ユースホステルで年長さんの■くんとお母さんのやり取りで
少し気になるところがありました。
■くんのお母さんは子どもがいきいきと遊べる環境を用意するよう心がけている明るく大らかな性質の方で、
■くんは体格が良くて活発で好奇心が強そうな男の子です。
■くんのお母さんは気長で子どもの気持ちに添って接する方で
小言を言ったり、ガミガミ叱ったりすることはほとんどないようでした。
気になったところというのは、工作タイムで、■くんのお母さんが「こんなことしてみたら?あんなことしてみたら?」と熱心に話しかけているときに、
■くんは聞くのがわずらわしいという表情をして、
うわの空で返事をしているのです。お母さんがさらに関わろうとすると、黙ってそこを離れて、
私の隣を陣取って工作を始めました。
どうもモーターを接続する工作がしたかったようで、私の隣にいたら
教わりながら自分の思うものが作れると思っていたようです。
■くんが工作に意欲的なことはうれしかったのですが、
■くんが私に向かっても「自分がこんなことをしたい」「あんな風にしたい」という意志を表現することなく
その割にモーターや電池を貼りつけるのに夢中になって身体全体からやる気が伝わってくることが
気になりました。
■くんには3歳になったばかりの妹さんがいて、この子は知能も言葉の力も社会性も4歳半~5歳レベルという
しっかりさんでした。
自分が何をしたいのか、それには何を準備してどうすればいいのか、自分はどう感じているのかを
流暢に説明しては、テキパキ動いていました。
この妹さんは、テキパキしたところも、いろいろな情報をすぐにキャッチできるようなところも、
自分の思いつきや考えを流暢に言葉にするところも、
活動的で人と関わるのが楽しそうなところも
■くんのお母さんとよく似ていました。
■くんはというと、別にもじもじしているわけでもないし、おしゃべりが苦手というわけでもなさそうだし、
活動的でもあるし、人とリラックスして関われてもいるのだけど、
なぜか■くんの意志とか、気持ちとか、思いついたことなんかが
会話のなかで自然に出てくることがないのです。
お母さんからいろいろたずねられると困った表情をして、短く「うん」とか「ううん」とか答えるだけです。
■くんのお母さんも、■くんが自分からいろいろ意見を言わないのに慣れっこになっているのか、
■くんの「うーん」と渋るような様子は気にかけずに、
次々喜ばせるような声かけを続けています。
また、■くんが捕まえたセミを逃がすのを嫌がって、「うーん」とか「いやー」とか小さな声で言うと、
それだけで、■くんの気持ちに配慮して■くんの言う通りにしてあげたり、
■くんがお母さんの質問に答えずにスッーとどこかに行ってしまっても、ただ優しく見守るだけで
そっとしていました。
そうした■くんのお母さんの態度からは、■くんに対する深い理解や愛情が伝わってきました。
一方で、いつもはっきり言葉にせずに、「んー」と言いながら少し身体をくねらせるだけで、
お母さんから「どうしたのかな?」「どうしたいのかな?」と察してもらい、手をかけてもらっているため、
言葉が必要な場面でも、言葉を使わずに、相手に察してもらったり、「こうしたいの?」「ああしたいの?」と
たずねてもらうコミュニケーションを身につけていて、いざ「それ貸して」「これちょうだい」「ありがとうございました」といった
ちょっとした言葉を使うシーンでも、うまく表現できなくて困惑しているときがありました。
■くんと遊ぶなかで、いろいろ質問してみると
形のちがう容器に水を入れたときにどちらが多いか判断した理由を、きちんと表現できたり、
理科実験で仮説をたてたり、原因を説明したりすることもちゃんとできて、
語彙力や考える力に問題はないのです。
でもなぜか、その後も、自分のやりたいことや自分の思いや自分の考えのようなものが
自然と口にのぼることがほとんどありませんでした。
それなのに、人一倍、自分のやりたいことや自分の思いや自分の考えは
強いものがあって、一度やりはじめたらそれはねばり強く最後までやり続けていました。
次回に続きます。