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#112 ジ・エイシズ「Take a Little Walk With Me」

2010-02-28 07:41:11 | Weblog
#112 ジ・エイシズ「Take a Little Walk With Me」(Devil's Music/TV O.S.T./Sanctuary)

今月最後の一曲はこれ。ジ・エイシズのライブより、ロバート・ロックウッド・ジュニアの作品を。

ブルース界における名門バンドといえば、エイシズをおいて他にない、そう言い切れるくらいの存在だが、彼らのスタートは1951年にまで溯れる。

26年生まれのデイヴ(ベース)、29年生まれのルイス(ギター)のマイヤーズ兄弟が、ジュニア・ウェルズとともに結成した「スリー・デューシズ」がその原型であり、さらにドラムのフレッド・ビロウが参加して「フォー・エイシズ」に改名、オリジナル・メンバーが揃う。翌52年、ジュニア・ウェルズをやめさせ、リトル・ウォルターと合流。彼のバックバンド「ナイト・キャッツ」あるいは「ジュークス」という名で活動する。

「オフ・ザ・ウォール」「ミーン・オールド・ワールド」に代表されるチェス時代のリトル・ウォルターの名曲群は、彼らとのコラボレーションから生み出されたものなのだ。

しかし、ウォルターとルイスとの間に確執が生じ、バンドは空中分解する。ルイスは脱退し、残るふたりのメンバーは彼の代わりにロバート・ロックウッド・ジュニアを加えて、レコーディングなどの活動を続けたのである。

70年代に入って、ようやくルイスが復帰、エイシズは再スタートする。それまではアルバム単位のレコーディングなどなかった彼らだが、71年以降、3枚のスタジオアルバムを残している。

今日の一曲は、英BBCで放送されたブルース・ドキュメンタリー番組「Devil's Music」のサウンドトラックより。

ロバート・ロックウッド・ジュニアと一緒に活動していた縁で彼らのレパートリーに加わったこのナンバーは、聴いていただければおわかりいただけると思うが、要するにロックウッドの義父、ロバート・ジョンスンの「スウィート・ホーム・シカゴ」の改作だ。

典型的なミディアム・テンポのシャッフル・ビート。いわばブルースのテンプレートみたいな曲調だが、エイシズの各メンバーが見事に心地いいビートを叩き出している。

格別のテクニックがあるわけではない。でも、このシャッフルの絶妙なタイム感は、ルイス、デイヴ、フレッドの三人でなくては生み出しえないというのも確かだろう。

適当にしょっぱい歌声、カチンカチンとまとまったギター・ソロも、いかにもいかにもという感じで、グー!である。

ブルースとは味わいで勝負する音楽である、ということがよくわかる一曲。彼らのキャリアは伊達じゃないね。

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#111 阿部真央「ふりぃ」

2010-02-21 08:17:35 | Weblog
#111 阿部真央「ふりぃ」(ふりぃ/ポニーキャニオン)

若手女性シンガーソングライター、阿部真央のラジオシングルの4曲目。2008年リリース。彼女自身の作品。

現在、サードメジャーシングル「いつの日も」がヒット中の阿部真央は、1990年1月大分市生まれの20才。

九州出身、ハタチそこそこでメジャーブレイクした、「ギターをかき鳴らし歌う女性シンガー」といえば、ふたりほど連想されるんじゃないかな。そう、椎名林檎とYUIである。

31才の林檎、22才のYUI(ともにまだまだ若い!)をいま、猛追撃しているのがこの阿部真央なのである。

阿部真央。まず名前からしてシンプルでいい。略する必要がない。(もっともファンは「あべま」とさらに略して呼んでいるようだが、まんまでいいじゃん。アベマオで。)

彼女はふたりの先輩同様、作詞・作曲ともに自ら手がけている。うん、アーティストならそうでなくちゃ。曲のみ、あるいは詞のみ、みたいなハンパなヤツがアーティストと名乗ることには不満のある筆者としては、我が意を得たりという感じだ。

彼女の書く曲にはとにかく「ストレート」という形容詞がふさわしい。

特にその歌詞がそうだ。彼女の偽りのない本音がそこには満ちている。「貴方の恋人になりたいのです」しかり、「人見知りの唄」しかり。

きょう聴いていただく「ふりぃ」(高校生当時の作品。ファーストアルバムのタイトルチューンでもある)も、若い女の子の「いまはまだ誰にも束縛されたくない」という感情を、これ以上ないというくらいのど真ん中ストライクで投球してくる。その太い声で「ハッ!」なんて和田アキ子ばりに喝を入れられたら、気の弱い草食系男子など、タジタジだろう。

求愛し、ふられ、泣きわめき、恋を得て、歓喜する。まさに本能に忠実な、ゴーイング・マイウェイ・ガール。

かといって、ただただ強気一辺倒のじゃじゃ馬娘というだけでもない。「いつの日も」のようなバラードでは、年相応の初々しい乙女心も見せてくれる。このギャップがいいかも。

二先輩同様、早熟な才能の持ち主でありながら、プライベートではいろいろ悩みもあるようだ。こういう仕事につくと、のんびり恋などしている余裕などないようだし。

でもそこは、持ち前のバイタリティ、前向きな性格でこれからも乗り切っていくのだろう。実に頼もしいキャラクターだ。

ぷっくりした頬が愛らしい彼女は、気さくでぶったところがないので、異性にも同性にも好感をもたれそうだ。過去付き合っていた男性の話なども、隠したりすることなくしゃべってしまうアベマオ。実にいいコじゃないか。

すぐれたアーティストのパフォーマンスは、初見のときからとんでもない衝撃をもたらしてくれるものだ。筆者はこの「ふりぃ」でアベマオとファースト・コンタクトしたわけだが、それは11年前、椎名林檎の「ここでキスして。」を聴いた時以来のインパクトがあった、と言っておこう。

その太く(いい意味でね)力強い声は、一度聴いたら忘れることが出来ない。

等身大のアベマオが、どの曲にも息づいている。今後の彼女の成長が、ほんとうに楽しみだ。

この曲を聴く

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#110 ダイナ ・ワシントン「Begging Mama Blues」

2010-02-14 08:07:25 | Weblog
#110 ダイナ ・ワシントン「Begging Mama Blues」(Blues for a Day/Delta Distribution)

ジャズ・シンガーとして名高いダイナ ・ワシントンが歌うブルース・ナンバー。ウィルバート・バランコ、チャールズ・ミンガスの作品。

ダイナ ・ワシントンは1924年、アラバマ州タスカルーサ生まれ。63年、39才の若さでデトロイトにて亡くなっている。

短命ながら膨大なレコーディングを残し、「恋は異なもの」「ハニーサックル・ローズ」「煙が目にしみる」など、さまざまなヒット曲を持つ。第二次大戦後、アメリカでもっとも人気を博した女性歌手のひとりといえる。

ダイナは、ベシー・スミス、ビリー・ホリデイといった先達に強い影響を受けながらも、彼女たちとは違った、どこかしら陽性で華のあるブルースを歌うことで個性を発揮した。

彼女の魅力はやはり、艶とハリのあるその「声」に集約されるといえるだろう。

ダイナの歌声を聴くと、たとえそれが沈鬱なブルースであったとしても、なにやら「ようし、きょうもがんばろうじゃないの」という気になるから、不思議である。元気を聴くものに与えてくれるのだ。まさにチアリング・ボイス。

ところできょうの一曲は、かの偉大なるジャズ・ベーシスト、チャールズ・ミンガス(とピアニスト、ウィルバート・バランコ)の曲というから、ちょっと面白いでしょ。あのミンガスの歌ものですよ。

でも、ミンガスは自身のバンドでボーカルをとることもあったひとなんで、実はそんなに不思議なことではなかったのだ。あまり知られていないことだけど。

この曲が収録されたアルバムでは、ミンガスのナンバーをもう一曲(Pacific Coast Blues)、あと、メンフィス・スリムの曲(Trouble Trouble)もカバーしている。

ブルースというと、音楽ジャンルのひとつだと多くのひとは理解しているようだが、必ずしもそれだけではない。

曲の形式としてのブルース、というのも忘れてはいけない。ジャズ歌手、カントリー歌手、さらにはオペラ歌手(!)が歌う12小節ブルースってのも、フツーにありってことなのです。

ダイナはジャズの枠を越えて、ポピュラー歌手の域にまで達していった人だが、その音楽の根底にあるものは、ジャンルとしてのブルースであり、そのレパートリーの根幹は、曲の形式としてのブルースだと思う。

ベシーやビリーの後を継いで王座についたブルース・ディーヴァ、ダイナ ・ワシントン。その歌声は、死後約半世紀を経た現在でも、輝きを失うことはない。

20世紀のすぐれた音楽遺産を、しっかり確認していただきたい。

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#109 タル・ファーロウ「Will You Still Be Mine?」

2010-02-07 10:45:20 | Weblog
#109 タル・ファーロウ「Will You Still Be Mine?」(A Recital By Tal Farlow/Verve)

たまには趣向を変えて、スタンダード・ナンバーでも聴いてみよう。1940~60年代に活躍した白人ジャズ・ギタリスト、タル・ファーロウの55年のアルバムより。マット・デニス=トム・アデールの作品。

タル・ファーロウは21年、ノースキャロライナ州グリーンズボロ生まれ。98年にニューヨーク市にて77才で亡くなっている。

ギターを始めたのは20代に入ってからだが、天賦の才能があったようでめきめきと腕を上げ、マージョリー・ハイアム、レッド・ノーヴォ、アーティ・ショーといったプロ・ミュージシャンのバックで頭角を表し、そして32才のとき、自身のコンボを組むに至る。

ファースト・リーダー・アルバムをブルーノートよりリリース(当時は10インチ盤)。以来、その軽快ながらも切れ味鋭いギター・プレイは、イーストコースト系ジャズの中でも際立った存在となる。

「A Recital by Tal Farlow」はロサンゼルスにて録音。ヴァーヴに移籍して2枚目、通算では4枚目にあたるアルバムだ。ここでは、ピアノレスの三管という、ちょっと面白いセクステット編成をとっている。

冒頭、ファーロウのイントロに続き、ボブ・エネボールゼンのトロンボーンを中心とした三管がおなじみのテーマを奏でる。1コーラス目の後半からファーロウも主旋律に加わる。

それに続き、テナー・サックスのビル・パーキンス、そしてトロンボーンにソロを取らせた後、ようやくファーロウがソロに入る。実に淡々としたというか、軽妙な感じのフレージング。

ゴリゴリ弾くことなく、あくまでもライトでさらっとした演奏。いかにも、イーストコースト・ジャズであるな。

最後にバリトン・サックスのボブ・ゴードンのソロからテーマに戻って、終了。時間はほぼ4分。

実にあっさりとした構成だが、たったこれだけの短い時間でも、各プレイヤーのスゴ腕は如実にわかる。

ベースのモンティ・バドウィッグ、ドラムスのローレンス・マラブル。彼らの刻む確かなビートに、絶妙なカッティングで絡み、ピアノのない状態を十二分にカバーするファーロウ。この見事なリズム・セクションに加え、3人のホーン・プレイヤーの抑制のきいた巧みなブロウ。

これぞ、アンサンブルの醍醐味!とでもいうべき演奏ぶりであります。

曲についても少しふれておくと、これは「エンジェル・アイズ」「コートにすみれを」といったメロディアスなナンバーで人気の高いシンガー兼ピアニスト兼コンポーザー、マット・デニスの作品。共作者の書いた小粋な内容の歌詞に負けない、センスあふれるメロディ・ラインで、聴き手を魅了するアーティストだ。もちろんこの曲も、彼の傑作のひとつと言えるだろう。

タル・ファーロウのプレイって、他のプレイヤーを食ってやろう、みたいなケンカっぽい雰囲気は全くないのに、なぜか最後は一番印象に残る。そんな感じだ。

あくまでもアンサンブルを重んじた上で、自分のソロの番がまわってきたら、さりげなく自己主張する。そんな奥ゆかしさがあるのだ。

彼のやってきたようなスタイルのジャズは、60年代後半から70年代にはほぼすたれてしまい、彼の出番も非常に少なくなってしまった。

が、やはり、いいものはいい。何度もそのアルバムは再発され、CD化され、いまになっても、少数ながら聴き続けているリスナーはいる。筆者のように。

マット・デニスの粋な歌曲同様、いい音楽というものは何かを知る人々がいる限り、タル・ファーロウの演奏はずっと聴かれていくにちがいない。

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