パピとママ映画のblog

最新劇場公開映画の鑑賞のレビューを中心に、DVD、WOWOWの映画の感想などネタバレ有りで記録しています。

カラカラ ★★.5

2013年04月05日 | か行の映画
モントリオール世界映画祭で、世界に開かれた視点賞・観客賞を見事ダブル受賞した本作は、人生の折り返し地点で迷う大人たちの背中を後押ししてくれる。

第二の人生を模索する元大学教授と、家出した主婦。突然始まった小さな旅は、新たな自分を見つけるための第一歩。
純子役には、「ヒマラヤ杉に降る雪」といった大作からジム・ジャームッシュ作品まで、国籍を超えて数々の作品で存在感を放つ工藤夕貴。ピエール役には、カナダのアカデミー賞といわれるジニー賞を二度に渡って受賞している名優ガブリエル・アルカン。監督は、カナダと日本をベースに意欲作を発表し続ける、クロード・ガニオン。
物語:元大学教授ピエールは、気功クラス合宿のため沖縄を訪れていた。残り一週間、気ままに島を旅するつもりだった彼は、東京からの移住者の主婦純子に出会い意気投合する。「旅の思い出」で終わるはずだった二人の関係だが、翌日、夫と大喧嘩して家出をした純子が、ピエールの旅に同行すると言いだして、・・・。
親友を癌で亡くし、第二の人生の岐路に立つピエールと、夫婦生活に疑問を抱き始め、子育てにも悩んでいる純子。沖縄を旅しながら、国籍、年齢、全く違う二人の道中は、価値観のぶつかり合いと静かな内省を繰り返しながら、ゆったりと進んでいく。

<感想>胸に染み入る沖縄三味線、三弦の奏でる音。感動的に美しい大自然、しみじみと感慨深い会話に心温まるハッピーエンディング。こういう作品は、世間で観る「いい映画」と言われているのだろう。何せ2012年のモントリオール世界映画祭で、「世界に開かれた視点賞」「観客賞」のダブル受賞を果たしたのだから。
しかしである、私はあまり感動とか魅了されたとかそういう評価はない。自分探しをして沖縄にやって来たカナダ人の元文学教授と、DV夫から逃げ出して家出してきた日本人の主婦の二人旅。沖縄の大自然や独特の文化に触れ合いながら、二人の空っぽの魂は徐々に満たされていき、最終的にはそれぞれの答えを見出していくという展開。

それにしても、沖縄に来た外国人男性と一緒に旅に出ることにした家出主婦の純子。すぐに男と女の関係になるのはいかがなものかと、それに純子のピエールに抱かれた声の大きなこと。日本の女性も、うっぷん晴らしでもするかのようエネルギーの発散ぶりに、女としての意外な部分を見せてもらった。普通は最後の方で、二人が好意をい抱き、離れられなくなり自然に結ばれるものなのに。

結局カナダ人のピエールは、沖縄に定住して芭蕉布の工房に弟子入りすることに決め、主婦の純子は暴力夫と離婚して息子と二人で新しい人生を始めることにすることになる。何だかそう簡単に答えが見つかるなんて、誰も苦労しないよ。その答えを見つけるために、いったい何をしたのだろう?・・・。ただ美しい自然や珍しい文化や、善意に満ちた人々に触れて、癒された気になっただけじゃないの。主婦の純子はDV夫とどのように対峙したのか?、カナダ人のピエールは芭蕉布を織ることで、自分のこれからの人生にどんな決着がついたのか。そこら辺が全然描かれていないから、人生の曲がり角で、空っぽの心を満たしてくれるものは何だろうと考えさせられた。

最後の主婦純子は、沖縄の米軍基地問題にも目覚め、どうやら今後は活動家になるようだ。ロード・ムービーって難しいジャンルだと思う。美しい大自然や楽しい触れ合いを描くのはいいけれど、その旅路の果てには何があるのか、それをきちんと納得のいく形で提示しないといけないと感じた。
DV夫から逃げる純子と、一人が好きなのに肉欲に溺れつつエゴイストを気取りグダグダ言うピエール。カーチェイスに巻き込まれ、アクションを見せつつ否定する流れもサスペンスたっち。それぞれが必要なことを見出す岐路も大人の顛末。
舞台となった沖縄本島と、本島の北に位置する伊是名、伊平屋、具志川の島々。青く透き通った海、どこまでも続く白い砂浜、生命力あふれる草木などの自然美と、カラカラや芭蕉布に象徴される土地固有の豊かな文化が、二人の乾いた心を潤していく。大人のおとぎ話のような、と思えばいいのかもしれませんね。

カラカラ:沖縄独特のお酒「泡盛」を入れる酒器のこと。いくつかの語源があるが、昔は焼いた時に陶器の破片が入り、器が「空」になると、カラカラという音をたてることからその名前がついたと言われている。「満たされたい大人たち」純子とピエールの旅を象徴しているようだ。
2013年劇場鑑賞作品・・・65 映画(アクション・アドベンチャー) ブログランキングへ