で、ロードショーでは、どうでしょう? 第2295回。
「なんか最近面白い映画観た?」
「ああ、観た観た。ここんトコで、面白かったのは・・・」
『ビヨンド・ユートピア 脱北』(2023)
原題は、『BEYOND UTOPIA』。
『ユートピアを超えて』。
韓国の脱北支援者に密着し、北朝鮮の5人家族の決死の脱北を記録した衝撃のドキュメンタリー。
監督は、『シティ・オブ・ジョイ ~世界を変える真実の声~』のマドレーヌ・ギャヴィン。
2023年サンダンス映画祭にてシークレット作品として上映され、USドキュメンタリー部門の観客賞を受賞した。
製作国:アメリカ
上映時間:115分
映倫:G
配給:トランスフォーマー
内容。
2018年、韓国。
キム牧師率いる組織は脱北を支援してきて半世紀が過ぎていた。
だが、北朝鮮と中国は脱北への取り締まりを厳しくし、脱北報告者の報奨金は値上げされ、脱北者を殺した兵士は表彰されるようになった。
そんな時、キム牧師に新しく脱北支援要求が届く。
幼い子ども2人と80代の老女を含む5人家族をすぐにも脱北させ、中国、親中国国ベトナム、ラオスの1万2千キロを突破させなければならない。
そんな彼らに撮影隊は同行を決行。緊迫の脱出作戦の一部始終がカメラに収められていく。
撮影は制作陣のほか地下ネットワークの人々によって行われ、一部の詳細は関係者の安全のため伏せられている。
世界に北朝鮮の実態と祖国への思いを伝え続ける脱北者の人権活動家イ・ヒョンソをはじめ、数多くの脱北者やその支援者たちも登場する。
スタッフ。
監督:マドレーヌ・ギャヴィン
製作:ジャナ・エデルバウム、レイチェル・コーエン、スー・ミ・テリー
製作総指揮:シャロン・チャン、マイケル・Y・チョウ
撮影:キム・ヒョンソク
編集:マドレーヌ・ギャヴィン
音楽:アダム・テイラー、テイラー・ペイジ
出演。
キム・ソンウン/牧師
リ・ソヨン/脱北者
イ・ヒョンソ/活動家
ミスター・ホン/脱北ブローカー
マドレーヌ・ギャヴィン/監督
キム・ヒョンソク/カメラマン
『ビヨンド・ユートピア 脱北』を観賞。
2018年コロナ直前、韓国の脱北支援者に密着し、北朝鮮のある家族が決死の脱北に挑むさまを記録した衝撃のドキュメンタリー。
物語系ドキュメンタリーというのが最近の流れであって、これもそれ。まるでよくできたフィクションのよう。だが、これは現実なのだ。
5つの視点で見せて語る。
1、キム牧師。脱北者支援者で自ら北にも行き、1000人強を逃がした人物。中国も入国禁止処分に。その彼も今の北はさらに危ないと語る。任務中に大けがを負い、肉体的にもガタがきているが、今回も同行するが。
2、幼子2名と80歳の母を連れて脱北しようとする夫婦(5人家族)。キム牧師を頼り、1万キロを逃げる逃走計画を開始する。命がけで真夜中の山を徒歩で10時間以上歩けるか。
3、17歳の息子を脱北させたい脱北者の母。母のせいで、息子への監視は厳しい。
4、脱北者の活動家。北朝鮮の状況を解説。そのエピソードと資料映像には目の奥が痛くなる。
5、アメリカ人監督を含む映画撮影班。中でもカメラマンは命がけの逃走にも同行。どうやら韓国人だが、危険過ぎる状況でもカメラを回し続ける。
恐ろしすぎるほどのサスペンスに目が離せないだけでなく、逃げてきた北朝鮮人の洗脳されている言動、胃が痛くなるほどの決死の逃走の姿、国がすることの冷たき恐ろしさに、そんじょそこらのサスペンス映画やホラー映画が霞んでしまう。
そして、そこに立ち向かう人々のリアルの生々しさ。
脱北ブローカーらがなぜ協力するのか、の説明を聞くとうなづきつつ、涙が出てくる。
実際に、山中と逃げる家族と牧師と撮影隊の状況に、映画館中が税人息をひそめているのが伝わるほどの緊張感。観客の誰かが咳したら、スクリーンの中の彼らが見つかるのではないかとさえ。
「でも、映画になってるんだから大丈夫だったんでしょ」とのたまうあなたは、生の経験を目にすることが成功の後でも、どれだけ後を引くか思い知るだろう。
だからこそ、二つの家族やすでに成功した者の視点でも語られることの意味を噛みしめる。
ドキュメンタリーならではの説明の差しはさみ方、編集が巧みで、エモーションのバリエーションにヘトヘトになります。
北朝鮮ドキュメンタリーの『トゥルーノース』、『太陽の下で -真実の北朝鮮-』、『わたしは金正男を殺してない』などを見ているので、枠外の想像が膨らみ、拳を握り締め過ぎて、掌が痛くなった。
いくつも観客賞を獲るのも納得。まずは体験と人物で見せ、のめりこませてからメッセージを突きつけてくるんだもの。しかも、ユーモアも忘れてないしね。深く考えると寒気もしてくるユーモアだったりもするけど。
これ、隣の国の出来事なのよね。日本でも幾人も拉致されてきたことを思い出させもする。
息苦しいほど心を揺さぶってくる逸品。
補足。
マドレーヌ・ギャヴィン監督がスカイプでしか画面に出てこないので、勘違いしている人がいるが、メイキングの写真にも写っており、あの家族と一緒に行動している。映画中でも「このアメリカ人」という言葉がおばあさんから出てくるのはギャヴィン監督のことのようです。
ただ、基本的には、目立たないように同行しない判断をしたらしいです。
キム牧師自体も撮影を支持している音声があるので、世間に知らせたいという意図があったのだろうと思われる。
完成した映画によるジャーナリズムが新しいフェイズに入ってきたともいえる。(マイケル・ムーアやマッズ・ブルッガーなど身を張って取材する映画作家による大幅公開作品による累積が導いた道だろう)
この点について、議論されていくことを臨む。
おいらは、報道に終わらず、映画作品となることで、見られ続けることには価値も意味もあるはず、という意見です。
ご指摘ありがとうございます。
誤字脱字、軽減に努めていきますね。
パワフルな映画なので、体調に気をつけて臨んでいただけたら。