NEST OF BLUESMANIA

ミュージシャンMACが書く音楽ブログ「NEST OF BLUESMANIA」です。

#101 カサンドラ・ウィルスン「I Can't Stand the Rain」

2009-11-29 10:03:26 | Weblog
#101 カサンドラ・ウィルスン「I Can't Stand the Rain」(Blue Light 'Til Dawn/Blue Note)

1955年生まれのベテラン女性シンガー、カサンドラ・ウィルスンがアン・ピーブルスの代表曲をカバーしている。これが文句なしにいい。ブライアント=ミラー=ピーブルスの共作。

カサンドラ・ウィルスンといえば、ジャズ畑のひとというイメージがあるが、別にスタンダードばかり歌っているわけじゃない。オリジナルも作って歌うし、ソウル、ブルースもしばしば取り上げて歌っているので、結構目が離せない。

「Blue Light 'Til Dawn」は93年リリース、カサンドラの最高傑作との誉れ高いアルバムだ。ここでも彼女は当曲以外に、ロバート・ジョンスンの作品を2曲カバーしている。

アコギ、アコーディオンなど、アコースティック楽器中心のシンプルなコンボをバックに、おなじみの「Come on in My Kitchen」「Hellhound on My Trail」を歌っているのだが、ロバート・ジョンスンの狂気さえも感じさせるアクの強い歌唱とは対照的に、クールで淡々とした歌いぶりがなんとも印象的だ。

そのへんは、やはり、モダンジャズ・ヴォーカル的なアプローチといえそうだ。

さて、この「I Can't Stand the Rain」は、60年テキサス生まれの白人ミュージシャン、クリス・ウィットリー(2005年歿)のリゾネーターをバックに歌う一曲。

最小ユニットながら、カサンドラの落ち着いて深みのある歌声、マディやウルフなど黒人のブルースに強く影響を受けたというウィットリーの達者なギターが絡み合って、えもいわれぬブルーズィな世界を生み出している。

ソウル・シンガーならばフルにシャウトする曲だが、そこはカサンドラ、ひと味違う。悲しみ、苦悩、焦燥。こういった感情を、あえて爆発寸前の状態で蓄え、ラストまでそれを維持し続けているのが、まことに印象的だ。

歌って、こんなに奥の深いものなんだなぁと感じさせる一曲。

真にすぐれたシンガーは、いかなるジャンルの曲を歌っても、第一級の歌を聴かせてくれる。ぜひ一聴を。

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#100 バイザー・スミス「So Mean To Me」

2009-11-22 11:26:57 | Weblog
#100 バイザー・スミス「So Mean To Me」(Hold That Train/Delmark)

このコーナーも、ついに100番台に突入した。これからも頑張って更新しますんで、よろしく。

1933年ミシシッピ州生まれのベテラン・ブルースマン、バイザー・スミス2004年のアルバムより、リトル・ミルトン=オリバー・セインの作品を。

これは81年のデビュー・アルバム「Tell Me How You Like It」(Grits)にも収録されている一曲だ。

オーティス・ラッシュ、フレディ・キングらとほぼ同世代にあたるスミスは、シカゴに移住してプロとなったものの、ラッシュらのようにはスポットライトが当たらず、60~70年代を地味にシングルのみリリースして過ごしている。

でも、日本でもシングル「Money Tree」あたりをきっかけに、輸入盤でブルースを聴いているようなコアなファンがついてきたという。

そんな彼にやっと日の目があたり、日本でも容易にその音を聴けるようになったのが、80年代。以来、2、3年おきにコンスタントにアルバムを発表し続け、その名前も定着するようになってきた。

今日の一曲は、リトル・ミルトン・マナーの、ミディアムスローなブルーズン・ソウル。

ここで彼は、歌とギターともに達者なところを見せている。

彼の歌声はオーティス・ラッシュにも似て、少しハスキーで泥臭く、塩辛い味わい。思い切りのいいシャウトが実にさまになっている。

また、ギター・プレイのほうも文句なしに素晴らしい。ヘヴィーさと鋭い切れ味を兼ね備え、絶妙なタメ、間で聴かせる、これぞブルース・ギターといえるような名演だ。

愛器ストラトキャスターから繰り出す音の、なんとも官能的なこと。

ストラトもさまざまな雰囲気の音を出せる名器だが、スミスにかかれば、きわめて艶っぽい響きを奏でるのである。これぞ名人芸なり。

そのテンションの高さ、表現の深さは、ラッシュ、キング、バディ・ガイといった同じ30年代生まれのスターたちにも、決してひけをとっていない。

これは聴かないと絶対損しまっせ、お客さん!

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#99 ビリー・ボーイ・アーノルド「Get Out of Here」

2009-11-14 21:00:36 | Weblog
#99 ビリー・ボーイ・アーノルド「Get Out of Here」(More Blues on the South Side/Prestige)

シンガー/ハーピスト、ビリー・ボーイ・アーノルド63年のアルバムから。B・B・キングの作品。

ビリー・ボーイ・アーノルドとゆーと、イコール「I Wish You Would」という感じで、ほとんど一発屋的にしか見られていない人だが、実際には50年代から2000年代に至るまで、極めて息の長い活動を続けているブルースマンだ。

もちろん全盛期はヴィー・ジェイ在籍時の50年代ではあろうが、その後もいくつかの佳作を残している。

このプレスティッジでのセッション・アルバムもそのひとつで、ギターのマイティ・ジョー・ヤングやピアノのラファイエット・リーク(以前取り上げたホームシック・ジェイムズのアルバムでもいい感じだった)らの好サポートを得て、ナイスな演奏を聴かせてくれる。

アーノルドは35年シカゴ生まれ。生粋のシカゴ・ブルースマンというわけだ。

近隣に住むサニーボーイ・ウィリアムスンI世の影響を受けてハープを吹くようになり、10代からプロの道を歩む。初期はボ・ディドリーとともに活動していた。

「I Wish You Would」のヒットで注目され、その曲や「I Ain't Got You」がヤードバーズによりカバーされたことで、ロックファンにも広く知られるようになった。

でも、なかなか原曲を聴くことは少ないに違いない。

本日の一曲は、60年代のBBナンバーのカバー。でも、BBの怒り節とはかなりテイストが違って、ちょっと掴みどころのないふにゃ~っとした歌い口が、ブルースというよりはR&B、ロックンロールという印象。

そう、ビリー・ボーイは、ブルースにしてはリキみがあまり感じられない「脱力系」なのだ。

この曲ではハープは特に吹かず、ギターがおもにフィーチャーされており、マイティ・ジョーの特にテクニカルとはいえないが、ソリッドでエッジの立ったトーンがビリー・ボーイの歌声をうまく引き立てている。

歌詞内容の殺伐とした内容にしては、へんにギスギスした感じにならず、クールというか飄々とした味わいに仕上がっているのは、彼のいい感じに力の抜けた歌唱ゆえといえよう。

ビリー・ボーイ・アーノルドの小粋な世界を味わってみてくれ。

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#98 アイク・アンド・ティナ・ターナー「I Smell Trouble」

2009-11-07 13:56:36 | Weblog
#98 アイク・アンド・ティナ・ターナー「I Smell Trouble」(Atlantic Blues/Atlantic)

アイク・アンド・ティナ・ターナー、60年代のライブ録音より。ドン・ロビーの作品。

いうまでもなく、ボビー・ブルー・ブランドの代表曲であるが、これをオリジナルにまさるともおとらぬハイテンションで演っているので、ぜひ聴いてほしい。

アイク・アンド・ティナ・ターナーといえば、とにかくそのライブアクトのセクシーさ、過激さで話題を集めていたものだが、もちろん音楽的にも非常に充実していたデュオだ。

ティナの鋭く切り込んでくるような歌声、トリッキーで挑発的なアイクのギター。まさにダイナマイト級の迫力でオーディエンスを圧倒していた。

今日の一曲は、そんな中でも極めつけのパフォーマンス。

「I Smell Trouble」は、その緊張感に満ちた歌詞内容からいっても、起伏に富んだ激しい歌唱からいっても、第一級のスロー・ブルースだが、ご本家ブランド=ベネットのコンビネーションに匹敵するのは、やはりこの二人をおいてないように思う。

全身を震わせ、痙攣するかのようにシャウトするティナ、ニワトリの鳴き声を思わせるヒステリックなプレイを聴かせるアイク。まことにスリルに満ちた7分間だ。

71年のパリ・オランピア劇場ではさらに長い10分もの演奏をやっていて、こちらも必聴だが、とにかくダレるということない、異常なまでのテンションには脱帽するしかない。

アイク・アンド・ティナの数あるレパートリーの中でも、もっともブルース濃度の高い曲のひとつ。

「やるからにはこれくらい演らんと、お客は満足しない」という気合いがひしひしと伝わってくる。これぞ芸人魂の真骨頂。

さわると火傷しそうなライブ。心して聴いとくれ。

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