NEST OF BLUESMANIA

ミュージシャンMACが書く音楽ブログ「NEST OF BLUESMANIA」です。

音盤日誌「一日一枚」#167 エアロスミス「GET YOUR WINGS」(COLUMBIA CK 32847)

2022-04-30 05:12:00 | Weblog

2003年6月6日(金)



#167 エアロスミス「GET YOUR WINGS」(COLUMBIA CK 32847)

エアロスミスのセカンド・アルバム。74年リリース。邦題「飛べ!エアロスミス」。

前年、アルバム「AEROSMITH」でデビューした彼らだが、二枚目のアルバムを発表する頃までは、日本ではまださほどの人気でなかったと思う。

人気が急上昇してくるのは、翌年アルバム「TOYS IN THE ATTIC」を出し、「SWEET EMOTION(やりたい気持ち)」、そしてラップをロックに導入したナンバー、「WALK THIS WAY」を連続ヒットさせたあたりからだろう。

その後は、皆さんご存じのように、キッス、クイーンとともに「ロック御三家」とまで呼ばれる超人気グループになるわけだが、ブレイク以前の彼らにも、なかなかいい曲がある。

<筆者の私的ベスト3>

3位「TRAIN KEPT A ROLLIN'」

タイニー・ブラッドショー(ほか)の作品だが、もちろんエアロはヤードバーズのヴァージョンでこの曲を知った世代。

それが証拠に、前半(スタジオ録音)はやや遅めのテンポながら、後半、ライヴで演奏するアップテンポのアレンジは、まさにヤーディーズ版をまんま戴いたもの。

アメリカのバンドでありながら、彼らが自国よりも英国のロックの強い影響を受けたことがよくわかりますな。

曲によっては、クイーンにもかなり近い音を出している。どちらがどちらを真似したってことではないでしょうが。

で、この曲でのジョー・ペリーのギターが(別に難しいことをやっているわけではないが)、音の伸びが実によくてカッコいいのひとこと。

これぞロック・ギター!という感じの演奏であります。また、ジョーイ・クレイマーのパワフルなドラミングもいうことなし。

しかし、邦題の「ブギウギ列車夜行便」、これはないよな(笑)。

2位「SAME OLD SONG AND DANCE」

これも邦題がスゴいぞ。なんてったって「エアロスミス離陸のテーマ」だもんな(笑)。

なんとか日本にファンを増やそうという、当時のレコード会社の宣伝マンの力作なんだろうが、どうもご苦労さまという感じ。

グループ名や、アルバム・タイトルに引っかけたまでで、歌の中身は「離陸」とはほとんど関係ありません(笑)。

タイラー=ペリー・コンビの作品。ミディアム・テンポのオーソドックスなロック・チューン。

キャッチーなギター・リフがいかにもエアロらしい。

おっと思わせるのは、バックにホーン・セクションを配し、サックス・ソロをフィーチャーしていること。

このホーンになんと、ブレッカー・ブラザーズまでが参加しとります。どうりで、イカした音だわ。

このへんに、ブリティッシュ・ロックの影響大ながらも、それに完全に同化しない、アメリカのバンドらしい個性を感じるね。

4人の演奏、タイラーの歌いぶり、ともに手堅いものがある。二枚目にして、なかなかの完成度だ。

1位「S.O.S.(TOO BAD)」

「S.O.S.」といったって、アバではない。もちろん、ピンク・レディーでもない(たとえが古すぎるか)。

なぜか邦題は「エアロスミスS.O.S」。そこまで冠を付けなくても、ええんちゃうの(笑)。

あまりにおかしいので、他のナンバーも邦題を書いちゃいますが、「SPACED」→「四次元飛行船」、「WOMAN OF THE WORLD」→「黒いコートを着た女」、「SEASON OF THE WITHER」→「折れた翼」てな具合。直訳なのは「PANDRA'S BOX」→「パンドラの箱」くらいのもんか。

でもまあ、これが約30年前の洋楽レーベルの宣伝マンの、平均的センスなので、大目に見てあげてや。

で、閑話休題。この曲はタイラーの作品。ミディアム・ファスト・テンポで、カッチリとまとまった一曲。

耳に残るシンプルなリフの繰り返し、どこか哀愁を漂わせるマイナー系のメロディ・ライン。

すでにして「エアロ節」、「タイラー節」とでもいうべき個性が確立されている。

凡百のハード・ロック・バンドにはない「サムシング」が、この曲を聴くと感じられるってこと。

まさに、「栴檀は双葉より芳し」ですな。

最後に付け加えておくと、本作よりジャック・ダグラスがプロデュースにあたっている。

明らかにデビュー・アルバムよりは、音に「しまり」が出て、曲調にも幅が出来、バンドとしてよりプロフェッショナルな相貌を見せてきているのが、この「GET YOUR WINGS」。

その「変化」は、バンド・メンバー自身の成長によるものだけでなく、ダグラスの手腕によるところも大きいと思うが、いかがであろうか。

まさに「上昇気流」にのった、イキのいい彼らを再発見して欲しい。

<独断評価>★★★☆


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音盤日誌「一日一枚」#166 V.A.「GUITAR WORKSHOP SERIES/TRIBUTE TO OTIS REDDING」(ビクター音楽産業 VDR-1659)

2022-04-29 05:08:00 | Weblog

2003年6月3日(火)



#166 V.A.「GUITAR WORKSHOP SERIES/TRIBUTE TO OTIS REDDING」(ビクター音楽産業 VDR-1659)

今日はちょっと体調が悪いので(といっても、昨日飲み過ぎただけなのだが)、短めだが許しとくれ。

人気企画「ギター・ワークショップ・シリーズ」のひとつ。89年リリース(AMGはデータ誤り)。

日本のビクターのスタッフが、アメリカのミュージシャン達とともに制作したアルバム。

なんといっても、参加アーティストの顔ぶれに圧倒される。

プロデューサー、アレンジャーを兼ねたデイヴィッド・T・ウォーカー、ブッカー・T・ジョーンズを軸に、スティーヴ・ルカサー、ジェイ・グレイドン、スティーヴ・クロッパー、フィル・アップチャーチ、エイブ・ラボリエル、ジェフ・ポーカロといった巧者が集って、稀代のソウル・マン、オーティス・レディングをカヴァーしているのだから、いやが上にも期待は高まるね。

<筆者の私的ベスト3>

3位「THESE ARMS OF MINE」

フュージョン・ファンにもおなじみの、黒人ギタリスト、フィル・アップチャーチをフィーチャーした、オーティスの自作バラード。

彼のプレイは、共演するウォーカー(全曲で登場している)との相性がわりといいように思う。

ともに、オーソドックスなブルース・プレイを得意とするだけに、「親和度」が高いのだ。

最初はアップチャーチから弾き始め、ウォーカーが引継ぎ、ジョーンズのオルガン・ソロ、ジェリー・ピーターズのピアノ・ソロをはさんで、最後はふたりのインタープレイという構成。

プレイ・スタイルの違いがほとんどないので、仲のいい友人同士の会話のように、和気あいあいとしたムードでプレイが進む。

理想のギター・デュオとは、まさにこういうのをいうのだろうね。

2位「I'VE BEEN LOVING YOU TOO LONG」

オーティス自身のステージでもハイライト的な曲だったこのバラードを演奏するのは、ウォーカーとグレイドン。

ウォーカーから弾き始め、グレイドンへソロを渡す。後半ではふたりの掛け合いもある。

このふたりが実に対照的。ウォーカーはギブソンのフルアコでひたすらブルーズィな演奏、グレイドンはテレキャス・タイプなれどハムバッカー&トレモロアーム搭載のモデルでロックなプレイ。

ワタシ的には、ウォーカーのほうが曲調に合っている気がするので、彼に軍配を上げてしまうが、グレイドンのディストーションの効いたエモーショナルな音も、実は捨てがたい。

ちょっと木に竹を接いだという感じもしないではないが、ドラマティックな盛り上げ方は、さすがトップ・プレイヤーだ。

1位「(SITTIN' ON) THE DOCK OF THE BAY」

オーティスといえば、この曲抜きで語るわけにはいくまい。彼の死のまぎわに録音された遺作にして、代表的ヒット。

オーティスとともにこの曲を作ったクロッパー自らがギター・ソロを弾いているのだから、出来が悪いわけが無い。

おなじみのサンバースト・テレキャスター(ローズウッド・ネック)を操り、純正サザン・ソウルな音を聴かせてくれる。

バックも、盟友ジョーンズのオルガンはいうまでもなく、ジェリー・ピーターズのピアノもいい味を出しているし、リズム隊(ジョン・ロビンスン、スコット・エドワーズ)もビッグ・ネームではないが手堅いプレイだ。

「THESE ARMS OF MINE」についてもいえるが、派手な要素はまるでないし、どこか「いなたい」が、まことに心なごむ音。そういう感じだ。

この一枚、全体にロック系より、ブルース、ソウル系のギタリストのプレイのほうに見るべきものがあると思うのだが、それはやはり、彼らのほうがオーティスの「音」の本質、すなわち「うたごころ」をよく知っているからだろう。

各自が好きにやってるふうで、統一感にはいささ欠ける内容だが、個々のギタリストのプレイはなかなか楽しめます。機会あれば、試聴してみては。

<独断評価>★★★


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音盤日誌「一日一枚」#165 スリー・ドッグ・ナイト「CAPTURED LIVE AT THE FORUM」(MCA MCAD-31342)

2022-04-28 05:05:00 | Weblog

2003年5月31日(土)



#165 スリー・ドッグ・ナイト「CAPTURED LIVE AT THE FORUM」(MCA MCAD-31342)

スリー・ドッグ・ナイトのサード・アルバム。ロサンゼルスの「ザ・フォーラム」におけるライヴを収録。69年リリース。

スリー・ドッグ・ナイトというグループ、いまやご存じでないかたも多いかも知れないが、30年ほど前の彼らの人気たるや、すさまじいものがあった。

68年、LAで結成されるや、たて続けにヒットを飛ばし、日本でも70年の「ママ・トールド・ミー」のヒットあたりから火がつき始め、一時はCCRとならぶヒットチャートの常連だった。

76年ごろまでは毎年ヒット・アルバムを出しており、77年の活動停止のニュースが、本当に残念だったものである。

彼らのユニークさは、チャック、コリー、ダニーの三人の個性的なシンガーが、それぞれリードも取る一方で、見事なハーモニーを聴かせてくれるというところにあった。

<筆者の私的ベスト3>

3位「ONE」

これはファースト・アルバム「THREE DOG NIGHT」のトップを飾っていたナンバー。彼らの初のシングルでもある。

ハリー・ニルスンの作品。彼らは後に自分たちのオリジナルも書くようにはなるが、最初はもっぱら他のアーティストのカヴァーをしていた。

緊張感あふれるイントロに続き、チャックのソロ・ヴォーカルが始まる。おヒゲのマスクとはちょっとイメージが違って、わりと高めの美声だ。

サビで三人のコーラスが炸裂。ハイ・トーンがバッチリ決まる。これぞスリー・ドッグ・ナイト・サウンド。

ニルスンの素朴な雰囲気のオリジナルにも、それなりの良さはあるが、彼らの見事な歌唱力の前にはやはりかすんでしまうね。

とにかくひたすらパワフル、ソウルフルな歌は、どう聴いてもポッと出の新人って感じじゃない。

あまり言及されることはないが、バックのタイトな演奏も実にごキゲンであります。

2位「FEELING ALRIGHT」

セカンド・アルバム「SUITABLE FOR FLAMING」(69年)のファースト・チューン。

英国の実力派バンド、「トラフィック」のナンバー。メンバー、デイヴ・メイスンの作品。

ここでのヴォーカル、コーラスも最高にソウルフル。オリジナルのスティーヴ・ウィンウッドの巧みな歌にも、もちろんヒケをとっていない。

キーボードのジミー・グリーンスプーンも、ウィンウッドとタメを張る、ファンキーでイカしたオルガンを聴かせてくれる。

白人だが黒っぽさでは黒人以上とさえ呼ばれた英米二大バンドの競作、見事であります。

当時同じく超人気をほこっていた、グランド・ファンク・レイルロードもカヴァーしている曲なので、三者三様ぶりを聴きくらべてみるのもいいかも。

本盤ではもう一曲、トラフィック・ナンバー「HEAVEN IS IN YOUR MIND」もトップでやっていて、これもコーラスがなんともカッコいいので要チェキです。

1位「TRY A LITTLE TENDERNESS」

コンサートのハイライト。コリー・ウェルズの持ち歌だったと記憶している。

日本でいえばB'Zの稲葉浩志みたいな端正な顔立ちながら、彼は意外と黒っぽい「ソウル」な声をしている。この激しいギャップがいいのかも知れない。

曲はもちろん、オーティス・レディングの持ち歌。彼らのファースト・アルバムのラスト・チューンでもある。

あとのふたりはほとんど出る幕でなく、ほぼコリーひとりの独擅場だ。

黄色い歓声の中、オルガンのバッキングに乗って、身をよじらせつつ、じっくりと歌いあげるコリー。ご本家オーティスもあの世で歯ぎしりをしてくやしがりそうな、「濃い」パフォーマンスだ。

「YOU GOTTA」の執拗な繰り返し、そしてキメの「SUCK IT TO ME」にもう、オーディエンスは狂喜乱舞状態なのがよくわかる。血沸き肉躍るとは、まさにこのこと。

これを聴いて興奮せんひと、「うるさいだけだな」なんて思うひとは、クラシックだけ聴いてなさい、そういう感じ(笑)。

音質的にはベストなコンディションではないが、この「熱さ」には圧倒されますな。

ファンキーなナンバー満載の、カヴァー選曲のセンスも二重マル。ホント、いい曲を見つける嗅覚があるよね。

未聴のかたはいうに及ばず、昔聴いたことがあるけど、何十年も聴いてないよというかたにも、おススメです。

<独断評価>★★★☆


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音盤日誌「一日一枚」#164 クルセイダーズ「SCRATCH」(MCA MCAD-37072)

2022-04-27 05:12:00 | Weblog

2003年5月28日(水)



#164 クルセイダーズ「SCRATCH」(MCA MCAD-37072)

クルセイダーズ、74年リリースのライヴ・アルバム。ロサンゼルスは「ザ・ロキシー」における録音。

クルセイダーズといえば、前身のジャズ・クルセイダーズが結成されたのが60年だから、実に40年以上の歴史をほこるインスト・グループである。

当然ながらリリースしたアルバムの数もハンパでなく、約50枚。これを全部聴くことだって、どえらく大変なことだ。

だが、彼らくらいの、名うてのプレイヤー集団になれば、どれを選んでもそうハズレはないだろう。

ということで、ほとんど「無作為抽出」的に選んだのが、この一枚だ。

<筆者の私的ベスト3>

3位「ELEANOR RIGBY」

ベスト3とはいっても、5曲しか入ってないアルバムなので、半分以上の紹介になっちゃうのですが、まずはこれ。

いうまでもなく、ザ・ビートルズ、レノン=マッカートニーの作品。オリジナルは66年のアルバム「リボルバー」に収録。

テナー・サックスのウィルトン・フェルダー、トロンボーンのウェイン・へンダースンをフィーチャーして12分半にも及ぶ演奏を繰り広げるのだが、これが少しも冗長な感じがしない。

なんでだろう~?とテツ&トモ風に考えてみたが、考えられるのは、

1 全体のアレンジというか構成が、きちんと練られていて、ゆきあたりばったりの進行ではない。盛り上げどころをしっかり計算している。緩急、メリハリがうまくつけられている。

2 個々のソロイストの技量が極めて高く、フレーズの引き出しが豊富で、聴く者をあきさせない。

3 そしてもちろん、サウンドの土台であるリズム・セクション(ジョー・サンプル、マックス・ベネット、スティックス・フーパー)の技術が確かである。

ということになるんだろうな。当たり前の結論といえば、それまでなんだが。

アレンジという「計算」の部分と、インプロヴィゼイションという「非計算」の部分が見事に融けあって、他バンドにはおいそれとまねできない、絶妙な音の魔術を生み出しているとゆーことだ。

ソロは、まずフェルダー、続いてヘンダースン、さらにはサンプルがとる。いずれも、パッショネイト、でもどこか物憂げなフレーズがいい。それをまた、バックの巧者たちがしっかりと盛りたてる。

調べてみると彼らは、この曲を68年のアルバム「LIGHTHOUSE」で取り上げて以来ずっとレパートリーにしているそうで、なるほど年月をかけてじっくり練り込んだアレンジなのだなと、ナットク。

2位「SO FAR AWAY」

こちらも、ポップス・ヒット・チューンのカヴァー。キャロル・キング、71年の超ヒット・アルバム「つづれおり」中の代表曲。

多くのアーティストにカヴァーされているが、その中でもこのヴァージョンは出色の出来だろう。ここでもふたりのホーン・プレイヤーを中心に、完成されたメロウなアンサンブルを聴かせてくれる。

かのラリー・カールトンも、この時点では正式メンバーではなかったが、「フレンズ」ということで参加しており、どちらかといえばリズム・カッティングやリフ中心であまり前面には出てこないものの、この曲などではキラリと光るソロ・プレイをしている。

この曲での最大の聴きものは、ホーンのふたりの「どこまで息つぎせずに長い音を出せるかやれるだけやってみましょう」的ロング・トーンのところですな。

ゆうに1分を超え、しかも段々と大きくなるワン・トーンに、とにかく圧倒されます。

1位「SCRATCH」

1位はやはり、タイトル・チューンだろうな。いかにも彼らのお家芸といった感じのファンク・ナンバー。ヘンダースンの作品。

「スクラッチ」というのは、英語で「ガチンコ勝負」みたいな意味じゃなかったっけ?

だとすれば、まさにナットクの一曲。粘っこいミディアム・テンポのビートに乗せて、2本のホーンがひたすらファンキーに咆哮しとります。

フェルダーとヘンダースン、いずれも勝ちを譲らぬ「猛者」ふたり。さすがの風格です。

そしてソロ・パートはフェルダー。サイコーの音色です。

もうひとりの立役者、サンプルのフェンダー・ローズでのプレイも、もちろんごキゲン。

「ファンクの教科書」ともいえそうな名演ぞろい。でも妙にリキむようなこともなく、最後までさらっと演奏しているのも、実力派の彼らならでは。

やはり彼らの底力は、生演奏でこそ発揮される。それを思い知らせてくれる一枚ナリ。

<独断評価>★★★★☆


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音盤日誌「一日一枚」#163 ジョージ・ベンスン「ベスト・オブ・ジョージ・ベンスン」(Warner Bros. WPCR-473)

2022-04-26 05:15:00 | Weblog

2003年5月25日(日)



#163 ジョージ・ベンスン「ベスト・オブ・ジョージ・ベンスン」(Warner Bros. WPCR-473)

ジョージ・ベンスン、ワーナー・ブラザーズ時代のベスト・アルバム。95年リリース。

76年の「ブリージン」から、86年の「ホワイル・ザ・シティ・スリープス」に至るまでのアルバムから、厳選された14曲を収録している。

ベンスンといえば、ヴォーカリストというイメージが一般的には強いようだが、もともとはジャズ畑のギタリスト。

64年にレコード・デビューした当時は、もっぱら「ポスト・ウェス・モンゴメリー」という扱いだったと思う。

その後、ビートルズの「アビイ・ロード」のカヴァー・アルバムなどを出し、その中でヴォーカルもとったりして、次第にポップスの世界に接近。

意外に歌がうまいということが世間にも知られるようになり、ワーナーとも契約、ヴォーカル・アルバム「ブリージン」を出してみたら、これが予想以上にヒット。なんと全米ポップ・アルバム・チャートで1位を獲得する。

並行してCTIでジャズ・アルバムも出していくが、そちらとは比べものにならないセールスを記録するのである。

以来、95年までの在籍期間中に、ワーナーで13枚ものオリジナル・アルバムを出すに至る。

その後彼は、ジャズの世界に本格復帰、現在までGRP等で作品を発表し続けている。

そんな「二足のわらじ」な彼の、「流行歌手」時代が総括できる一枚なんである。

<筆者の私的ベスト3>

3位「THIS MASQUERADE」

ご存じレオン・ラッセル作の名曲。ベンスンのシンガーとしての地位を不動のものにしたヒット・ナンバーだ。「ブリージン」収録。

一番よく知られるカーペンターズ版よりは、気持ち遅めのテンポで、ディープな歌をご披露。

ピアノとストリングスの音色が実に美しい、洗練されたサウンドと、ベンスンのメロウかつソウルフルなヴォーカルが見事にカクテルされて、リスナーに心地よい酔いを提供してくれる。

これが売れないわけがない。シングルは全米ポップ・チャートで10位にランク・イン。

グラミー賞の最優秀レコードにも選ばれ、ベンスンの名声を一躍世界中に広めたのである。

ここで注目すべきは、ギターとスキャットのユニゾンという、難易度の高い「合わせ技」だろう。

トゥーツ・シールマンスの、ギターと口笛のユニゾン・プレイと並ぶ、トップ・ミュージシャンならではの名人芸だと思う。

これは、いかなスゴテク・ギタリストでも、そう簡単に真似の出来るものではあるまい。

2位「ON BROADWAY」

三枚目にしてライヴ・アルバムでもある79年リリースの「メロウなロスの週末(WEEKEND IN L.A.)」から。

ドリフターズの大ヒットのカヴァー。リーバー&ストーラー、マン&ウェイルという豪華なチームによる作品。

こちらも全米7位のヒットだったというから、当時の彼の人気がいかにすさまじかったかが、よくわかるだろう。

この曲でも、スキャット&ギターの超絶技巧を披露しているので、聴きのがせない。

ドリフターズの原曲よりテンポも早く、ファンキー度もさらにアップ、実にごキゲンなソウル・チューンに仕上がっている。

ベンスンのみならず、バックをつとめるキーボードのホルヘ・ダルト(アルゼンチン出身)、同じくロニー・フォスター、リズム・ギターのフィル・アップチャーチ、パーカッションのラルフ・マクドナルド、ベースのスタンリー・バンクス、ドラムのハーヴィー・メイスン、いずれも名うての巧者ぞろいで、聴きごたえは十分である。

1位「GIVE ME THE NIGHT」

80年リリースのアルバム「ギヴ・ミー・ザ・ナイト」のタイトル・チューン。

これも他アーティストの提供作品。マイケル・ジャクスンに「ロック・ウィズ・ユー」「オフ・ザ・ウォール」「スリラー」等一連のヒット曲を書いたコンポーザー、「ブギー・ナイツ」をヒットさせた「ヒートウェイヴ」のリーダーでもあったロッド・テンパートンのナンバーだ。

キャッチーなファンク・ナンバーを得意とするテンパートンの生きのいいメロディを、これまたスゴ腕でアレンジ、プロデュースするのは、かのクインシー・ジョーンズ。もう、これだけでも、期待するなというのが無理だよね。

ベンスンはここでは、他の曲とは違って歌い込み過ぎず、飄々とした感じなのが面白い。でも、サビでは危なげなくソウルフルにキメてくれる。

ギター演奏はやや抑え気味、全体のアンサンブルに溶け込むような弾き方なのも、興味深い。

また、バックがものスゴく豪華なのも、ベンスンならでは。リー・リトナー、ハービー・ハンコック、リチャード・ティー、エイブ・ラボリエル、エトセトラ、エトセトラ。実力派女性シンガー、パティ・オースティンもバック・ヴォーカルで参加しているので、これも要チェキです。

とにかく、ベース・ラインがビンビン、腰にきます。ノリのよさで、一位にケッテーイ!

もちろん、他にもごキゲンな曲は一杯あります。「愛の幾何学(LOVE X LOVE)」しかり、「僕の愛を君に(I JUST WANNA AROUND YOU)」しかり、「キッス・イン・ザ・ムーンライト」しかり。ベンスンは声域も広く、どの曲も実にソツなく器用にこなしている。

とてもギタリストの「副業」のレベルではない。ギターを一切やめて、ヴォーカル一本に絞ったとしても、十分やっていけるレベル。

逆に、そういう「器用貧乏」さがいささか災いして、ギタリストなのかヴォーカリストなのか、どっちつかずになっている気もしないではないが、これはギター、歌、どちらでも勝てない才能のない人間のヤッカミというものだろう(笑)。

あっさりと「流行歌手」のポジションを返上して、今はジャズに専念している(歌はうたうが)彼だが、ヴォーカリストとして開花した76~95年は、まさに黄金の20年だったと思う。

声よし、曲よし、アレンジよし。これぞ、プロフェッショナル・ミュージック。違いのわかる「おとな」なひとには、ぜひのおススメである。

<独断評価>★★★


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音盤日誌「一日一枚」#162 チャック・ベリー「THE LONDON CHUCK BERRY SESSIONS」(MCA/Chess CHD-9295)

2022-04-25 06:05:00 | Weblog

2003年5月22日(木)



#162 チャック・ベリー「THE LONDON CHUCK BERRY SESSIONS」(MCA/Chess CHD-9295)

チャック・ベリー、72年リリースのアルバム。

チェス・レーベルは60年代後半より、自社の黒人アーティストと、白人ロック・ミュージシャンとのコラボレーションによるアルバムを次々と企画、リリースしていたが、これもその手の一枚。

往年のロックン・ロール・スター、チャック・ベリーが、自らのバンドを引き連れて英国はロンドンに乗り込み、現地のミュージシャンたちとも共演したのである。

アルバム前半の5曲は現地ミュージシャンたちとのスタジオ・セッション、後半の3曲はロンドンの郊外、ウェスト・ミッドランズ州コヴェントリーにおけるライヴ録音だ。

いずれも、おりからのロックン・ロール・リバイバルの波にのり、みごと復活を果たしたチャック・ベリーの健在ぶりがうかがえる。

<筆者の私的ベスト4>

4位「MEAN OLD WORLD」

チャック・ベリーもまた、立派なブルースマンであることを証明するナンバー。ご存じ、リトル・ウォルターの作品。

ロンドンのミュージシャンたちとのセッション曲のひとつだ。

チャックのギターによる前奏に続き、ヴォーカル、ギター・ソロと、6分近く、完全に彼の独演会状態。

彼のブルース・ヴォーカルは、多くのブルースマンに比べるとライト(明るい&軽い)な印象はあるものの、これはこれでひとつのスタイルとして完成していると思う。

いつも陽気な彼とは違った、レイジーで、どこか哀愁をただよわせる歌声が、意外とイケてます。

3位「LONDON BERRY BLUES」

チャックのオリジナル、というよりは、即興で作られたインスト・ナンバー。ブルースというよりは、早めのテンポのロックン・ロール。

タイトルは、当然「ロンドン・デリー」にひっかけてあるんだろうな。これもまた、セッション・サイドの曲。

ジョニー・Bスタイルのイントロから始まり、延々と最後まで弾きまくるチャック。フレーズの多様さに驚かされる。彼のギタリストとしての底力を感じさせる一曲だ。

バックをつとめるのは、昨日の「一日一枚」にも登場したスモール・フェイシズのイアン・マクラガン(ピアノ)とケニー・ジョーンズ(ドラムス)、そしてスタジオ・ミュージシャンのデイヴィッド・グリフィス(ギター)。

彼らは、あくまでも主役のチャックを立てるように手堅く、でもパワフルなプレイを聴かせてくれる。

2位「MY DING-A-LING」

ライヴ・サイドのハイライトとでもいうべきナンバー。チャックのMC、聴衆への"歌唱指導"を含む、実に11分半にもおよぶロング・トラック。

その内容は、いわゆる「春歌」で、ほのぼのとしたユーモアを感じさせるナンバーだ。

バックコーラスをまかされたイギリスの聴衆たちも、最初は手探りで歌っていたのが、回数を重ねるごとに次第に乗ってきて、最後は迫力ある大合唱となっていく。にわか仕立ての合唱団にしては、見事なまとまりかただ。

"指揮"をするチャックの、いかにも楽しげなMCを聴いていると、こっちまでなごやかな気分になってくる。ほんと、聴衆の「のせ方」「笑わせ方」がうまいんだ。

超一級のエンタテイナーとしてのチャックを知るには、一番いいサンプルだと思うね。

1位「JOHNNY B. GOODE」

「MY DING-A-LING」から間髪を入れず始まるラスト・ナンバーが、これ。やはりこの曲なしでは、始まらない。

米英、黒人白人を問わず、いろんなミュージシャンがカヴァーしてきた曲だが、やっぱり本家本元、そのヴォーカルとギターには誰にも真似の出来ない「味」がある。

がなるような乱調ヴォーカル、ギターの独特のソリッドな響き。これぞ、チャック・ベリー!!!

バックは、チャックのレギュラー・バンドに、ドラムスでロビー・マッキントッシュ(アヴェレージ・ホワイト・バンド)が加わった編成だ。

大熱演、大興奮のうちに、ステージは終了。その後も、聴衆の「WE WANT CHUCK」コールが、終わることなく続いていく…。

この一枚、チャックがブリティッシュ・ロックのミュージシャンと組んだところで、別にいつもと変わったことをやっているわけではない。

いかにもチャック・ベリーらしいナンバー(たとえば「MEMPHIS」タイプの「LET'S BOOGIE」とか)を、彼の曲を聴いて育ってきた若い連中と一緒に、楽しげに演奏しているだけ。

でも、それで十分だという気がする。だって、世界中どこへいったって、チャックはチャック。そのギター・プレイを一小節聴きさえすれば、一発で彼と判る、そういうひとなんだから。

「永遠のワン・パターン」ほど強力なものはない。そう、「ロックン・ロール」という不滅の切り札が、彼にはある。

チャック・ベリー、本盤の録音時、齢45歳の働き盛り。まさに、脂の乗り切った歌とプレイだ。

完成度うんぬんは置いといて、ほんとうに理屈抜きに楽しめる一枚であります。

<独断評価>★★★☆


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音盤日誌「一日一枚」#161 スモール・フェイセズ「ベスト・オブ・スモール・フェイセズ」(テイチク TECW-20475)

2022-04-24 05:55:00 | Weblog

2003年5月21日(水)



#161 スモール・フェイセズ「ベスト・オブ・スモール・フェイセズ」(テイチク TECW-20475)

一昨日取り上げたザ・フーは、元々モッズ・グループからスタートしたが、彼らと並んでモッズの代表格だったのが、このスモール・フェイセズ。

結成は意外に古く、65年。スティーヴ・マリオット、ロニー・レーンを中心にした四人編成。

同年、シングル「WHATCHA GONNA DO ABOUT IT」でデッカ(デラム)よりデビュー。ファースト・アルバム「THE SMALL FACES」は翌年にリリースしている。

67年にはイミディエイトに移籍。マリオットが69年に脱退し、その後、ロッド・スチュアート、ロニー・ウッドが加入してアルバム「FIRST STEP」(1970)を発表するまでは、スモール・フェイセズの名で活動。

次作の「LONG PLAYER」(1971)よりフェイセズと改めることになる。

このアルバムはマリオット在籍時代のベスト盤。デッカ、イミディエイト両レーべルをカヴァーしているので、彼らの軌跡を把握するにはもってこいの一枚だ。

<筆者の私的ベスト4>

4位「HAPPY BOYS HAPPY」

本盤唯一のインスト・ナンバー。キーボードのイアン・マクラガンのオルガン、そしてピアノをフィーチャー。67年録音。

これがなんともクール。ブッカー・T・ジョーンズに強く影響を受けた演奏スタイルで、ファンキー、ソウルフルで、しかもジャズィ。

ワン・ギター、しかもシンガーが兼任ということで、ギターがやや手薄な彼らだが、それを補って余りあるパワフルなサウンドをマクラガンは生み出している。彼はいわば、バンド・サウンドの支柱的存在だといえる。

3位「TIN SOLDIER」

邦題「涙の少年兵」として知られる、67年リリースのシングル曲。マリオット=レーンの作品。

黒人女性シンガー、P・P・アーノルドをバックに迎えたこの曲、とにかく「ソウルフル」の一言。真っ黒けのけなのである。

この曲でもイアンのキーボードが大きな効果を上げており、それに負けじとマリオットが渾身の力でシャウト。

67年といえば、英国ではビートルズが「サージェント」、ストーンズが「サタニック・マジェスティーズ」を出したころで、そんな音が主流な中で、ここまで「ど」がつくぐらい「ソウル」な音を極めていたとは、驚きの一語。

ハンブル・パイのブラックな音に、あと一手。67年で、すでにリーチがかかっていたのである。

2位「ALL OR NOTHING」

66年リリース、彼らにとっては5枚目のシングル。マリオット=レーンの作品。

この盤では68年、ニューキャッスルでのライヴ・ヴァージョンを収録。

これを聴くと、彼らは演奏にもたけているものの、本質的には「歌」を聴かせるグループなのだなと感じる。

ギター等のソロもほとんど省いた、シンプルな構成。マリオットの力強いヴォーカル、そしてそれをサポートするロニーたちのコーラス、いずれも素晴らしい。

彼らは、多くのハードロック・バンドのように器楽演奏主体ではなく、あくまでもヴォーカルがメインなのだ。

ザ・ジャム、スタイル・カウンシルから、最近はプライマル・スクリーム、オーシャン・カラー・シーンに至るまで、後代のバンドに与えた影響には、はかり知れないものがある。

1位「ITCHYCOO PARK」

スモール・フェイセズといえばやはり、この曲を抜きには語れまい。

イミディエイト移籍第二弾のシングル。マリオット=レーンの作品。

全英第三位に見事チャート・インしただけではない。当時アメリカでは無名同様の存在だった彼らが、初めて全米チャートにランクイン(16位)を果たした、記念すべき曲なのである。

アコギをフィーチャーした、どこかフォーキーなサウンドは、それまでソウル一辺倒のイメージの強かった彼らとしても、ちょっと異色。

「モッズ」の固定されたイメージをかなぐり捨てて、彼らにしかないオリジナリティを打立てた、という意味でも「ターニング・ポイント」な一曲。

ソウルっぽいヴォーカルと、ソフトなサウンドが見事にブレンドされて、絶妙な味わいをかもし出している。

ロッドらフェイセズの、後年の大活躍も、すべてここからスタートしたのだ。必聴です。

本盤は全26曲、しかも名曲てんこ盛りなので、選に漏れた中にも素晴らしい曲は数多い。

たとえば、デビュー曲「WHATCHA GONNA DO ABOUT IT」、初期のヒット「SHA LA LA LA LEE」、英国内で最大のヒット「LAZY SUNDAY」などなど。

以前に取り上げたアルバム「OGDENS NUT GONE FLAKE」所収の「AFTERGLOW」「SONG OF A BAKER」「ROLLIN' OVER」も捨てがたい。

マリオット=レーンの曲作りのセンスも最高だし、歌も演奏も実にホット。まだのかたも、ぜひ一度は聴いてみなくちゃ、大損でっせ。

<独断評価>★★★★


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音盤日誌「一日一枚」#160 ザ・フー「フーズ・ネクスト」(ポリドール POCP-2336)

2022-04-23 05:24:00 | Weblog

2003年5月19日(月)



#160 ザ・フー「フーズ・ネクスト」(ポリドール POCP-2336)

ザ・フー、6枚目のオリジナル・アルバム、71年リリース。

昨年6月、ベースのジョン・エントウィッスルが亡くなり、オリジナル・メンバーがふたりだけとなったザ・フー。

名プレイヤーたちがひとり欠け、ふたり欠けていくのは、実に淋しい限りだが、こうして昔のアルバムを引っ張り出して聴いていれば、彼らの絶頂期がすぐ目の前に蘇ってくるから、そう悲観的になる必要もないような気もする。

そのくらい、このアルバムでの四人のプレイは、エクセレント!なのだ。

<筆者の私的ベスト4>

4位「BEHIND BLUE EYES」

ギターのピート・タウンゼントの作品。例によって、ほとんどの曲は彼が手がけている。

メロディ・ライン、そしてアコースティック・ギターの響きがこの上もなく美しい、バラード・ナンバー。

で、このままアコギ・アレンジで終わるのかと思っていたら、後半はガラリ、ハードな曲調へと変わる。

このアレンジ、四人の歌唱・演奏が素晴らしいのはもちろんだが、さらにサウンドのクォリティを高めているのが、録音技術の高さだ。

グループとともにプロデュースにも加わっている、グリン・ジョーンズによる完璧な録音・ミキシングのおかげで、本アルバムはロック史上でも極めて高い評価を得ることが出来たのだと思う。

3位「MY WIFE」

ジョンの作品。本アルバム中、唯一ピート以外が書いたナンバーだ。クレイジーな妻に追いかけられ、悩まされる飲んだくれ亭主の歌。

筆者は、この曲の歌詞がなかなかユーモラスでユニークなのが気に入っている。まるでドタバタコメディ映画の一シーンのようで、笑える。

ジョンはこの「フーズ・ネクスト」の発表とほぼ同じころ、最初のソロ・アルバム「SMASH YOUR HEAD AGAINST THE WALL」もリリースしている。

トップ・グループのべーシストというポジションにいても、自分で曲を書き、そして歌いたいという欲求は断ちがたかったのだろう。

音楽的にはほぼピートの独擅場であるザ・フーを離れて、何種類もの楽器を巧みに操り、やりたいことを自由にやった結果、「SMASH~」は本盤に劣らぬ、完成度の高いアルバムに仕上がっている。

この「MY WIFE」もまた、ジョンのすぐれた才能を証明する一曲だと思う。カントリー・フレイバーの感じられるメロディ・ライン、ちょっと甲高いジョンのヴォーカルもいい。

ベースのみならず、ブラス、ピアノまで演奏する、彼のマルチ・プレイヤーぶりにも注目だ。

2位「BABA O'RILEY」

冒頭からいきなり始まる、シーケンサーを使用したシンセ・サウンド。前作までのザ・フーのイメージを塗り変える、新しい世界の始まりだ。

ロジャーのヴォーカルは、従来にもまして力強く、自信に満ち溢れているかのようだ。

激しいビートの洪水に、リスナーは飲み込まれ、酔い痴れる。

そしてダメ押しは、シンセ・サウンドに乗って自在に飛び回るヴァイオリン・ソロ。見事なまでの、躍動感。

これを聴けば、半端なプログレ・バンドなど、尻尾を巻いて逃げ出すだろう。アイデア、演奏ともに、申し分ない。

1位「WON'T GET FOOLED AGAIN」

邦題「無法の世界」で知られるシングル・ヒット。アルバム・ヴァージョンでは、シンセ・ソロなどがカットされずに収録されているので、8分半あまりの大作となっている。

ハードロック・バンドとしての実力は、すでに前作「ライヴ・アット・リーズ」(本コーナー、2001.1.13の項参照)で証明済みの彼らだったが、そのハードなロックン・ロールと、当時先端のシンセサイザー・サウンドを合体させ、進化させたのが本盤のサウンドであり、その最高傑作がこのナンバーだといえる。

ロジャーの野性、ピートの緻密な計算、ジョンの迫力、キースの感性、すべてがピークの状態でのパフォーマンス、こりゃ無敵だわな。

最後まで息をもつかせぬ、たとえ一秒たりともゆるがせにしない音作りは、もう、ひれ伏して崇め奉るほかない。

当時、ポスト・ビートルズの座をめぐって、ストーンズ、ZEP、そしてこのザ・フーが熾烈な競争を繰りひろげていたわけだが、71年度は、このアルバムが「ローリング・ストーン」誌で最高の評価を獲得、全英チャート一位にもつくなど、見事彼らに軍配が上がったのだった。

たしかに、このアルバムの完成度は、彼ら自身でさえ、その後凌ぐことが出来ないくらいだった。

曲、パフォーマンス、録音、どれをとっても超一級品の「フーズ・ネクスト」、これこそがロックの「奇蹟」に違いない。

<独断評価>★★★★★


2022年11月28日(月)(再投稿)

英国のロック・バンド、ザ・フーの5枚目のスタジオ・アルバム。71年リリース。

前年発表の「ライブ・アット・リーズ」が大ヒット(全英3位、全米4位)となり、次作への期待が高まっていた彼らが、満を持して世に問うたのがこの一枚だ。

ザ・フーが、かつてストーンズのプロデューサーを務めていたグリン・ジョンズと組んで共同プロデュース。

セールス結果は初の全英1位、そして全米4位と前作以上の大成功を収めている。

内容的には、ライブでは再現出来ないスタジオ録音ならではのきめ細かい、凝ったサウンド・ワークが詰まっていて、聴きごたえ十分である。

例えばオープニングの「ババ・オライリィ」。

シンセサイザー、シークエンサーのループ・プレイを上手く取り入れたサウンドは、これまでのフーにはない新たな世界を感じさせる。

ゲストのバイオリン奏者、デイヴ・アーバスの流麗な演奏も相まって、ジプシー音楽風というか、異国趣味なムードを醸し出している。

フーと言えば、ベースのジョン・エントウィッスルが各種管楽器をこなすなど、なかなか手先が器用なバンドであることが知られているが、本作ではピート・タウンゼントの多芸ぶりが全面にフィーチャーされている。

ピアノ、オルガンだけでなく、まだまだ普及途上のアープ・シンセサイザー、EM3シンセサイザーをいち早く導入して使いこなしている。さすがである。

続く「バーゲン」はアコースティック・ギターのサウンドから始まる、ベースが身体を揺さぶるような重厚なハード・ロック。ここでもシンセサイザーが効果的に使われている。

「ラヴ・エイント・フォー・キーピング」は、これまたアコギをフィーチャーした、いなたい雰囲気のカントリー・ロック。

どことなく、当時台頭して来たアメリカのサザンロックに通じるものがある。要するに、アメリカ人好みの音なんだな。

「マイ・ワイフ」はエントウィッスルの作品で、彼がリード・ボーカルも取っている。線の太い歌声が印象的だ。

エントウィッスルはほぼ同時期に自らの初のソロ・アルバム「衝撃!!」もレコーディングしていたくらいで、フーで最も静かな男、寡黙な男と呼ばれていた彼も、創作意欲は実はバンド一旺盛だったのかもしれない。

「ソング・イズ・オーヴァー」はピアノをフィーチャーした壮大なバラード・ロック。サウンドの広がりがなんとも見事だ。

「ゲッティング・イン・チューン」はステディなピートがロックンロール。タウンゼントのピアノがカッコよい。

「ゴーイング・モービル」は軽快なカントリー・ロック調のナンバー。タウンゼントのリード・ボーカル。

ハードでヘビーな音だけでなく、こういう「軽み」を感じさせるサウンドもまた、フーの魅力と言えるだろう。

「ビハインド・ブルー・アイズ」はアコギのバッキングで歌われる、メロディ・ラインの美しいバラード・ナンバー。ハーモニーも素晴らしい。

後半はテンポ・チェンジ、ロック・スタイルでビシッとキメてくれる。実に上手い構成だ。

ラストは「無法の世界」。シングルカットされて、日本でもそこそこヒットしたので、覚えているかたも多いだろう。

グリン・ジョンズが関わったこともあるのだろう、どことなくストーンズを意識した曲調のロックンロールであるが、そこにフーならではのハードなテイスト、そしてシンセサイザー・プレイの新味が合わさり、シンフォニックな世界を構築している。

威風堂々とはこういうことか。まことに見事な終幕である。

ストーンズやツェッペリンというビッグネームを向こうに回して互角に勝負できる英国バンドといえば、ザ・フーをおいてない。

ザ・フーの総力戦の成果と言えるこのアルバム、間違いなく彼らの最高傑作と呼べるだろう。


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音盤日誌「一日一枚」#159 シンディ・ローパー「SHE'S SO UNUSUAL」(Epic 62169)

2022-04-22 05:04:00 | Weblog

2003年5月18日(日)



#159 シンディ・ローパー「SHE'S SO UNUSUAL」(Epic 62169)

シンディ・ローパーのデビュー・アルバム。84年リリース。

遅咲きの個性派シンガー、シンディが齢三十にして初めて世に問うた作品。当時日本でも大ヒットしたから、ご記憶のかたも多いだろう。

あれから、19年。彼女も五十歳目前となったが、現在でも数年に1枚のペースでアルバムをリリース、地道に活動している。

彼女の魅力といえば、その天然(?)のファニーなキャラ、ぶっとんだファッション、そしてなんといっても千変万化のミラクル・ヴォイスだろう。

<筆者の私的ベスト4>

4位「SHE BOP」

彼女の魅力にもうひとつ加えるなら、「ユニークな発想での曲作り」も上げられるかもしれない。

この「SHE BOP」は、わかるひとならわかると思うが、バディ・ホリー歌う「RAVE ON」の本歌取りだ。

それもメジャーではなく、マイナーにおきかえるという「ヒネリ」が入っており、歌詞のほうもシンディ流のエスプリ、シニシズムが加味されて、原曲のイメージをいい意味で裏切っている。さすが。

派手なテクノポップ風アレンジも、当時の流行の「先端」を感じさせます。

3位「TIME AFTER TIME」

アレンジも担当するキーボーディスト、ロブ・ハイマンの作った、哀感に満ちたバラード・ナンバー。

ここでのシンディは、あえて「不思議ちゃんヴォイス」でなく、正統派の唱法でしっとりと歌い上げている。

彼女の引き出しの多さをしめす、好例といえるだろう。

最後に延々と続く「TIME AFTER TIME」のリフレインが、心に迫ります。名曲です。

2位「ALL THROUGH THE NIGHT」

「TIME AFTER TIME」が”静”のバラードの傑作だとすれば、”動”のそれはこの曲。

バック・ヴォーカルをつとめる男性シンガー・ソングライター、ジュールズ・シアーの作品。

しみじみとしたメロディ・ラインながら、リズミックなサウンドにのせて、素直でのびやかなヴォーカルを聴かせてくれるシンディ。

こういったバラード系での真っ当な表現と、ハデな曲でのファニーなハジけぶりが、無理なく共存しているのがスゴいよね。

1位「GIRLS JUST WANT TO HAVE FUN」

1位はやはり、この曲をおいて他にはないだろう。シンディの最初のヒット、世界中のリスナーに彼女の強烈な存在感を知らしめたナンバー。

一瞬、鮮烈なイントロが流れただけで、聴く者の気分が一気に昂揚してしまう、そんなアッパー系のサウンド。

オーヴァー・ドライヴのきいたシンディの声、そしてメリハリのきいたリズムに、思わずこちらのカラダも踊り出してしまう。

邦題の「ハイスクールはダンステリア」ってのは、今となってみれば「何のこっちゃ!?」って感じだが、オンナのホンネをストレートに主張した、当時としてはかなりユニークな歌詞がいい。

惜しくもベスト4には入りきらなかったが、プリンスのヒットのカヴァー「YOU WERE A MINE」、ダイナミックな「MONEY CHANGES EVERYTHING」など、この一枚には他にもいい曲が満載である。

80年代は、マドンナとならんで二大人気女性シンガーのひとりだった彼女。

「女は女らしくあるべし」という常識の呪縛などものともせず、赤裸々な本音で勝負するふたりの勇姿は、いかにも「女性の時代」の到来を感じさせたものだ。

もちろん、力強さだけでなく、女性としての可愛らしさもしっかりと感じさせたところが、シンディの人気の秘密だろう。

アルバム・タイトル通り、やはり、シンディは「ただ者」じゃない。


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音盤日誌「一日一枚」#158 エリック・クラプトン「ERIC CLAPTON」(ポリドール/RSO P33W 25020)

2022-04-21 05:07:00 | Weblog

2003年5月17日(土)



#158 エリック・クラプトン「ERIC CLAPTON」(ポリドール/RSO P33W 25020)

エリック・クラプトン、記念すべき初ソロ・アルバム。70年リリース。

スーパー・グループ、ブラインド・フェイスが短期間で事実上解散となり、クラプトンは新たな活動へと踏み出す。

ブラインド・フェイスとともに全米ツアーを行ったディレイニー&ボニーと意気投合、彼らを加えてソロ・アルバムのレコーディングに入ったのだ。

メンバーは他に、レオン・ラッセル、のちにデレク&ドミノスのメンバーとなるボビー・ウィットロック、カール・レイドル、ジム・ゴードン、ホーンのジム・プライス、ボブ・キーズ、CSN&Yのスティーヴン・スティルスなど、実力派が勢ぞろい。

ギターも従来のギブソンからフェンダー(ストラト)に持ち変えている。クリーム的なハード・ロックから大転換し、アメリカン・ミュージック指向を前面に出しており、現在のクラプトン・サウンドの原点ともいえる一枚だ。

<筆者の私的ベスト4>

4位「BAD BOY」

ここはやはり、いかにブルース・スピリットが感じられるかで、選んでみよう。

まずは、ディレイニー・ブラムレットとクラプトンの共作ナンバーから。

ホーン・アレンジを導入したそのサウンドは、まさにR&B。ブラムレットの嗜好が色濃く出た一曲に仕上がっている。

クラプトンも、ブラインド・フェイスではヴォーカルをウィンウッドに大半持っていかれてしまったか、そのうっぷんを晴らすかのように、思い切りシャウトしている。

3位「LONESOME AND A LONG WAY FROM HOME」

ディレイニーとラッセルの共作。こちらも重厚なホーン・アレンジが、サウンドの重要な決め手となっている。

もともとは彼らがアトコ所属のサックス奏者、キング・カーティスのために書き、彼のヴォーカルでレコーディングしたという曲。(残念ながらカーティス版はレコード化されていないようだ。)

クラプトンをこの難しい曲を見事に歌いこなし、さらにワウ・エフェクトをかけたギター・ソロもバッチリと決めてくれる。

ここにはもはや、クリームの頃の、シャイなギター青年の面影は見られない。野太く、たくましいシンガーへと、成長したのだ。

2位「DON'T KNOW WHY」

これもまた、ディレイニーとクラプトンの共作。

知名度は低いが、なかなかの名曲。なんとも濃ゆーいR&Bチューン。ホーンのいなたい響きもナイスです。

テクニックはいまいちなれど、いかにも「真情」が伝わってくるのが、クラプトンのヴォーカル。

やはり、聴き手を感動させる決め手は「ハート」なんだなと、感じます。

カッコつけじゃない、ホンマモンの歌。これぞ「ソウル・ミュージック」でありましょう。

1位「AFTER MIDNIGHT」

白人シンガー、J・J・ケイルの作品。ケイル自身の、ボソボソッとしたシブめのヴォーカル・スタイルとは好対照に、クラプトンはいかにも威勢がいい、ベランメエ調の歌いぶりだ。バックのノリも最高。

ここでの彼のギター・ソロはかなり控え目だが、ヴォーカルだけでも十分に「聴かせられる」ようになったのが、よくわかる。

曲のスタイルはいわゆるブルースとは違うのだが、その精神は十分にブルースな一曲だと思う。

もちろん、他にもすぐれた曲が多い。惜しくも選には漏れたが、アコースティック・アレンジの「EASY NOW」、クラプトンとラッセルの共作「BLUES POWER」、シングル・ヒットしたディレイニーとの共作「LET IT RAIN」など、いずれも上の4曲に劣らぬ佳曲だと思う。

つまり、非常に「粒の揃った」一枚。今聴いても、聴きごたえは十分。多分あなたのライブラリーにも眠っているだろうが、ぜひ引っぱり出して聴いてみてほしい。

<独断評価>★★★★☆


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音盤日誌「一日一枚」#157 バッド・カンパニー「STORIES TOLD & UNTOLD」(east west japan AMCY 2025)

2022-04-20 05:11:00 | Weblog

2003年5月15日(木)



#157 バッド・カンパニー「STORIES TOLD & UNTOLD」(east west japan AMCY 2025)

バッド・カンパニー、96年リリースのアルバム。プロデュースはジョシュ・レオ。

オリジナル・メンバーによるバドカンは82年のアルバム「ラフ・ダイアモンズ」を最後に解散したが、86年にラルフス、カーク、バレルに新メンバーを加えて再スタート。以来、メンバー・チェンジを繰り返しながら、現在に至るまで活躍している。

新曲9曲に第一期の7曲の再演をまじえたこのアルバムは、彼らの「原点回帰」の一枚といえる。

やはり、聴きなれた曲には、懐かしさで思わず反応しちゃいますね。

<筆者の私的ベスト3>

3位「CAN'T GET ENOUGH」

説明など不要だろうが、あえていうならバドカンにとって「名刺」的存在のデビュー・ヒット。

前年に新加入の実力派ヴォーカリスト、ロバート・ハートをフィーチャーして聴かせる新録音は、意表をついたアコースティック・アレンジ。これがいかにも新鮮。

ハートの声質は適度にハスキーで、ポール・ロジャーズのそれにかなり似ている。声域もほぼ同じ。

いや、ちょっと聴いた分には、ほとんど区別がつかないくらいだ。こぶしのきかせ方まで似ている。

これがいいかどうかは論の分かれるところだが、少なくとも言えるのは、ロジャーズ時代のバドカンの曲をカヴァーするには、極めて適した声だということ。

ソウルフルな白人女性シンガー、ベッカ・ブラムレットの好サポートを得て、シャウトしまくるハート。ナイスです。

ラルフスが弾くスライド・ギターもいい。全体にどことなく米国南部の鄙びた味わいがある。

こうなるともう、ブリティッシュ・ロックというよりは、ほぼ完全にアメリカンな音といえますな。

2位「I STILL BELIEVE IN YOU」

メロディの美しさが光る、ロマンチックなバラード・ナンバー。オクラホマ出身のカントリー・シンガー、ヴィンス・ギル、92年のヒットのカヴァー。

ここでのハートの歌いぶりは、ロックというよりは、正統派ポップス(マイケル・ボルトンあたりの)という感じ。(他の曲では、エルトン・ジョン風にもなったりと千変万化なのが、また面白いですな。)

ソフトなバックのアレンジといい、いかにも米国市場のウケを狙ったつくり。

バドカンに「ハードロック・バンド」のイメージを求める、旧来のファンが聴いたらズッコケるだろうが、これはこれでなかなかの完成度。若いカップルのBGMなんぞに、よさげである。

1位「SHOOTING STAR」

1位はやっぱり、旧バドカンのナンバーになってしまった。現メンバーには申し訳ないが、オールド・ファンにはこの曲、抗し難い魅力があるのだよ。

オリジナルは75年リリースのセカンド・アルバム「ストレート・シューター」に収録。

のどかで、のびやか、カントリー・フレーヴァーたっぷりの名曲を、ハートはあえてロジャーズのスタイルとかぶらないよう、テクニックを駆使して歌い上げる。

プロデューサー、ジョシュ・レオのギター・ソロ、リッチー・サンボラの12弦ギターが、バックから盛り上げる。

さらには、懐かしや80年代に活躍した白人女性シンガー、キム・カーンズまでがコーラスに加わっております。

もちろん、バンド・メンバーのカークやリック・ウィリス(b)らのプレイも手堅く、聴きごたえ十分。さすがの出来ばえだ。

最後にフォローしておくが、現バドカンのオリジナルにもなかなかいい曲はある。「WAITING ON LOVE」とか「LOVE SO STRONG」とか、往年のバドカンをほうふつとさせるものがあって、ナイス。

だがそれは、同時に問題点でもあって、ハートのヴォーカルが、ロジャーズに似すぎているという事実は、やはり気になる。

今後はいかに、現メンバーならではのカラーを出していくかが、課題だろう。

このままじゃ、黄金期バドカンの「自己模倣」っていわれそうだからね。バンドにとって、「(いまの)オリジナリティ」こそが命でっせ。

<独断評価>★★★☆


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音盤日誌「一日一枚」#156 オスカー・ピータースン・ウィズ・ミルト・ジャクスン「VERY TALL」(VERVE POCJ-1928)

2022-04-19 05:10:00 | Weblog

2003年5月14日(水)



#156 オスカー・ピータースン・ウィズ・ミルト・ジャクスン「VERY TALL」(VERVE POCJ-1928)

ほんに今日は、一日なんだかんだとあって疲れましたわ。

こんな日の締めくくりに聴くといえば、やはりリラックス出来るジャズ、それも癒し系の楽器、ヴァイブをフィーチャーしたヤツですかいのう。

というわけで選んだのがコレ。オスカー・ピータースン、61年のアルバム。

バグスことミルト・ジャクスンを迎えての、スペシャル・セッションだ。

バックはもちろん、レイ・ブラウン&エド・シグペンの黄金コンビ。もう、この顔ぶれを見るだけでも、たまりま千円(疲労でちょっと壊れ気味)。

どんな楽器をやってもすべてこなしてしまうという器用なバグスと、世界一のテクニシャン・ピアニスト、ピータースン。

このふたりが組んだのだから、さぞかし火花を散らすようなセッションになったと、ふつうは思うざんしょ?

ところがどっこい、むしろ「和気アイアイ」と評した方がふさわしい内容に仕上がっております。

いつもの自分のトリオでは百万馬力で弾きまくるピータースンも、ここではジャクスンに花をもたせてバックに徹し、極力出しゃばらず、でも自分にお鉢が回ってきたときは、しっかりとキメてくれます。

<筆者の私的ベスト3>

3位「JOHN BROWN'S BODY」

なんか、聴いたことがあるメロディ。それもそのはず、「ゴンベさんの赤ちゃん」といいますか、「リパブリック賛歌」といいますか、誰もが知っている例のあの歌でやんす。

元来は讃美歌だったのが俗謡化し、いろんな歌詞、タイトルがつくようになった曲。

この陽性でノリのいいメロディを素材に、気持ちよくスウィングしまくるバグスとオスカー。「ゴンベさん」がここまでジャズに化けてしまうとは、驚きだわい。

おたがいが好プレイで触発しあうことで、極上のファンキー・フレーズが即座に生み出されているのが興味深い。

2位「REUNION BLUES」

ジャクスンの作品。バグスはモダン・ジャズ・カルテット(MJQ)というクラシック指向の強いコンボに所属してはいたが、その一方ではブルース的なものを深く愛し、しばしば演奏していた。これもまた、タイトル通りブルース形式のナンバー。

この曲は63年にはMJQでもレコーディングしているが、ジョン・ルイスがピアノのそのヴァージョンより、当ヴァージョンの方が格段とファンキーでエキサイティングなのはいうまでもない。

リズム隊のみのリフ演奏ではじまり、そのうちヴァイブとピアノが加わっていく。

ソロはまずはバグス、続いてピータースン。音数は押さえて、シンプルなフレーズを紡いでいく。

これがまた、ツボにはまったプレイの連続。リズム隊のグルーヴも最高で、思わず体が動き出しちゃいます。

1位「GREEN DOLPHIN STREET」

もとは映画の主題曲だったのが、モダン・ジャズの巨人たち、マイルス、ビル・エヴァンスらに好んで取り上げられたことでネオ・スタンダードとなったナンバー。独特のコード進行が、なんとも深遠な印象を与える名曲だ。

ここでのバグスの優雅で透明感あふれるソロは、筆舌に尽くし難いほど美しい。

まさにバグスの前にバグスなし。バグスの後にもバグスなし、である。

そして後半、控えめに登場するピータースンのピアノ・ソロ。これまた極上の味わい。

いつもの饒舌きわまりないプレイとはまた違って、ピアニシモ中心の、抑制のきいた表現が実に効果的。

バックのベース&ドラムも、これ以上の出来を望めないくらい、完璧なグルーヴを提供してくれている。

最後はまたバグスにソロを戻し、大いに余韻を残しつつ、終わる。もう、溜息もの。

この一曲を聴くためだけでも、本盤を買う価値は絶対ありまっせ。

両巨頭の対決ならぬ、見事なコラボレーションにノック・アウト。ジャズはこれだから、やめられまへん!

<独断評価>★★★★☆


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音盤日誌「一日一枚」#155 ブロッサム・ディアリー「ONCE UPON A SUMMERTIME」(VERVE POCJ-2082)

2022-04-18 05:09:00 | Weblog
2003年5月13日(火)

#155 ブロッサム・ディアリー「ONCE UPON A SUMMERTIME」(VERVE POCJ-2082)

シンガー/ピアニスト、ブロッサム・ディアリー、58年リリースのセカンド・アルバム。

ブロッサムといえば、そのなんともユニークでチャーミングな「カマトト・ボイス」がセールス・ポイントだろう。

一度聴いたら、絶対忘れられない、そんな声。筆者も長らく愛聴しているシンガーだ。

私事で恐縮だが、その昔、筆者がオカ惚れしていた女性がいて、そのひとがブロッサムそっくりの声をしていたのである。

しかも、性格も声同様、男を惑わすようなコケット、小悪魔タイプだった。

そんなこんなの理由で、ブロッサムの歌声にも自然とハマっていったのかもしれない(笑)。

<筆者の私的ベスト4>

4位「MANHATTAN」

ご存じ、ロジャーズ&ハートの代表曲。古くはリー・ワイリー、時代が下ってはエラ、ダイナ・ワシントン、メル・トーメ、トニー・ベネットなど、男女を問わず多くのシンガーによって歌われてきた極めつけのスタンダードだ。

ブロッサムはこれを、ピアノを弾きながらしっとりと歌う。

ブラシによるドラミングがなんとも粋な、コンボ演奏(オスカー・ピータースン・トリオのリズム隊、ギターのマンデル・ロウがサポート)。

ちょっぴりアンニュイ、でもなんとなく幸せな気分になれる一曲だ。

3位「TEACH ME TONIGHT」

サミー・カーン、ジーン・ディポールによる作品。こちらも、サラ・ヴォーン、ダイナ・ワシントン、ジョー・スタッフォード、バディ・グレコ、ジョー・ウィリアムズ等、女性シンガーを中心にカヴァーが多い。

「今夜教えて」とは実に意味深なタイトルだが、中身もやはり「夜の個人授業」ということであります。

しかも、ブロッサムのあの声で耳元で歌われた日には、たいていの男はメロメロになってしまうはず(笑)。

ちょっと「目の毒」ならぬ「耳の毒」な、きわどい一曲であります。

2位「DOOP-DOO-DE-DOOP(A DOODLIN' SONG)」

ベティ・ブープのような、彼女のキュートなお色気がもっとも生かされた一曲。サイ・コールマン、キャロリン・リーの作品。

意味不明のおかしな歌詞とスキャットで、聴く者をケムにまく。小悪魔ブロッサムの本領発揮である。

呪文めいたこの歌を聴けば、老若を問わず、どんな男性も恋の魔術にかけられてしまいそう。

1位「TEA FOR TWO」

いうまでもなく、80年近い寿命をほこるスタンダード中のスタンダード、「二人でお茶を」である。アーヴィング・シーザー、ヴィンセント・ユーマンスの作品。

ヴァースからゆったりとしたテンポで歌うブロッサム。ドリス・デイの「さわやか系」な歌もいいが、ミルキィな彼女の「不思議ちゃん系」な歌もまた悪くない。

まったく「生活臭」がなく、子供のおままごとのよう。彼女ならではの世界ですな。

ジャズ・ヴォーカルにもいろいろなスタイルがあるが、ここまでワン・アンド・オンリーな個性を持つひとはそういない。

ファニーで、しかも小粋。名前すら知らないよ、とおっしゃるかたも多いだろうが、一度は聴いてみてほしい。

バックの音もスウィンギーで、実にお洒落っぽいのがグーであります。

<独断評価>★★★★


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音盤日誌「一日一枚」#154 アルバート・キング「THE BLUES DON'T CHANGE」(Stax CDSXE 085)

2022-04-17 05:01:00 | Weblog

2003年5月12日(月)



#154 アルバート・キング「THE BLUES DON'T CHANGE」(Stax CDSXE 085)

アルバート・キング、スタックス・レーベルでの最後のアルバム。

もともとは77年に「THE PINCH」というタイトルで出たLPを改題して、92年にCDとしてリリースしたもの。レコーディング自体は73~74年。

このひとは、個人的にも特に好きなアーティストのひとりだが、その数あるアルバムの中でも、なかなか小粋な一枚。

<筆者の私的ベスト3>

3位「I CAN'T STAND THE RAIN」

女性シンガー・アン・ピーブルズ、70年代初頭のヒット。

というより、ハンブル・パイやグレアム・セントラル・ステーション、ローウェル・ジョージらによるカヴァー・ヴァージョンのほうがおなじみかも。

ワタシもご多分に漏れず、パイの「THE BEST OF HUMBLE PIE」で初めて聴いたクチだ。

その時はスティーヴ・マリオットの、あまりにディープな歌いぶりに圧倒されてしまったものだが、アルバート版はもっと素直でソフトなタッチ。

例の、声を張り上げずに歌うスモーキーなヴォーカルが、これはこれで味があって、よろしい。

短めだが、彼のギター・ソロも(毎度毎度のワン・パターン・フレーズなれど)いい感じである。

ちなみにこのアルバムでは、バック・ミュージシャンとしてMG'Sのリズム隊、ダンとジャクスンも参加、タイトな音を聴かせてくれている。

2位「OH!, PRETTY WOMAN」

かの名盤「BORN UNDER A BAD SIGN」にも収録されていたナンバーの再録音。

前回の録音より6年以上の歳月がたっているわけだが、サウンドもさらにモダンに、よりファンキーに進化している。

ホーンは今作でもメンフィス・ホーンが担当しているが、アレンジ、演奏にいよいよ磨きがかかっている。

非常にソウル指向の強い音作りが、印象的。

もちろん、アルバートの歌、ギター、ともに前回の録音にまさるとも劣らぬ出来。リラックスした雰囲気が素晴らしい。

逆に、ピュア・ブルースを求めるタイプのリスナーには、ちょっと食い足りないかもしれない。

ギターを余りメインに置いていないためか、ブルース特有の「臭い」はあまりなく、音がかなり洗練されてしまっているから。

1位「THE BLUES DON'T CHANGE」

ベスト・トラックはやはり、トップのタイトル・チューンだろうな。

ミディアム・テンポのソウル・ナンバー。デトロイト出身のシンガー、マック・ライスの作品。

陽気な曲調で、曲そのものにはブルースっぽさは余りないが、延々と続くアルバートのギター・ソロが、なんともファンキー。

「ブルースは変わらない」とは、まさにアルバート自身のメッセージも込められたナンバーだといえるだろう。

ロック、ソウル、ファンク、どんなスタイルのサウンドであれ、根幹となるブルースの「精神」は決して変わらないのだ。

そう、このアルバムが生まれて30年もの年月が経過した今でも。

歌声にせよ、ギターの音色・フレーズにせよ、ワン・アンド・オンリーの存在感を持ったアルバート・キング。

死後10年余りを経ても、彼をリスペクトするアーティストは、いまだに増え続けている。

彼こそがその生き方で「ブルース」を体現した男なのだと、筆者は思っている。

<独断評価>★★★☆


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音盤日誌「一日一枚」#153 ウェスト・ロード・ブルーズバンド「ジャンクション」(ビクター音楽産業 VICL-2039)

2022-04-16 04:55:00 | Weblog

2003年5月11日(日)


#153 ウェスト・ロード・ブルーズバンド「ジャンクション」(ビクター音楽産業 VICL-2039)

永井ホトケ隆率いるW.R.B.B.は75年に解散したが、その8年後の83年、このアルバムで復活する。

レコーディング・メンバーは永井(vo)、塩次伸二(g)、山岸潤司(g)、小堀正(b)、松本照夫(ds)。黄金期の5人が勢ぞろいだ。

現在のホトケ氏のライヴでも演奏されることの多いナンバーが揃ったこの一枚、ファンなら必聴だが、そうでなくてもなかなか楽しめる出来ばえ。

いわば「隠れた名盤」であります。

<筆者の私的ベスト3>

ウェストロードの場合、ジャズ、ジャズ・ブルースのラインより、ピュア・ブルース、ファンク系の音が筆者的には好みなんで、そういうチョイスになりました。

3位「SHOTGUN」

ジュニア・ウォーカーの代表的ヒット。ヴァニラ・ファッジ、BB&Aでもおなじみのナンバーをカヴァー。

ホーン・セクションをバックに、タイトでファンキーな演奏を聴かせる。ホトケのシャウトも絶好調。

現在N.O.で活動中のジュン山岸がアレンジ、ギターで大活躍、センスのよさを見せつけてくれる。

彼のスピーディでスリリングなギター・プレイは、他に「I CAN'T BE SATISFIED」あたりでも堪能できます。

2位「SHAKE YOUR HIPS」

スリム・ハーポのナンバー。典型的ワン・コード・ブギのスタイルでノリまくる一曲。

ジェイムズ・コットンをカヴァーした「BOOGIE THING」などにしてもそうだけど、ホトケさん、こういうブギが実にお好きなようです。

小堀&松本が弾き、叩き出すビートがなんともイカしている。さすが老舗バンド、息の合いかたはハンパじゃない。

おもわず、一昨年のパークタワーでの興奮を思い出しちゃいました。

そしてなにより、ゲストのウィーピングハープこと、妹尾隆一郎のハープがさすがの出来。

もちろん彼は、ウェストロードの面々とは旧知の仲であります。

1位「TAKE ME TO THE RIVER」

なんともシブい選曲。大御所、アル・グリーンぢゃござんせんか!

トム・ジョーンズ、ブライアン・フェリー、キャンド・ヒート、トーキング・へッズなど、白人シンガー&バンドにもカヴァーされることの多い、人気ナンバー。ソウル大好き人間にはたまらない一曲だ。

こちらは伸ちゃんこと塩次がアレンジ。強烈なフックのあるメロディに見事にハマった、ガッツあふれるサウンド。彼のアンニュイなギター・ソロもいい。

一度とりこになると、抜けられらなくなる「ヤク」のような魔力をもった音であります。

本盤にはこの他、その年に亡くなった、マディ・ウォーターズへのトリビュートも2曲、入っている。こちらのほうは、歌の出来が今ひとつなんですが。

ホーンを本格的に導入、きめこまかいアレンジをほどこし、ジャズやファンクの隠し味を加えて、洗練された音を聴かせる先駆者、ウェストロード。

20年前にこれだけのハイ・クォリティなサウンドを生み出していたとは、さすがトップ・バンド。

キレのいい音を、あなたもぜひ楽しんで欲しい。

<独断評価>★★★★


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