぐ処方箋」(23)
『育てたい表現力』ーアルシンドの覚書より―
「いじめをふせぐ処方箋」(19)
『育てたい表現力』ーアルシンドの覚書―(補足)
「会話」への理解を深める
-小説の中の会話ー
本当に「痛かったのか」、小説の中の会話を考える。伝えたいものは何かを考える。
握手
(前略)
ルロイ修道士は壁の時計を見上げて、
「汽車が待っています。」
と言い、右の人さし指に中指をからめて掲げた。これは「幸運を祈る」「しっかりおやり」という意味の、ルロイ修道士の指言葉だった。
上野駅の中央改札口の前で、思い切ってきいた。
「ルロイ先生、死ぬのは怖くありませんか。わたしは怖くてしかたがありませんが。」
かって、わたしたちがいたずらを見つかったときにしたように、ルロイ修道士は少し赤くなって頭をかいた。
「天国へ行くのですから、そう怖くはありませんよ。」
「天国か。本当に天国がありますか。」
「あると信じるほうが楽しいでしょうが。死ねば、何もないただむやみに寂しいところへ行くと思うよりも、にぎやかな天国へ行くと思うほうがよほど楽しい。そのために、この何十年間、神様を信じてきたのです。」
わかりましたと答える代わりに、わたしは右の親指を立て、それからルロイ修道士の手をとって、しっかりと握った。それでも足りずに、腕を上下に激しく振った。
「痛いですよ。」
ルロイ修道士は顔をしかめてみせた。(後略)
(井上ひさし 作『中学校 国語3』光村図書)
□
「光司くんは『フラガール』っていう映画を観たことあるかな」
車のハンドルを握る田村章に訊かれて、助手席の光司は「すみません……」とうつむいた。
「名前は知ってるんですけど」
「べつに謝るようなことじゃないさ。そういうときは『いいえ』だけでいいんだ」
田村は苦笑して、「きみはアレだな」とつづけた。「自分が悪いことをしたときじゃなくて、相手の期待に応えられなかったときに謝っちゃう性格なんだな」
『希望の地図 3・11から始まる物語』重松清 幻冬舎
第67回 全国作文教育研究大会 九州・福岡大会のご案内―2
日本作文の会主催
3日目の「講座」のなかで、「作文の授業」をやることになりました。
こりゃあ、大変だ!( ´艸`)
第67回作文教育研究大会のご案内
日本作文の会主催
「すべての子どもに 生活に根ざした表現と 生きる力」を育てるための、研究会です。
「いじめをふせぐ処方箋」(18)
『育てたい表現力』ーアルシンドの覚書―(補足)
「会話」への理解を深める
―「会話」には、「ウソ」もある。―
「会話」の中には、ウソもあります。ことばのとおり受け取ったら、たいへんなことにもなるかもしれません。小説や文学作品の会話と地の文をていねいに読んでいくと、「ウソ」にも気づく力が育ちます。
文学作品の読みの中で
―会話への着目と地の文のはたらきを考える―
「わらぐつの中の神様」
(杉 みき子作 『国語』五 光村図書)
(前略)おみつさんは、いつのまにか、その大工さんの顔を見るのが楽しみになっていましたが、こんなに続けて買ってくれるのが不思議でもあるので、とうとうある日、思い切ってたずねてみました。
「あのう、いつも買ってもらって、ほんとうにありがたいんだけど、あの、おらの作ったわらぐつ、もしかしたら、すぐいたんだりして、それで、しょっちゅう買ってくんなるんじゃないですか。もし、そんなんだったら、おら、申しわけなくて――。」
すると、大工さんは、にっこりして答えました。
「いやあ、とんでもねえ。おまんのわらぐつは、とてもじょうぶだよ。」
「そうですかあ。よかった。でも、それなら、どうしてあんなにたくさん――。」
すると、大工さんはちょっと赤くなりました。
「ああ、そりゃ、じょうぶでいいわらぐつだから、仕事場の仲間や、近所の人たちの分も買ってやったんだよ。」
「まあ、そりゃどうも――。だけど、あんな不格好なわらぐつで――。」
おみつさんがきょうしゅくすると、大工さんは、急にまじめな顔になって言いました。
「おれは、わらぐつをこさえたことはないけれども、おれだって職人だから、仕事のよしあしは分かるつもりだ。いい仕事ってのは、見かけで決まるもんじゃない。使う人の身になって、使いやすく、じょうぶで長もちするように作るのが、ほんとうのいい仕事ってもんだ。おれなんか、まだわかぞうだけど、今にきっと、そんな仕事のできる、いい大工になりたいと思っている。」(中略)
この中に、そのことば通りうけとってはいけないものがあります。さて、だれの、どの会話でしょう。そのあとは、こんな会話も展開していきます。物語文のように、会話が文字で書き表されていると、「会話」について、深くまなぶことができます。
□
「――それから、わかい大工さんは言ったのさ。使う人の身になって、心をこめて作ったものには、神様が入っているのと同じこんだ。それを作った人も、神様とおんなじだ。おまんが来てくれたら、神様みたいに大事にするつもりだよ、ってね。どうだい、いい話しだろ。」
おばあちゃんは、そう言ってお茶を飲みました。
「ふうん、そいで、おみつさん、その大工さんのところへおよめに行ったの。」
マサエが、目をくりくりさせてききました。
「ああ、行ったともさ。」
「そいで、大工さん、おみつさんのことを、神様みたいに大事にした。」
「そうだねえ、神様とまではいけないようだったけど、でも、とてもやさしくしてくれたよ。」
「ふうん。じゃあ、おみつさん、幸せにくらしたんだね。」
「ああ、とっても幸せにくらしてるよ。」
「くらしてる。じゃ、おみつさんて、まだ生きてるの。」
「生きてるともね。」
「へえ。どこに。」
おばあちゃんは、にこにこ笑っています。マサエは、お母さんの顔を見ました。お母さんも、にこにこ笑っています。
「変なの、教えてくれたっていいでしょ。」
そこで、お母さんが言いました。
「マサエ、おばあちゃんの名前は、山田ミツ。――あっ。」
マサエは、パチンと手をたたいて、目をかがやかせました。(以下略)
「いじめをふせぐ処方箋」(17 )
『育てたい表現力』ーアルシンドの覚書―(補足)
「対話力」をつけるためには、「会話」への理解をふかめることです。国語科のなかで、取り立てて学ばせることも必要です。
子どもたちに気づかせてほしいことをあげてみました。そのつづきです。会話のどんな場面が、あてはまるか例をあげて考えてください。
「会話」への理解を深める
―「会話」について学ばせたい項目―②
□「会話」は、「場」によって規定されている。
□「会話」は、「間」が重要な役目を担っている。
□「会話」は、言葉だけでなく、表情、動作、声調 など非言語的要素をともなってなされている。→文章で表現するときには、「会話」と地の文であらわす必要が生まれる。
□「会話」からは様々な意味や感情が伝えられる。
・話し手のはたらきかけ方がわかる
・その時のその人の気持ちや考えがわかる
・人柄がわかる
・住んでいる(た)土地がわかる。
□「会話」は、伝わりにくいものである。
・前提がかくされている。
・全体像がつかみにくい。
・体調・その場の条件 時間の制約などをうけやすい。
・音声言語なので情報や感情が十分には伝えられない側面をもっている。
・一過性の言語で、聞こえる順序にしか情報を受け取ることができない。
・短い言葉でのやりとりで行われることが多い。
□相手が目の前にいるという制約がある。
・人間関係に左右されやすい。
・分からなければ、聞き返すことができる。
□「会話」は、本来のことばの持つ意味とは違った形で表現される場合がある→注意を要するやりとりがある。
・表現をそのまま受け取れない場合がある。
・直接的には語られない場合もある。
・ほのめかし
・暗喩・慣用句
・深い意味がこめられているものもある。
□「会話」は、二人の関係で言い方や言葉などがかわってくる。
□新たな人が加わることによって、話題が大きく変化することがある。
「いじめをふせぐ処方箋」(16 )
『育てたい表現力』ーアルシンドの覚書―(補足)
「対話力」をつけるためには、「会話」への理解をふかめることです。国語科のなかで、取り立てて学ばせることも必要です。
子どもたちに気づかせてほしいことをあげてみました。
「会話」への理解を深める
―「会話」について学ばせたい項目―①
・「話す言葉」には、演説、スピーチ、教授、対論、対話、会話、独り言、叫び…など多岐にわたる。(この話し言葉のカテゴリーは、順に意識的か無意識的かで並べてある)
□会話はそのはたらきによって分けられる。
①伝えるはたらき
②願いであったり、つもりであったりすることを伝えるはたらき
〈いいきり―断定〉〈推量〉〈伝聞〉
③たずねるはたらき・問いかけるはたらき こたえる
〈断定的な質問〉〈推定的な質問〉〈相手の意志的なことがらをたずねる文〉
④命令・依頼・誘いかけなどのはたらき
*〈仮定〉〈うちけし命令〉〈勧誘〉〈念おし〉〈感動をこめた確認のひとりごと〉〈程度のはなはだしいことを感動をこめてのべる場合〉〈反語〉
*ときにははっきりとした働きかけを示さないものもある。
*会話の種類による特徴
③ では、「ね」「かな」「か」「の」「のか」「ですか」「なんだ」
②では、文の終わりに「よ」「ね」がつくこともある。
□「会話」は、双方向で展開される。
・「会話」は、聞き手に、感想を求めるときがある。
・会話は、答えをもとめたり、行動を求めたりするときがある。
・「会話」は、「あいさつ」のように深い意味がないばあいがある。
□「会話」のしくみ・構造
・「会話」では、主語と、述語の関係が近づく。
・「会話」では、語順を自由にいれかえている。倒置が多い。
・「会話」は、単語や一音で展開するときもある。
・「会話」には、省略がある。途中でとぎれる場合がある。
余韻を持たせる場合
中断する場合がある。
・「くりかえし」「言いなおし」が多くある。
・「指示語」「間投詞」が多く使われる。
・指示語は、その場にいなければわからない。
・ことばには表さない「会話」もある。
「いじめをふせぐ処方箋」(15)
『育てたい表現力』ーアルシンドの覚書―より
今は「対話」の授業が多すぎると思うけれども。
「いじめをふせぐ処方箋」(13)
『育てたい表現力』ーアルシンドの覚書―より
活動の変化をうながす。自覚させる。それは、気の長い仕事だけれど。