
4歳児さんたちのレッスンで、
数玉そろばんの玉を動かしながら、「3たす1は?」 「4たす1は?」 ……「15たす1は?」と
問題を出していって、「59たす1は?」の問いにも「60!」という元気のよい
答えが返ってくるときがありました。
が、次に私が、60からひとつ玉を戻して、「60-1は?」ときくと、
「65!」とか「30!」とか、でたらめな答えが多発しました。
数玉そろばんの動きをちゃんと見ていても、
数の玉は見るからに59という数を示していても、
59たす1の時の足した1がまた元に戻って、59だな」と
納得することはないのです。
つまり、何となく暗記して
数の流れはわかってきているものの、
さっぱりわかっていない部分もたくさんあるのです。
幼児に計算プリントをさせてできるようになっている場合、
こんな風に、根本的なことがわかっていないのに、できるようになっていることが多いです。
そんな風に本当はわかっていないのに、
テストとしてはできている状態で進んでいくと、
ずいぶん後になって、土台からガラガラと崩れていくように
できていた問題が時の経過とともにできなくなったり、
応用がきかなくてひねった文章問題は手も足もでなかったりします。
幼児は目で見て、手で動かしてみて、理解します。
ですから、目で見て、手で操作する教具を使って学んでいくと、
一時期、でたらめな答えを言っていても、しばらくすると、深い理解に達します。
といっても、「それなら、幼児には数玉そろばんのような教具を使って教えていけばいいのね。
それを使って学習習慣をつければいいのね」
といった単純な話ではありません。
元文化庁長官の河合隼雄氏が『子どもと学校』という著書の中で
次のようにおっしゃっています。
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子どもは、うっかりすると相当に早くから、このような知識のつめ込みに
さらされてゆく。実際、幼稚園の段階から、英語などを「教える」ところが
親に大いにもてることは、
驚くべきものがある。
このような状態は、端的にいえば、子どもを育てるうえでの「自然破壊」なのである。
子どもが「自然に育つ」過程に対する干渉が、あまりにも多すぎるのである。
(略)
個性を尊重するためには、個人のもつ可能性が顕在化してくるのを
待たねばならない。
ところが、できるだけ多くの知識を効果的に吸収させようとすると、
それはむしろ個性を破壊することになる。
しかも、評価を「客観的」にするという大義名分のために、「正答」がきまっている問題を
できるだけ早く解く訓練をすることは、ますます個性を失わせることに
つながる危険性をもつ。
(『子どもと学校』河合隼雄 岩波新書)
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子どもは目で見て、手で操作して、動きながら学びます。
でも、それは常に、その子の可能性が顕在化してきた時に、それにぴったりと合う
タイミングで学ぶべきものです。子どもの可能性が顕在化してくるのを待つのは、
個性を尊重するためだけでなく、
子どもの能力が最善の形で伸びるためにも大切なことだと
思っています。
たとえ、子どもの学び方にそった教え方をしたとしても、
幼児期は大人主導で何かを教えていく時期ではないのです。
計画的に大人が「学習の習慣付け」のためにスケジュールを組めば、
その子にプログラミングされている発達の順序や時間は狂わされてくるでしょう。
そうした干渉は、
河合氏のおっしゃる子どもを育てるうえでの「自然破壊」につながるのでは
ないでしょうか。
次回に続きます。
私共の住んでいる辺りでも、ネイティブの先生による英語の指導・体操・書き方・鍵盤ハーモニカ…等を教えていただける幼稚園が大人気です。
何でも、子どもが卒業後すぐに小学校生活に馴染めるように、ありとあらゆる面でしつけや教育をしていただけるのが良いそうです。
家から近いこともあり、その評判の良いという幼稚園の未就園児クラスを気軽に受けたところ、面接も考査も抽選もパスしてしまいました。
これも何かの縁かしら?などと呑気に通い始めたまでは良かったのですが…
初日の開始5分でいきなり強制的に母子分離。
もちろん娘は号泣。
これがこの辺りでも評判の良いと言われる幼稚園のやり方なのか?と、怒りにも似たモヤモヤとした嫌な気持ちで帰宅しました。
こちらの幼稚園は小学校受験をされる方が多いそうで、それに対応する指導がされているようです。
また、幼児の集中力継続は15分を一区切りと判断しているそうで、英語でも体操でも工作でも時間内で終了。
「あともうちょっとで絵が描き終わるのに~って時でも数分のおまけもないの?」と在園児ママにお聞きしたところ、それは無いとの事でした…。
「園児たちは様々なカリキュラムを楽しくおこなっている。」そうです(^^;
子どもを育てるうえでの自然破壊…
今回も先生の記事を読んでいろいろ考えさせられました。
娘がこのような幼稚園に入園したら、それなりに楽しい園生活が送れるとは思います。
でも、表面的には一見わからなくても、発達の順序や時間が狂わされてくるとしたら、それは本当に怖いことだと思いました
長々と愚痴のようになってしまい申し訳ありません。
でも奈緒美先生のおかげで、娘にとってよい幼稚園選びができそうです。
いつも軌道修正のヒントをありがとうございます。