菱沼康介の、丸い卵も切りよで四角。

日々の悶々を、はらはらほろほろ。

モチーフで、持ちつ持たれつ。

2016年12月01日 00時00分47秒 | 映画のあれこれ
映画で用いる技法の一つに、モチーフというのがある。

モチーフは、ある物体、動き、構図、言葉など、特定のモノを使って、、語る物語を映像的にイメージさせることができる。
何度も使うことで、それの使い方で語りを多層的にする。
 
映画を見ていて、このモチーフを見い出すとテーマや、物語の深みにアクセスしやすくなる。
 

 
 
例えば、クリストファー・ノーランのモチーフには、筒(柱)というのがある。
井戸、飛行機、廊下、電車、貯水槽、コップ、トーテム、銃、ロケット、そこに入れる、入る、出て行く、閉じ込める、ということで物語を見せる。
 
『ダークナイト』トリロジーでは、井戸、筒型地下牢獄という明確な筒だけでなく、電車、トレーラー、飛行機を縦にして、筒を柱にする、というモチーフまである。
バットシグナル(光も灯体も)さえ、筒のモチーフとして描かれている。
マスクも筒だ。
スーツを入れてあるガラスケースも筒。
 
『インターステラー』は筒で出来ている映画とも言える。
ドローン飛行機、ロケット、冷凍睡眠装置、ワームホール、時計、コロニー、ブラックホールは巨大な筒だ。
最後の部屋も筒状に配置されている。
 


ただ、そのモチーフが好きだからというう場合もあるが、映画の謎解きに用いる場合もある。
 
例えば、ポン・ジュノの『母なる証明』では、構図と窓のモチーフを用いている。
店のガラス戸、車の窓、面会室の窓、殺人の行われた小屋の窓、バスの窓。
ガラス越しの画が使われるときには、ある種の関係や嘘が含まれている。
そこから、人間の奥深さが透けて見えてくるのだ。


さて、実は、ポン・ジュノも筒のモチーフを用いる作家だ。
『殺人の追憶』では、トンネル、側溝、夜の雨で視界を遮られたあぜ道も筒のように撮される。
デビュー作である『吠える犬は噛まない』のトイレットペーパーや地下駐車場。
なにより、パーカーと『バットマン』のマスクは同じだ。
『母なる証明』にも、丸い缶などわずかに確認できる。
なにより、ポン・ジュノも筒で出来ている映画を撮っている。
そう、『スノーピアサー』だ。
列車という筒の中を突き進み、列車はトンネルという筒で年を刻み、筒型の牢獄、撃たれた厚いガラスは筒状の穴を開け、筒状の穴から外に手を出す罰、筒状エンジンに関わる人々・・・。
 
 
同じ筒というモチーフでも、クリストファー・ノーランとポン・ジュノでは使い方が違う。
 
クリストファー・ノーランの筒は、突破するものであり、そこに留まるものとして多く出てくる。
ポン・ジュノは、長く続く横の構造、その先にある闇まで含めた使い方を多く用いる。
ポン・ジュノの筒は先が閉じていたり出口がないのだ、もしくは留まる場所として用いられる。
だからこそ、そこにどう立ち向かうかという物語を提示する。
 

さて、筒のモチーフといえば、という御大がいる。
スタンリー・キューブリックだ。 
『博士の異常な愛情』の原爆、爆撃機、会議室、『突撃』の塹壕、『2001年 宇宙の旅』の宇宙船、光の通路、HAL(まさに筒だ)、『フルメタル・ジャケット』のライフル、『アイズワイドシャット』の廊下、『時計じかけのオレンジ』の目薬、などなどだ。
ノーラン、ポンジュノとも使い方が違う。

そこから何かが飛び出し(飛び出させられ)、もしくは筒(柱)それ自体がやってきて、己や世界を変えてしまう。
フィルムは、板を集合させ筒になっている。
キューブリックの映画とは、何かが飛び出してくるのを見つめさせられてしまう映画なのだとも言える。
 
 
なんといっても、映画自体、レンズの筒で撮り、映すという、筒のメディアとも言えるのだから。
 
  
 
 
 
 
他には、黒澤明とアンドレイ・タルコフスキーの水、ロバート・ゼメキスの線、JJ・エイブラムスのフレアなどがある。
特に、水は、最も使われるモチーフ。
 
 
 
カメラのモチーフというのもある、有名なのは、トニー・スコットのカメラの回転やスパイク・リーの移動ショット、小津の低い固定ショット。
 
視点という意味では、スティーブン・スピルバーグの見上げる視点、リュック・ベッソンのスーパー・クローズアップ、ブライアン・デ・パルマのマルチクリーン(物事の両面を示すという意味でも)というモチーフもある。
 
リドリー・スコットの光というモチーフもある。 
 
 
こういったモチーフの用い方こそが、作家の個性を表す。
 
 
 
 
 
このモチーフという技法は、映画だけの技法ではないが、もっとも映画的な技法であるといえる。
 
みなさんも、映画を見ながら、似たようなものを見つけたら、これはモチーフかもと追って見てみていただきたい。
さすれば、きっと、より深く映画の物語に入れますぜ。





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