最終日のおはよう会。
おつとめ(らいはいのうた)が終わって、みんなが焼香しているとき
大きなムカデが出た。
早く退治して… そんな子どもたちの目線を受けながら、僕は 本堂で
仏さまの前で、袈裟・衣をつけて ムカデを 叩き殺すことは できなかった。
幸いに、ムカデは じっとしていたので、急いでホウキを持って来て、
庭に掃き出そうとした。
ところが、築170年の本堂では、畳と敷居のすき間が空いていて
ホウキに掃かれながらも、ムカデは素早くその中へ逃げ込んで見えなく
なってしまった。
「きっと、ムカデさんも、おはよう会にお参りに来たんだよ…。
このまま逃がしてあげよう。さぁ、体操、体操!」
と みんなを 境内に 出るように促した。
仏さまのお堂で、法衣をつけて僕が みんなの前で率先して殺生など
できない。いのちの尊さを 語りながら、ムカデを逃がすお坊さんらしいお坊さん。
しかし、…ここまでが、 「きれいごと」の僕の姿。
僕は 子どもたちや皆さんが ラジオ体操している間に 急いで
殺虫スプレー剤(ムカデ○ンチョール=劇薬のようによく効く)を
取ってきて、ムカデが隠れて入った「すき間」に しっかりと噴射した。
そう、これが、「ほんとう」の僕の姿。
ムカデが隠れている…ということは、また出てくる→刺されるかもしれない。
基本的に こういう虫が苦手な僕 である。
大きなムカデが また出てくるかもしれない…という恐怖は耐えがたい。
だから、抹殺行為に及んだのである。
それも、みんなが見ていないうちに…。
今さら…と後から思うのだが、あの時 「いいお坊さん」を演じた自分を
後悔した。
お念仏の教えは「いい人間」「立派な人」になって救われる道ではない。
「いい人」になろうとしても、「なかなか なれない」とわが身のあり様に
気づかされていく道だ。
とすれば、みんなの前で ムカデを殺しながら、
「こっちの身勝手で 殺すしてごめんよ」 と
ほんとうの僕を見せれば よかったのじゃないか…。
ほんもの(真実)に遇えば、
「いい格好しなくていい」 のだった。
そう、それなのに 「いいお坊さん」を演じる僕の
「いい格好したがり度」は天下一品。
おはずかしや。おはずかしや。