ぴか の観劇(芸術鑑賞)日記

宝塚から始まった観劇人生。ミュージカル、ストレートプレイ、歌舞伎、映画やTVドラマ等も書きます。

06/04/23 歌舞伎座六世歌右衛門五年祭公演夜の部④「伊勢音頭恋寝刃」

2006-04-29 23:56:26 | 観劇
「伊勢音頭恋寝刃(いせおんどこいのねたば)」はこれで2回観たことになる。1回目は昨年8月歌舞伎座での三津五郎の貢初役の時。実はその舞台ではあまり面白く感じなかった作品だった。結局ブログには感想を書くのをさぼったまま放置(^^ゞ
“ぴんとこな”といわれる貢の役を三津五郎は熱演していたのだが、その役の魅力がピンとこなかったのである。勘三郎の憎まれ役の万野も面白いことは面白かったのだが、襟の部分の着付けが乱れているのが気になったりちょっと今ひとつだった。

さて今回、仁左衛門の貢でようやくこの役の魅力がわかった!仁左衛門のもつはんなりした柔らかさが辛抱立役の部分や後半の妖刀「青江下坂」に操られる狂気の蛮行との対比で生きるのだ。和らかみに強みを持たせた特殊な役柄“ぴんとこな”には“つっころばし”役もうまい役者の方がやはりいいのだ。特に前半、油屋で万野にお紺と会うのを邪魔され、その意地悪に困りながらも替り妓を呼ぶのを承服させられるあたりにもその和らかみのある演技がきいている。こんな貢だったらわが身を尽くしてもいう惚れ方をする女が何人もいるだろうなと思わせられる。残念ながら三津五郎の貢にはそこまでの和らかみのある演技ではなかった。
その優しい貢があまりの愚弄のされ方にだんだん腹をたてていく様子の変化の幅の大きさになるのだ。江戸風に刀がないので鯉口を切るように扇子を裂くという演技はなく、帯に手を当てての見得になるのが上方風ということだが、これでもう十分だ。
前回お紺役だった福助が演じた万野。相当ねちっこい意地悪女として演じている。ねちっこいというよりも粘っこいレベルだが、こういう演じ方も私は嫌いではない。しかしながらこの万野の役柄だが、もう少し薹がたってしまっていて「男より金だ」という女として演じる方がいいと思ってしまった。老後のためにも金への執着が強く、だから長い間お鹿を騙してでも金をためこみ、悪人にも協力しているというような感じが漂った方がいいと思う。前回の勘三郎はそういう感じがちゃんとしていた。今回の福助はまだまだ女の色気がぷんぷんと漂いすぎ、ただただ性格が悪いだけの意地悪という雰囲気を感じた。ただし、青江下坂が刀の鞘を割ってしまって斬られて餌食になった時のエビ反りは大したものだった。歌右衛門はお紺も万野も両方当たり役だったらしいので、福助もしっかりと極めていってほしいものだ。

白い浴衣を血で染めた仁左衛門が上方方式で丸窓を破って登場しての大虐殺の立ち回り、背の高い仁左衛門のそれはそれは見栄えがして美しい。歌舞伎の残虐美のカタルシスだ。

お鹿は前回の弥十郎が可愛かった。でかい図体でブスだけど可愛げのある感じ。今回の東蔵は“おかめ”のような顔の拵えだったが、もう少し愛嬌がないと可愛くない。可愛くないと妖刀の餌食になっても悲劇性が薄い。
お紺は前回の福助もよかったが、今回の時蔵やはりいい。青江下坂の折紙を手に入れるための嘘の縁切りを貢にする場面のおさえた感じ、折紙を手に入れて貢に届けようとする時の嬉しそうな感じ...。いいねぇ。
料理人喜助の梅玉も忠義をつくす感じが自然な感じ。お紺も喜助もベタベタしない感じが共通。最後に正気に戻った貢がふたりに持っている刀の正体と折紙も手に入ったことを聞き、これで主人への忠義が果たせると満足してニッコリして三人で決まっての見得が歌舞伎らしい軽く明るく終わる幕切れに合うような気がした。
前回の幕切れはなんかご都合主義を強く感じて不満だったのだが、今回は仁左衛門のニッコリでうまく丸めこんでもらえたというのも大きい。仁左衛門のあの笑顔は矛盾があっても何もかも忘れさせてもらえるニッコリだった。

写真は「伊勢音頭恋寝刃」の看板絵。
以下、夜の部の4本をまとめるためのリンク。
①口上
②「時雨西行」
③「井伊大老」
追記
今年のNHK「伝統芸能入門」の歌舞伎入門をビデオ録画して5回分全部見ました。講師は三津五郎さんで彼の新たな魅力もわかった次第。そして鶴屋南北の資料映像で四谷怪談の直助を仁左衛門さんがやっているのを見て、喉の手術をされる前のお声を初めて聞きました。あんなに野太い声が出ていたんですね。


最新の画像もっと見る

15 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
いいなぁ (すみよし)
2006-04-30 01:21:16
いいな、見にいけて・・・

私は浪花版で我慢しましたが、心はお江戸でしたぁ



仁左さんのお声を聞きたい・・・7月まで我慢です。



お嬢様、あせらず(何回も言われてるてることでしょうが)ゆっくりでも1歩が大事です。

どうぞ、楽しいこといっぱい見つけてあげてくださいませ。





“ぴんとこな”がやっとピンときた! (ぴかちゅう)
2006-04-30 02:20:15
★すみよし様

昨年8月の三津五郎の時にはよくわからなかった“ぴんとこな”がやっとピンときました!そのためこの作品の面白さもやっとわかりました。仁左衛門さまさまです~。きっとこの芸は愛之助が受け継いでいってくれることでしょう。来年の平成若衆歌舞伎(東京)はこの作品でもいいなあ。



娘のこともコメントありがとうございますm(_ _)m

本当に一歩前進二歩後退かもしれないのですが、辛抱立役?いや座役?なんでもいいから辛抱して見守りたいのですが、辛抱がなかなか苦手な母でございます(^^ゞ
TBありがとうございます (harumichin)
2006-04-30 02:34:33
伊勢という場所柄、上方(関西)の方が演じたほうがわかりやすいのかな?なんて思いつつ、

仁左衛門贔屓ゆえよかったのか・・そのへんは、区別がつきません。
★harumichinさま (ぴかちゅう)
2006-04-30 02:58:36
コメント、TB返しありがとうございましたm(_ _)m

“ぴんとこな”には“つっころばし”役もうまい役者の方がやはりいいのだと思います。十分に和らかみが出せずに強みだけだとこの役柄の魅力が出し切れないのだと思います。若手では愛之助や松嶋屋で勉強させてもらっている染五郎あたりがうまくやれるようになるのではないでしょうか。しかし、まだまだ仁左衛門で観たいものです。

いい男だよねぇ~ (mayumi)
2006-04-30 18:00:02
仁左衛門...もう久しく観ていないけど いい男ですねぇ~♪

玉三郎との『吉田屋』も素敵でした。

色っぽさがある立ち役って 貴重ですよね。



> お鹿は前回の弥十郎が可愛かった

思い出しても笑っちゃいます。

だって、普段は女形なんてあり得ませんもんね。

ある意味 当たり役でした。
どうもです。 (お園)
2006-04-30 22:01:26
こちらも、TBさせて頂きました!

ぴかちゅうさんのご意見とても参考になります。

お鹿ちゃんはワタクシも昨年の弥十\郎の時の方が好きですねぇ~。

最後の人殺してるのにパッピーエンドな展開も仁左さまだとしっくりきてましたよね。

では。
こんばんは♪ (真聖)
2006-05-01 22:53:33
最後が納得いかない展開なんですが(笑)、仁左衛門さんはどうしてあんなにきれいなんだろうといつも思い、それを見れただけでミーハー真聖は満足です。



福助さんの意地悪ばあさん?もちょっとやり過ぎ?と思ったけどあの徐々にたくましくなっていってる体型がこの役に合っていたのかも?と今は思います。
万野 万野 万野~ (HineMosNotari)
2006-05-01 23:13:46
なぜか、あの万野の呼び声が甦ります(^_^;)

ぴかちゅうさんのおっしゃるとおり、

言われてみれば福助さんは艶気の残る万野でしたね~。

あの艶気がとれると もっとすごい万野になるのかな?そうなった福助さんを見てみたいような、怖いような・・・(^_^;)
仁左さまよければ全てよし (あいらぶけろちゃん)
2006-05-02 14:11:26
あれだけ大人数殺しておいて、めでたいで終わるのが歌舞伎だとは思いつつも・・・でも仁左衛門の笑顔で私も丸め込まれました(笑)決めポーズのひとつひとつにいちいち見惚れておりました
皆様TB、コメントありがとうm(_ _)m (ぴかちゅう)
2006-05-03 12:35:33
★「たまごのなかみ」のmayumiさま

仁左衛門さんほど「イイ男だね~」というかけ声が似合う人はいないような気がします。私は上方のつっころばし的な二枚目がけっこう好きなので、その和らかみと強みのバランスが本当に絶妙に出せる仁左衛門さんは本当に魅力的です。

前回の弥十郎のお鹿のイラスト付きの記事のTBを本当に有難うございましたm(_ _)m

★「大入り!文楽手帖」のお園さま

お園さんとツチ子大夫さんによる二人トークは本当にいつも面白いです。これからも楽しみにしております。

★HineMosNotariさま

>あの艶気がとれるともっとすごい万野になるのかな?...それも年をとるとともに自然にそうなっていくのではないかなと思っております。私の方も年をとるし、役者も観客もともに年をとりながら変化する舞台を観ていくというのが時代とともにある楽しみなんじゃないかと思っております。

★真聖さま

福助さんの体型...私は知らないのですが、お若い頃はもっとスリムだったんでしょうね。

>最後が納得いかない展開...前回はその幕切れの印象がよくないままだったのが嫌でした。仁左衛門さんのあのやわらかい笑顔が矛盾の全てを忘れさせてくれるのですよ。

★あいらぶけろちゃん様

>仁左衛門の笑顔で私も丸め込まれました...お仲間ですね~。見得があれほど見栄えのする方もなかなかいないでしょう。彼を観ることができる幸せを噛みしめて生きてまいりましょう。

コメントを投稿