ぴか の観劇(芸術鑑賞)日記

宝塚から始まった観劇人生。ミュージカル、ストレートプレイ、歌舞伎、映画やTVドラマ等も書きます。

06/09/26 秀山祭九月大歌舞伎夜の部②播磨屋の「籠釣瓶」

2006-09-28 23:59:18 | 観劇
2.『籠釣瓶花街酔醒(かごつるべさとのえいざめ)』
「籠釣瓶」は昨年の勘三郎襲名公演で初めて観たが、吉右衛門の次郎左衛門も観たかったので今回一番の楽しみにしていた。
昨年の勘三郎襲名公演「籠釣瓶」の感想はこちら
今回の配役は以下の通り。
佐野次郎左衛門=吉右衛門  八ツ橋=福助 
立花屋長兵衛=幸四郎  立花屋女房おきつ=東蔵
下男治六=歌昇  繁山栄之丞=梅玉
九重=芝雀  七越=高麗蔵  釣鐘権八=芦燕

まずは「八ッ橋の笑み」に注目。うーん、福助の八ッ橋の笑みはとても合格を出すことができない。コワ~イ。これが魅力的にできるようにならないと歌右衛門は遠い。襲名公演の豪華な花魁道中と比べると今回は人数がちょっと寂しい気もしたが、通常の公演はいつも今回くらいかもしれないので贅沢を言わないことにする。

福助の八ッ橋は間夫の梅玉ともども貧しい武家育ちで同じような境遇の中で思い合っている仲という感じがある。美しく情は深いが思慮は深くなく優柔不断。玉三郎の八ッ橋はどうしても思慮深い感じがしてしまう(勝手にイメージをつくっているのかもしれないが)。だから後の場面の芝居は、苦悩する場面などもとてもいい。「暗闇の丑松」の薄幸のお米の芝居を経ているからかもしれない。梅玉の栄之丞は飄々としているが、福助の八ッ橋なら惚れそうな感じがする。バランスがよいのだと思う。
幸四郎・東蔵の立花屋夫婦もどっしりとしていていい。芝雀の九重は地味だが情感がにじみ出ていて味わい深い。高麗蔵の七越、宗之助の初菊はPARCO歌舞伎で注目度が上がっているつぶらなお目目コンビで今回もよし。歌昇の治六もずんぐりむっくりの姿が愛嬌たっぷり。愛想づかしの場面では主人思いの温かい人柄がにじんでいて好感がもてた。

さて、吉右衛門の次郎左衛門はまことに抑制がきいていた。容貌の醜さからとにかく商売一筋で財をなしてはいるもののあくまでも謙虚な人物だったのに、花魁に惚れこんで人生を狂わせる。勘三郎の場合は醜男ではあるが愛嬌があり、八ッ橋も憎からず思っているのではないかという印象が強かった。吉右衛門の場合はとにかく地味で色事に不慣れなため、遊女の表面的な社交辞令的な愛想のよさを自分はそこそこ思われていると勘違いをしてしまう鈍い男。八ッ橋への気遣い、愛想づかしをされてはじめて自分の無粋さ、ひとり勝手に舞い上がっていたことに気づく。その惨めな姿を満座にさらされた絶望感がものすごかった。「おいらん、そりゃああんまり袖なかろうぜ...」からのくだりの哀れさに胸がしめつけられた。そこで殺意が芽ばえた風な表情も一瞬見せるが、気を取り直して帰っていくという感じがした。
最後の殺し場。ネクラっぽいニンの吉右衛門の遺恨を明かす迫力は凄かった。心はすでに地獄に落ちていて、身の回りを整理して八ッ橋の元に現れた次郎左衛門は八ッ橋を連れて本格的に地獄に行くことを決意していた!という印象を持った。
当初は八ッ橋だけを斬るつもりだったが、妖刀籠釣瓶は一度抜いたら持つ人を支配する。下女も斬ったあとで「籠釣瓶は切れるなあ」の科白の場面、吉右衛門の左右の目は焦点を結んでいなかった。
吉右衛門の「籠釣瓶」も凄いものだと納得。まさに勘三郎と双璧だと思った。慎重派の播磨屋もようやく秀山祭と演舞場の五月公演という毎年の責任公演をはっきりと掲げたようなので、これからの切磋琢磨に期待が高まっている。

写真は歌舞伎座2階のロビーに展示されていた初代のゆかりの品の化粧台の蒔絵の「揚羽の蝶」部分のアップ画像。
関連の感想記事はこちらですm(_ _)m
9/18秀山祭九月大歌舞伎昼の部①「車引」「業平小町」「文屋」
9/18秀山祭九月大歌舞伎昼の部②「引窓」
9/18秀山祭九月大歌舞伎昼の部③「寺子屋」
秀山祭九月大歌舞伎夜の部①「菊畑」
9/26秀山祭九月大歌舞伎夜の部③「鬼揃紅葉狩」


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12 コメント

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播磨屋の次郎左衛門 (ツチ子大夫)
2006-09-29 13:54:14
秀山祭で一番好きだったのが「籠釣瓶」でした。

この演目で播磨屋のファン熱がUPしました~(笑)

愛嬌と狂気の変化がすばらしかったですね。

「福助の八ッ橋の笑み」、正直申しまして私も同感…

(福助ファンの方ごめんなさいm(__)m)

でも愛想つかしの場にはぐっときた!

苦悩の様子がよく表れているなぁと同じく思いました。

こちらもTBさせていただきますね。
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これからも宜しくお願い致します (dream)
2006-09-29 22:38:46
私のブログをブックマークに登録して頂きましてありがとうございます。とっても嬉しいです。ぴかちゅう様のブログは、観劇の内容も感想も充実されているので、いつも感心しておりました。私の方にも、ぴかちゅう様のブログをブックマークに登録させて頂きました。これからも宜しくお願い致します。



今月は染五郎強化月間という感じでしたが、改めて吉右衛門さんの印象が強く残りました。こちらにお邪魔して、やはり夜の部の「籠釣瓶」観たかったなぁと思いました。

歌舞伎座2階のロビーの展示場は人が多すぎて、遠くから初代のゆかりの品々を拝見しました。貴重な写真を見せて頂きありがとうございました。
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こんばんは♪ (真聖)
2006-10-01 01:35:50
3演目、楽しく読みました。



吉右衛門さんのあの切ない表情と眼力には惚れ惚れでした。

ファンで良かった~



歌舞伎のますますハマリそうになった9月でした。
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皆様TB、コメント有難うm(_ _)m (ぴかちゅう)
2006-10-01 03:08:00


★ツチ子大夫さま

>昼・夜一気にまいりま~す!.....の感想は軽妙でとても面白かったです。「寺子屋」は文楽版も観てみたいなあと早速思っております。

昨日は『オレステス』を観てきました。蜷川演出のシェイクスピアとギリシア悲劇は欠かさずに観るようにしています。私は洋の東西を問わず、古典好きなのかもしれません。

★dreamさま

>ロビーの展示場は人が多すぎ.....幕間は大混雑ですよね。だから開演5分前とか終演後はすいているので撮影などもその時間にします。どうしても何回かは撮り直しますから(^^ゞ

今後ともよろしくお願いしますm(_ _)m

★真聖さま

私なんて吉右衛門さんの贔屓になったのは昨年の幡随長兵衛からですから、新参者でございます(^^ゞ

毎年5月と9月は播磨屋学校の様相を呈すことでしょう。私も生徒になって頑張ります。(何を頑張るのかな?!)
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お久しぶりで~す☆ (うさ吉)
2006-10-02 20:10:42
こんばんは。ご無沙汰してます。

最近歌舞伎に身が入らなかったのですが、秀山祭を見てやっぱり歌舞伎っておもしろい、と思いました(ま、播磨屋贔屓ですから
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間違えましたぁぁ (うさ吉)
2006-10-02 20:19:03
すみませぬ~。途中で投稿しちゃいました。ゴメンナサイ。

ということで5月・9月は今後も楽しみです。

ところで見初めの笑み・・・。古い映像で歌右衛門のを見たことありますがやはり怖い~・・・笑みでした。福助は歌右衛門に仕込まれてるんでやっぱり同じかんじでしたが、私にはイマイチわかりませなんだ。。。
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★うさ吉さま (ぴかちゅう)
2006-10-03 22:24:44


播磨屋贔屓のうさ吉さまのご感想を知りたくて私こそ久しぶりに訪問させていただきました。五月演舞場と九月秀山祭の両方をこれからはしっかりと観ていきたいと思ってます。

>福助は歌右衛門に仕込まれてるんでやっぱり同じかんじでした.....そうなんですかぁ。何かの映像で歌右衛門の八ッ橋、一度観てみたいものです。できれば晩年でない方がありがたいな。晩年の歌右衛門丈はちょっと苦手です(^^ゞ
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籠釣瓶は~ (かしまし娘)
2006-10-10 13:09:00
ぴかちゅう様、まいど!

TB&コメントありがとうございました。

あの悪魔の微笑みに惚れてるのは、次郎左衛門だけじゃなっす。私も~!

「籠釣瓶」は、吉右衛門にお任せあれ~!(by京蔵の勘定奉行)
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続・皆様TB、コメント有難うm(_ _)m (ぴかちゅう)
2006-10-11 00:37:52
★かしまし娘さま

何かで読んだのですが、昔の女方は背も低く首も短いのが普通でそれが歌舞伎の女方の様式美と言われていた。それが八頭身で首も長い玉三郎の出現で従来の女方の美についての見方が変わってしまったという話でした。

>福ちゃんのあの笑顔は「歌舞伎」の世界が好きじゃない人には「ただ気持ち悪いだけ」だったと思います。

私はけっこう歌舞伎の世界が好きですけれど、あの笑みはダメでした。TBさせていただいた感想には「合格は出せない」なんて不遜な書き方してますけれど、私的な合格ですからご理解くださいませ。

>お歯黒でニ~ッて笑うんだよ~

きっと今の時代にはわかる人にしか支持されない美しさなのかもしれません。お歯黒なんて今ではまず気持ち悪いだけですよ。しかしつける決まりがあるのであれば口を大きく開けるか開けないかという演じ方の差があるでしょうし、私としてはあまり大きく開けない方が気持ち悪くないです。

高松塚古墳の美人さんは今ではただの下ぶくれブスだし、女方の美しさも時代によって変化していくように思います。

今回の福助の八ッ橋はその「笑み」以外はとても気に入りました。好みもいろいろですよね。

>私的最高カップルは「吉右衛門と雀右衛門」なんです.....それは是非とも観てみたかったものです。雀右衛門の八ッ橋の「笑み」はやっぱり可愛いさがあふれていたのかな~。映像でもいいからなんとか観てみたい~。

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吉右衛門さまサイコー! (Ren)
2006-10-14 12:34:14
>襲名公演の豪華な花魁道中

もっとすごく豪華だったんですね。あぁ見てみたかったです~。今回の花魁道中でも「豪華~」と喜んでました(^^)

吉右衛門さまの次郎左衛門は迫力満点で大満足でした。そして心はすでに10月国立劇場忠臣蔵へ・・・
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