水野和夫・萱野稔人 『超マクロ展望 世界経済の真実』 ( p.162 )
日本のバブル(1980年代のバブル)がアメリカより早かったのは、日本にはバブルを起こせるほどの資本が蓄積されていたが、アメリカにはそれがなかったからである。アメリカは、他国の資本を呼び込むことで初めて、バブルを起こせたのである、と書かれています。
これは一見、説得力のある説明です。しかし、これは本当なのでしょうか?
そもそもアメリカが自国(アメリカ)でバブルを起こそうと思えば、アメリカはたんに、ドルを大量に供給すればそれで足りるのではないでしょうか? わざわざ他国から資本を呼び込まなくとも、たんにドルを大量発行すればすむのであれば、著者らの考えかたは成り立たないことになります。
ここ数年のアメリカ株式市場の状況を考えてみてください。
リーマン・ショック後の株価急落・景気悪化に対し、FRBが資金を大量に供給したことによって、アメリカの株価は急速に回復(上昇)しています。べつにFRBはバブルを起こそうと思っているわけではないでしょうが、ドルが大量に供給されたことで、株価は急速に上昇しています。
このことは、もし、アメリカが自国(アメリカ)でバブルを起こそうと思えば、外国の資本を呼び込む必要などなく、たんに、ドルを大量に供給すればよいことを示してはいないでしょうか。
とすれば、著者らの考えかたは成り立たず、
株価上昇のために重要なのは、「蓄積された資金(貯蓄)の量」などではなく、「新たに流入する資金の量」ではないでしょうか?
その「新たに流入する資金」は、なにも国内貯蓄である必要はなく、外国の貯蓄であろうが、中央銀行による資金供給であろうが、なんでもよい、というのが本当のところでしょう。
つまり私は、日本のバブルはアメリカの肩代わりなどではない、と考えます。
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萱野 アメリカは九五年になってようやくバブルをひき起こすことができた。日本はこれに対して一〇年早くバブルを経験したわけですよね。
両国とも七〇年代に、交易条件の悪化や高度成長の終焉といった壁に直面した点は同じです。もちろん日本は省エネや合理化によって国際競争力を維持したので、低成長時代に入った先進国のなかでも比較的パフォーマンスがよかった。しかし、だからこそよけいに、なぜ日本でいち早く八〇年代にバブルが起こったのかが問題になる。
すでに確認したように、金融経済化というのは覇権国の実物経済におけるヘゲモニーが衰退するときに起こってくる現象です。そうである以上、日本のバブルにおける金融経済化は、アメリカのヘゲモニーのもとで牽引されてきた世界資本主義のいきづまりを、ある意味で先取りしたものだといえるのではないでしょうか。
水野 そういった側面は確実にあると思います。日本は戦後、アメリカのヘゲモニーのもとで急速に経済発展してきましたから、そのヘゲモニーの可能性と限界が日本で凝縮してあらわれたとしてもけっしておかしくありません。私は、バブル以降の日本には、二一世紀の利子率革命が起こっていることも含めて、資本主義の歴史におけるある種の先行性があると考えています。
萱野 具体的にいって、そもそもなぜ日本ではアメリカよりも早くバブルが起こったのでしょうか。
水野 まず、前提条件として、日本には自国の貯蓄で十分バブルを起こせるぐらいの資本が蓄積されていたということが挙げられます。日本は近代資本主義のしくみ、すなわち実物経済で安く仕入れて高く売るというしくみでもっとも利潤を獲得することができた国なのです。それは、日本が第一次オイル・ショック以降、貿易黒字が定着して、世界の対外純資産国になったという事実にあらわれています。日本はわざわざ金融空間をつくって他国の資本を呼び込まなくても、国内の貯蓄がすでに膨大な額にのぼっていたんですね。
萱野 なるほど。逆にいうと、アメリカは自国内にバブルをひき起こせるほどの貯蓄がなかったと。だからこそアメリカは、国際資本が自由化されるまで待たなくてはいけなかったんですね。
水野 そうです。アメリカでは貯蓄率が低いわけですから、どうしても他国の貯蓄から金融空間にお金をもってこなくてはなりません。そのきっかけとなったのは九七年のアジア通貨危機です。アジア通貨危機がおきたあと、アメリカにいっせいにASEAN(東南アジア諸国連合)やNIES(新興工業経済地域)からお金が入ってくるようになりました。
萱野 バブルをひき起こせるだけのお金を抱え込むのに、アメリカは時間がかかった。そのぶん遅くなったということですね。
(中略)
そうなると、やはり日本のバブルは九五年以降のアメリカのバブルを先取りしたものだといえるんじゃないでしょうか。アメリカは自分のところの財政赤字や経常収支赤字を埋め合わせるために外国から資金を呼び込む必要があった。でも、当時は九五年以降のように国際資本の完全移動性が達成されていなかったから、自国の内部でバブルをひき起こせるようなお金を外からもってくることはできない。ならば、お金がすでにたくさんあるところでバブルをひき起こして、そこで膨らんだお金をアメリカのドル債に投資してもらおうと。
要するに、日本のバブルは、アメリカが実物経済の落ち込みをおぎなうためにバブルを必要としていた状況で、アメリカにはまだその条件が整っていなかったから、そのバブルを先行して肩代わりしたものだと位置づけられるのではないでしょうか。
水野 そのような位置づけでおそらく間違いないだろうと私も思います。
日本のバブル(1980年代のバブル)がアメリカより早かったのは、日本にはバブルを起こせるほどの資本が蓄積されていたが、アメリカにはそれがなかったからである。アメリカは、他国の資本を呼び込むことで初めて、バブルを起こせたのである、と書かれています。
これは一見、説得力のある説明です。しかし、これは本当なのでしょうか?
そもそもアメリカが自国(アメリカ)でバブルを起こそうと思えば、アメリカはたんに、ドルを大量に供給すればそれで足りるのではないでしょうか? わざわざ他国から資本を呼び込まなくとも、たんにドルを大量発行すればすむのであれば、著者らの考えかたは成り立たないことになります。
ここ数年のアメリカ株式市場の状況を考えてみてください。
リーマン・ショック後の株価急落・景気悪化に対し、FRBが資金を大量に供給したことによって、アメリカの株価は急速に回復(上昇)しています。べつにFRBはバブルを起こそうと思っているわけではないでしょうが、ドルが大量に供給されたことで、株価は急速に上昇しています。
このことは、もし、アメリカが自国(アメリカ)でバブルを起こそうと思えば、外国の資本を呼び込む必要などなく、たんに、ドルを大量に供給すればよいことを示してはいないでしょうか。
とすれば、著者らの考えかたは成り立たず、
といった考えかたは「おかしい」のではないかと思われます。
萱野 要するに、日本のバブルは、アメリカが実物経済の落ち込みをおぎなうためにバブルを必要としていた状況で、アメリカにはまだその条件が整っていなかったから、そのバブルを先行して肩代わりしたものだと位置づけられるのではないでしょうか。
水野 そのような位置づけでおそらく間違いないだろうと私も思います。
株価上昇のために重要なのは、「蓄積された資金(貯蓄)の量」などではなく、「新たに流入する資金の量」ではないでしょうか?
その「新たに流入する資金」は、なにも国内貯蓄である必要はなく、外国の貯蓄であろうが、中央銀行による資金供給であろうが、なんでもよい、というのが本当のところでしょう。
つまり私は、日本のバブルはアメリカの肩代わりなどではない、と考えます。
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