NEST OF BLUESMANIA

ミュージシャンMACが書く音楽ブログ「NEST OF BLUESMANIA」です。

音曲日誌「一日一曲」#213 ザ・ステイプル・シンガーズ「Solon Bushi(ソーラン・ロック)」(The Ultimate Staple Singers/Kent/Ace)

2023-10-31 05:24:00 | Weblog
2012年4月22日(日)

#213 ザ・ステイプル・シンガーズ「Solon Bushi(ソーラン・ロック)」(The Ultimate Staple Singers:A Family Afair/Kent/Ace)





きょうは、珍盤中の珍盤を紹介しよう、黒人ソウル・グループ、ザ・ステイプル・シンガーズが歌い演奏した北海道民謡「ソーラン節」だ。70年録音。

ザ・ステイプル・シンガーズ(後にはザ・ステイプルズとも)は50年代より2000年まで活動していた、ジャクスンズ、アイズリー・ブラザーズなどと並ぶ、黒人ファミリー・グループの代表格。父親のローバック”ポップス”ステイプルズを中心に、彼の息子、娘たちが参加した4人編成だ。

この曲の録音当時のメンバーは、ポップス、息子のパーヴィス、娘のクレオサ、メイヴィス(現在もソロ・シンガーとして活躍中)の4人。男2女2の混声コーラスだった。

「Solon Bushi」は日本では、日本グラモフォンよりシングル「ソーラン・ロック」としてもリリースされている。この曲の録音にいたる当時の事情はよくわからないが、60~70年代には来日公演を行う海外アーティストが、日本の曲をカバーしたり(アダモなど)、自分のオリジナル曲を日本語の歌詞で歌う(シカゴ、クイーンなど)ような例がしばしば見られたので、このステイプルズの場合も、おそらくそういったプロモーションを兼ねておこなわれたのだろうね。

とまれ、聴いてみよう。なんとも見事なアレンジに仰天すること間違いなしだ。

いかにも日本的な「エンヤトット」リズムだった民謡が、軽快なR&Bに仕上がっているではないか。

原曲を譜面通りにやるとバックビートに乗らない部分はうまくフェイクして、原曲以上にスピード感とリズムを強調している。

日本民謡ではまず聴くことのない、華やかな混声コーラス・アレンジもまた新鮮だ。

あまたある日本の曲の中でなにゆえこの曲が選ばれたのか。それもまた想像してみるほかないが、やはりその陽気な旋律とノリ、ユーモラスな合いの手などが、彼ら好みのグルーヴをもっており、カバーへの意欲をかきたてるものがあったのだろう。日本の民謡(トラディショナル)もまた、アメリカのブルース同様、現在のポピュラーな音楽の源流だってことだ。

バッファロー・スプリングフィールドの「For What It's Worth」、ボブ・ディランの「A Hard Rain's A-Gonna Fall」、など、ステイプルズにはジャンルを問わない名カバー曲が多いが、この1分半ほどの小曲も、それに加えていいんじゃないかな。

親子ならではの一体感あふれるコーラスと、抜群のリズム・アレンジ。一流のミュージシャンは、素材を選ばずどんな曲でもパーフェクトに料理(カバー)してしまう。

国や人種を越えた世界共通のグルーヴを、そこに感じとってくれ。

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音曲日誌「一日一曲」#212 リトル・アル・トーマス「Somebody Changed The Lock On My Door」(South Side Story/Audio Quest)

2023-10-30 05:39:00 | Weblog
2012年4月15日(日)

#212 リトル・アル・トーマス「Somebody Changed The Lock On My Door」(South Side Story/Audio Quest Records)





シカゴの黒人ブルース・シンガー、リトル・アル・トーマスの初スタジオ・アルバム(2004)より。サニー・テリーの作品。

トーマスは1930年生まれだから、今年82才。

若いころから、シカゴのサウス・サイド、マックスウェル・ストリートでブルースを歌い続けてきたが、デビューの機会に恵まれず、2000年にスイスで録音したライブ盤「In The House」を出すまでは無名であったという、知る人ぞ知るベテラン・シンガーなのだ。

70過ぎてメジャーデビューの「新人」。オトナの音楽、ブルースならではの話であるな。

彼の場合、ギターなど楽器をまったく弾かない、いわゆるスタンダップ・ブルースマンなので、注目されにくい、非常に不利なポジションにいたといえる。

が、そんな状況をはねかえすように、アルバムデビューしてからのトーマスは、高齢にもかかわらず、より活発な音楽活動をおこなうようになっている。2010年にはセカンド・アルバム「Not My Warden」もリリースして、健在ぶりを示している。

youtubeでも、彼のライブ演奏を観ることが出来るので、ぜひチェックしてみてほしい。現在のバック・バンド、白人4人編成のThe Deep Down Foolsを従えての歌が、実にディープでカッコいい。



BUDDY GUY'S LEGENDSにおけるライブ演奏 "Sweet Little Sixteen"

見てのとおり、すっかり前歯も抜けたジイサンなれど、その歌声は力強く、粘っこく、説得力に満ちている。ハットとスーツでビシッとキメた姿、シビれるぜ。

さて、きょうの一曲は、先行のライブ盤でも演奏していたナンバー。サニー・テリー&ブラウニー・マギーのレパートリーなのだが、素朴な味わいの原曲とは全然雰囲気がちがう。ひたすらファンキーでノリのいい曲に変身しているのだ。まさにアレンジの妙。

彼はいつもこの曲をステージのハイライトに配していたという。いわばキメの一曲だ。観客が盛り上がった様子が、十分想像できるね。

ジェイムズ・コットンぽい、ちょいとラフだけど迫力満点なボーカル。このグッとくる感じこそが、ブルースだ。バックもギターをはじめ、ゴキゲンなプレイヤーぞろいで、演奏のレベルも高い。

2000年までの、ン十年の助走期間は伊達じゃない。真打ちは一番最後に登場するのだ。

82才の新鋭、リトル・アル・トーマス。死ぬまで歌い続けていくなんて、筆者の理想そのものだ。憧れるなぁ~。


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音曲日誌「一日一曲」#211 リトル・リバー・バンド「Reminiscing」(Sleeper Catcher/One Way Records)

2023-10-29 05:13:00 | Weblog
2012年4月7日(土)

#211 リトル・リバー・バンド「Reminiscing」(Sleeper Catcher/One Way Records)





オーストラリアのロック・バンド、リトル・リバー・バンド、1978年の大ヒット曲。メンバーの一人、グレアム・ゴーブルの作品。

リトル・リバー・バンドは75年にメルボルンにて結成後すぐにアメリカに進出、キャピトルよりデビューアルバムを発表し、「It's a Long Way There」のヒットで一躍注目されるようになる。ドゥービーズやイーグルスを彷彿とさせるウェスト・コースト系の音で人気を博し、きょうの一曲「 Reminiscing(邦題:追憶の甘い日々)」は、ビルボード3位という、彼ら最大のヒットとなった。なんと、ラジオで400万回以上オンエアされ、14週連続チャート・インしたというから、ハンパではない。

その後も現在に至るまでアルバムを出し続けているが、彼らの全盛期はやはり、70年代後半~80年代前半といえるだろう。当時、トップ30に12曲ものヒットを送りこんでいたのだから、今でこそ覚えているリスナーは少ないものの、実にスゴいバンドだったのだ。

彼らが出てくるまでは、オーストラリア出身のバンドで、アメリカで成功した例はなかった(広義ではビージーズが最初の例かもしれないが、ギブ兄弟はもともと英王室属領マン島の出身だからね)。だから、本当の意味でパイオニアだった。彼らの成功によって、後続のメン・アット・ワークなどの豪州出身バンドが世界進出する道がひらけたともいえるだろう。

78年といえば、いまや死語となった「AOR」が全盛だったころ。大人の鑑賞にも耐えうる高い音楽性を持ったリトル・リバー・バンドは、まさにAORの代表選手的な存在として、出す曲出す曲をヒットさせていったのだ。

きょうの一曲は、その中でも名曲中の名曲といえるな。甘美なメロディ、キーボードとトランペットを主軸にしたジャズィで粋なバック・サウンド、そして歌とコーラスのうまさは特筆ものだろう。グレン・ミラーやコール・ポーターなどにインスパイアされた音と詞は、古き良きアメリカを感じさせる。ジャズへの深い造詣なくしては生み出しえなかった楽曲であり、彼らがいかにアメリカ人以上にアメリカ的であるかがよくわかる。

彼らは、ロック・バンドとしてはいわゆるケレンがまったくといっていいくらい見られない、音楽の質そのもので勝負するタイプのバンドだった。メンバーを見ても、みな実直な感じの人たちばかりで、それゆえにミーハーな人気はなかったのだが、本国ではいまだに絶大な人気があるという。

ミュージシャンは、派手なメイク、奇矯なパフォーマンスではなく、自らが生み出した曲、そして歌や演奏そのもので勝負すべきだという哲学が、彼らの音楽活動から強く感じとれるのだ。

本当の実力をもったミュージシャンとは、こういう曲を生み出せる人々のことをいうのだ。今聴いても、めちゃめちゃイケてまっせ。


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音曲日誌「一日一曲」#210 フォガット「Honey Hush」(Energized/Bearsville Records)

2023-10-28 05:23:00 | Weblog
2012年3月31日(土)

#210 フォガット「Honey Hush」(Energized/Bearsville Records)





英国出身のハードロック・バンド、フォガット、3枚目のアルバムより。ビッグ・ジョー・ターナーの作品。

フォガットといえばブギ、ブギといえばフォガットというくらい、シンプルでストレートなブギ・サウンドが売りのバンド。

とにかくわかりやすく、ひたすらノリがいいフォガットの、代表曲といえるナンバーだ。当然、ライブでも定番中の定番。以前、2004年5月23日の「一日一枚」でも彼らのライブ盤(77年)を取り上げてみたが、その中でも演奏されていた曲。約8年ぶりに、スタジオ録音のほうも聴いてみた。

いやー、とにかくカッコいいの一言。イントロを聴けば、皆さんピンと来ると思うが、某先輩ロックバンドの某曲のアレンジをまんま拝借しとります。

そう、ヤードバーズの「Train Kept A Rollin'」だ。フォガットは、そのご本家の演奏よりも、さらにタイトでヘビーなパフォーマンスで、黒人シンガー、ビッグ・ジョー・ターナーの古いブルースを見事に甦らせているのだ。

「古い皮袋に新しい酒を盛る」というのは、まさにこのようなことを指すのだろうね。

リード・シンガー、ロンサム・デイヴの熱いシャウト、デイヴとロッド・プライス、二人のギタリストの息の合ったプレイ、そしてバックを固めるトニー・スティーブンス(b)、ロジャー・アール(ds)のリズム隊。最少にして最強のパワー・ユニットの演奏は、世のすべての2ギター・バンドのお手本といえるだろう。

16ビートでこれほどの躍動感を出せるハードロック・バンドは、フォガットをおいて他にない。

ボーカルとギターの粘っこい掛け合いのうちに、曲はフェード・アウトしていくが、彼らだったらこのフル・パワー状態を何十分、いや何時間でも持続出来るような気がする。

ハードロック界随一のタフネス・バンド、フォガットの一撃に、ノックアウトされてみて。


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音曲日誌「一日一曲」#209 エリック・クラプトン「Last Night」(No Reason to Cry/PolyGram)

2023-10-27 05:35:00 | Weblog
2012年3月24日(土)

#209 エリック・クラプトン「Last Night」(No Reason to Cry/PolyGram)





エリック・クラプトン、76年のソロ4作目(ライブ盤をのぞく)より。リトル・ウォルターのカバー。

74年、長いブランクののち「461Ocean Boulevard」で復活したECが、以降年に1作のペースでコツコツとアルバムを出していたころの作品である。

「No Reason to Cry」は「Hello Old Friend」というポップなヒットを軸にしながらも、ディープなブルースをも取り上げるという、二面性のあるアルバムだ。

後者を代表するのが、オーティス・ラッシュの「Double Trouble」と、この「Last Night」。

ECはこれをちゃっかり自分の曲としてクレジットしているのだが、もちろん直接的にはリトル・ウォルターをカバーしている。もともとはトラディショナルなブルースのようだが。

まずは聴いてみよう。なんか結構、ラフというか、酔っぱらったかのようなヨレヨレの演奏に聴こえるはずだ。ミストーンとかフツーにあるし。

なんじゃあこりゃ~と思ってしらべてみたら、案の定、ちゃんとしたレコーディングではなく、クラプトン自身の誕生パーティーでの余興というか、ジャムセッションを収めたものだった。どうりで、歌も演奏も怪しげなわけだ(笑)。

事実、この曲はアナログ盤では未収録で、CD化されたときに初めて追加された「おまけ」みたいなものなのだ。やれやれ。

しかし、酒が入っているにせよ、演奏はさすがにプロのそれで、一定以上の水準にはあると思うけどね。

ブルースというもの自体、本来「しらふ」で歌うようなものじゃないので、これはこれで正しいあり方なのかもしれん。

演奏においては、クラプトンのギターはまあまあって感じだが、わりといいのが、ゲスト参加したザ・バンドの面々。とりわけ、リチャード・マニュエルのピアノ演奏は、さすがの出来だなと思う。

そのシンプルさゆえに、逆に心にダイレクトに突き刺さってくるその歌詞。失恋、そして悔恨。まさにブルースだ。

ブルースを愛好する者なら、一度は歌い、演奏してみたいナンバーといえよう。

筆者ももちろん、今後のレパートリーにと考えている。乞うご期待(笑)。


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音曲日誌「一日一曲」#208 ブラインド・フェイス「Sleeping In The Ground」(Blind Faith [2000 Deluxe Edition]/Polydor)

2023-10-26 05:21:00 | Weblog
2012年3月18日(日)

#208 ブラインド・フェイス「Sleeping In The Ground」(Blind Faith [2000 Deluxe Edition]/Polydor)





ブラインド・フェイスの唯一のオリジナル・アルバム「Blind Faith」の2000年版より。サム・マイヤーズの作品。

ブラインド・フェイスほど過剰な期待を集め、かつはげしい落胆の対象となったバンドは、他にいるまい。

この69年のデビュー盤は、セールス的には成功したとはいえ、クリームの再生復活を待ち望んだファンの予想を、見事なまでにうっちゃったサウンドだった。

「看板スター」であったエリック・クラプトンのギター・プレイはひどくジミなもので、クラプトンに比べると人気的には劣っていたスティーブ・ウィンウッドの歌を前面に押し出した内容だったからだ。

しかしですね、今聴けばこのアルバム、さほど悪くないんだよねぇ。

ブリティッシュ・ハード・ロックを期待してきくから、肩すかしをくらうだけで、そういう思い入れ抜きにきけば、そんなにガッカリするような内容じゃない。

きょう取り上げるのは、未発表テイクも含めた2枚組となった2000年版だが、オリジナル盤の6曲と合わせて聴けば、「そうか、そういうことがやりたかったのね」と得心がいく内容なんである。

CD化したときにボーナス・トラックで入っていた、出来のイマイチな2曲をちゃんと外してあるのは○。

かわりにこの「Sleeping In The Ground」が、アップテンポのテイクと、スローのテイクの2種入っているほか、おなじみの「Can't Find My Way Home」のエレクトリック・バージョン、インスト・ナンバー、スタジオでのジャム・セッションの記録などが加わっている。

これらを聴いて思うに、ブラインド・フェイスってのは、基本的にジャム・バンドであり、かっちりしたアレンジで勝負しようとしたバンドではないということだ。

ハード・ロックは「アレンジ」の音楽であり、きっちり決まったリフの上に構築される音楽だが、それとは違うものを、最初から目指していたってことだ。

4人のテクニックのあるミュージシャンが、スタジオ内で自由に演奏してみた結果、納得のいくレベルのものが出来てきたときは、それをそのバンドの「作品」とする。そんな方法論だったのだろう。

そこには、「ヒット曲を出してやろう」みたいな意図は希薄である。たしかにメンバーには、過去いくつものヒットをものした者もいたが、それはあくまでも「結果」であって、狙ったところではなかった。彼らが歌いたい曲、演奏したいサウンドを世に出したところ、たまたまリスナーの嗜好と一致した。そういうことなのだ。

ゆえにブラインド・フェイスは、レコード業界のヒット曲量産システムとは、もっとも対極のところに存在するバンドだったのである。

そういうことを考えつつ、このブルース・ナンバー「Sleeping In The Ground」を聴けば、いろいろと腑に落ちるのではないかな。

この曲の作者、サム(サミーとも)・マイヤーズは36年ミシシッピ州ローレル生まれの、黒人シンガー/ハーピスト。キング・モーズのもとでプロのハープ奏者となり、57年この曲で歌手として初録音、エルモア・ジェイムズのバックなどを経て、80年代には白人ブルース・ギタリスト、アンスン・ファンダーバーグのバンドにシンガーとして迎えられるなど、息の長い活動を続けている。

マイヤーズ自身の歌声は高からず低からずで、どこかほのぼのとした味わいがあるが、ブラインド・フェイス版ではウィンウッドが得意の高音域をめいっぱい駆使してシャウトしているので、かなり趣きは違う。でも、どちらにしても、流行り歌的なものとはだいぶん異なるのだ。

アメリカ南部の鄙びた匂い、それがこの曲のよさだ。のちにレイドバックとかいわれるような音楽の原点は、ここにあったといっていい。

クラプトン、ウィンウッド、グレッチ、ベイカー、いずれのメンバーも、永遠不滅なブルース・スタイルを愚直なまでに守って、演奏しているのがうれしい。

個性的で刺激的な音楽ばかりが、いい音楽じゃない。オーソドックスなものにこそ、深い味わいがあるということを、彼らのプレイからぜひ聴きとってほしい

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音曲日誌「一日一曲」#207 EGOIST(エゴイスト)「Departures ~あなたにおくるアイの歌~」(Sony Music Records)

2023-10-25 05:43:00 | Weblog
2012年3月11日(日)

#207 EGOIST(エゴイスト)「Departures ~あなたにおくるアイの歌~」(Sony Music Records)





いわずもながのことだが、筆者は毎日、ブルースばかり聴いているわけではない。毎週のようによく観ているのは、音楽専門ケーブルテレビのベスト100番組だが、これを長時間流して聴いているうちに、思わぬ拾い物をした。

バラードの王道、みたいな曲調。ひと昔前ならMisia、最近ならJUJUあたりが十八番とするタイプの曲だが、歌っているのは、そのどちらでもない。

線はやや細いが、心にしっかりと響く、しなやかな歌声。一体、誰だろうと思って調べてみた。

インターネットの検索エンジンのおかげで、こういうときは一瞬でわかる。ありがたいことだ。

歌い手のEGOISTとはバーチャル・バンドの名前。曲は、昨年10月から放映中の深夜アニメ「ギルティクラウン」の、12月までのエンディング・テーマだった。作中に登場する架空のバンドというわけだ。

アニメ中の歌姫キャラ、楪いのり(ゆずりは~)は、売り出し中の新人声優、茅野愛衣が声をあてているが、歌のほうは新人のchelly。そしてサウンドは、あのsupercellのryoがプロデュースしているという。

以前、当コーナーで「君の知らない物語」を取り上げて、supercellに注目したが(2010年1月10日)、その後、その活動ぶりには本当に目覚ましいものがある。

ryoは「化物語」に続くアニメ「偽物語」でもEDテーマを担当しているほか、中川翔子にも曲を提供したり、アニメ「ブラック★ロックシューター」の音楽を制作するなど、マスメディアには顔を出さないものの、もはやメジャー・アーティストといってよい。

そんな彼の作曲家/アレンジャーとしての確かな実力が伺えるのが、この「Departures ~あなたにおくるアイの歌~」だと思う。

2000人のオーディションから選ばれた2人のうちのひとり、17才のchellyの、甘くもせつない歌声。ピアノトリオとストリングスをベースにした、オーソドックスなオーケストレーション。

繊細なファルセットを交えてささやくような、ローレライにも似た柔らかな声に、多くの男性は心を奪われるにちがいない。

4分ちょっとの耳の至福。なんとも淡く、はかない時間なのだが、ずっと心に残り続けるのだ。聴いているうちに、思わず落涙してしまうかも。

こんなに美しいラブソングを、歌詞もメロディも、そしてアレンジも含めて、すべてひとりでプロデュースするryoというひとは、21世紀のコール・ポーターといえるかもしれない。

オリコンチャートにトップテン入りしたのも納得な、佳曲。ぜひヘッドホンで、その甘美なサウンドを満喫してほしい。

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音曲日誌「一日一曲」#206 ビッグ・ビル・ブルーンジー「Evil Woman Blues」(Evil Woman Blues/Fuel 2000)

2023-10-24 05:39:00 | Weblog
2012年3月4日(日)

#206 ビッグ・ビル・ブルーンジー「Evil Woman Blues」(Evil Woman Blues/Fuel 2000)





早いものでもう3月だ。今月の一曲目はこれ。ビッグ・ビル・ブルーンジーが歌うトラディショナル・ナンバー。

ビッグ・ビルといえば、シカゴ・ブルースの顔役的存在。30~40年代を中心に、膨大なレコーディングを残している。

われわれがよく耳にしているビッグ・ビルの音源は、アコースティック・ギターの弾き語りスタイルのものが多いが、それだけでなく、バックにピアノとベース、あるいはさらにドラムも加えたバンド・スタイルでもレコーディングしている。

きょうの一曲は、それにさらにホーン・セクションも加えた、いわゆるビッグバンド・スタイルで録音されたもの。ちょっと珍しいかも。

イントロはトロンボーンのブローに始まり、ビッグ・ビルの歌に合わせて、ミュート・トランペットによるオブリガートが続く。中間部のソロは、軽妙なクラリネット。このへんに、ベニー・グッドマンを頂点とするスウィング・ジャズがトレンドだった「時代」を感じるね。

ふたたび、トランペットのオブリガート、そして三管によるリフで曲は終わりを告げる。

まさにスウィング・スタイルのブルースなのだが、ノリが実にいい。歌はもちろん、バックもよくスウィングしている。後半部のピアノの連打など、まことにノリノリである。

それにしても、ホーンとひとことで言っても、時代によって主役は変遷していることを感じる。

ホーンの王、トランペットは今でもなんとか王座にあるとはいえ、ナンバー2以下は明らかに入れ替わっている。

かつてトランペット並みの人気を博したクラリネットは、テナーをはじめとするサキソフォーンにその座を譲り渡してしまった。

50年代以降のジャズ、そしてその血縁関係にあるブルース、R&B、ソウルといったジャンルのバンドで、クラリネットを見かけることは、ごく稀になってしまった。

スウィング時代には花形だったトロンボーンも、後代には影が薄くなり、あくまでもアンサンブルの一員としてかろうじて命脈を保っているという感じだ。

ワンホーンをバンドに加える場合、トランペットよりむしろサックス、という傾向がロックの時代から強まっているし、「三管」といえばペット・クラ・トロンでなく、ペット・サックス・トロンを指すようになった。

時代によって、聴き手の楽器に対する好みが、次第に変化していっているという証拠だ。

でも、ただひとつ、永遠不変の真理があるのだな。

それは「いかなる楽器よりも雄弁なのは、人間の声という楽器である」ということ。

まこと、ボーカルというものは、バックのすべての楽器演奏を合わせても十分対抗出来るだけの強力な楽器なのだ。

聴き手の心に対して強大な説得力をもつ「歌詞」を表現できる楽器は、ヒトの声しかないからだ(まあそれも初音ミクをはじめとする「ボーカロイド」の登場によって、状況は変化しているけど)。

ということで、ビッグ・ビルの説得力あふれる歌声を聴いてほしい。見事に安定したリズム感、ワイルドにしてメローな、王者のボーカルをとくと楽しんでくれ。

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音曲日誌「一日一曲」#205 ジョニー・テイラー「Something Is Going Wrong」(Lover Boy/Malaco)

2023-10-23 05:00:00 | Weblog
2012年2月26日(日)

#205 ジョニー・テイラー「Something Is Going Wrong」(Lover Boy/Malaco)





ジョニー・テイラー、86年のアルバムより。ロバート・A・ジョンスン、サム・モズレーの作品。

ジョニー・テイラーは2000年に62才で亡くなっているが、彼のシンガーとしてのキャリアの後半は、マラコ・レーベルとともにあった。この「Lover Boy」は同レーベルにての2枚目にあたる。

説明するよりとにかく、まずは曲を聴いてほしい。この歌の、圧倒的なパワーは、筆舌に尽くし難いというしかない。

ジョニー・テイラーというひとは、サム・クックに多大な影響を受けたソウル・シンガーであると同時に、ブルース・シンガーとしても見事な業績を残している。ただ、日本ではかなり過小評価されていて、めったに話題にも上らない。

それもこれも、わが国では、ギターなどの楽器をもたないスタンダップ系ブルース・シンガーを、軽視する傾向が強いからだ。まことに嘆かわしいのう。

たとえばこの「Something Is Going Wrong」にしてみたところで、ブルース・ファンはバックでギターソロを弾いているのは誰?みたいなことにばかり興味が向いていたりする。そんなの誰だってええやん!と思うんだがねえ。

たしかに、このギタリストはなかなかいいソロを弾いているのだが、あくまでも主役はジョニー・テイラー。彼自身が弾いているのではない以上、ギタリストはあくまでもワキ役だ。

いやいや、さらに言ってしまえば、シンガー兼ギタリストであったとしても、ブルースが「歌もの」の音楽である以上、いかにギターが上手くても歌自体がよくなきゃ、全然アウトなのだ。

そのへん、わかっていない日本人が多過ぎるのだ、プンプン。

ギターは激ウマ、でも歌はアマチュア・レベル、みたいなブルースマンをファンが容認している限り、ブルースはしょせんアマチュア音楽だね、とナメられてしまうのだよ。

さて、ボヤキはこのへんにして、この曲についてもうちょっと語らせていただこう。

歌詞、節回し、歌い口、そしてバックのサウンドに至るまで、ここまで「どブルース」な曲は、なかなかおめにかかれるものではない。

もう150キロ超のど直球!みたいな、あきれるほどのピュア・ブルース。

ジョニー・テイラーはとても器用なシンガーで、コンテンポラリーなR&B/ソウルも難なく歌いこなしており、マラコ時代にもその手の「Good Love」という大ヒットを出しているが、その一方で、何のてらいもなくこういう曲を熱唱するひとでもあった。

その歌のスケールの大きさにおいて、彼をしのぐブルース・シンガーはいまだに出てきていないような気がする。この一曲を聴いただけでも、それは明白なんじゃないかな。ブルース・ファンなら、必聴でっせ。

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音曲日誌「一日一曲」#204 ビリー・ボーイ・アーノルド「Shake The Boogie」(Back Where I Belong/Alligator Records)

2023-10-22 05:00:00 | Weblog
2012年2月19日(日)

#204 ビリー・ボーイ・アーノルド「Shake The Boogie」(Back Where I Belong/Alligator Records)





おもに50~60年代に活躍したブルースマン、ビリー・ボーイ・アーノルド、93年のアルバムより。サニー・ボーイ・ウィリアムスン1世の作品。

アーノルドは35年、シカゴの生まれ。土地柄もあり幼少のころからブルースを聴いて育ち、近くに住んでいたサニー・ボーイ・ウィリアムスン1世の薫陶を受けて、自らもシンガー/ハーピストとなった。まさに生粋のシカゴ・ブルースマンなのだ。

52年、17才で初レコーディング。その後、ボ・ディドリーと活動を共にすることで、彼の名前は広く知られるようになる。60年代には、ヤードバーズが彼の「I Wish You Would」「I Ain't Got You」をカバーしたことで、ロックファンにも注目されるようになった。

70年代以降は表舞台から次第に遠ざかるようになり、一時はバス運転手をして暮らしていたが、90年代には本格復帰。この「Back Where I Belong」というアリゲーターでのファースト・アルバムで健在ぶりを披露し、76才の現在に至るまで活動を続けているのだ。

アーノルドの歌はブルースとはいえ、どちらかといえばライトで、むしろR&Bっぽい流行歌感覚がある。ディープな「どブルース」は歌えないが、そのヘニョッとした軽妙さこそ、彼の持ち味といえそうだ。

93年の復帰盤でも、その味は昔と全然変わっておらず、なんとなくホッとする。

きょうの一曲は、彼が幼くして直弟子となった師匠、ウィリアムスンの代表曲。

後代のロックンロールにも通ずるものがある、ライトな味のブギ・ナンバーだ。

歌にせよ、ハープにせよ、力みのない自然体で、そこがアーノルド流。特にハープは、ソロフレーズよりもむしろリズム、ビートを強調するスタイルで、「ハープ=リズム楽器」という筆者の自説を見事に裏打ちしてくれている。

90年代録音とはいえ、その演奏スタイルは、ギターなどのバックも含めて、あきらかに50年代のもの。だが、それがイイ!

アルバム・タイトル通り「原点回帰」な一枚。いまどきの音楽に媚びず、俺流を貫き通していて、実にカコイイ。

ビリー・ボーイの男伊達を証明する佳曲。ぜひチェックしてみてくれ。


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音曲日誌「一日一曲」#203 ジョニー・ギター・ワトスン「One Room Country Shack」(The Original Gangster of Love:/Jasmine Rocords)

2023-10-21 05:10:00 | Weblog
2012年2月12日(日)

#203 ジョニー・ギター・ワトスン「One Room Country Shack」(The Original Gangster of Love: 1953-1959/Jasmine Rocords)





ジョニー・ギター・ワトスンの50年代の録音より。マーシー・ディ・ウォルトンの作品。

ジョニー・ギター・ワトスンといえば、筆者オキニのアーティストのひとりで、「一日一枚」あたりでも何度か取り上げたことがある。ヤクザっぽくて、粋でいなせで、とにかくイカしているの一言なのだが、この50年代の曲も実にカッコいい。

オリジナルは、テキサス州出身のシンガー/ピアニスト、マーシー・ディ・ウォルトン。もともとはブギウギ/バレルハウスのスタイルだったが、これをモーズ・アリスン、ジミー・ロジャーズ、バディ・ガイ、オーティス・スパン、ジョン・リー・フッカー、ローウェル・フルスン、アル・クーパー&シュギー・オーティスといったさまざまなアーティストがカバーしたことで、ブルース・スタンダードとなった。

ジョニー・ギター・ワトスンは50年代半ば「ゾーズ・ロンリー・ロンリー・ナイツ」「ギャングスター・オブ・ラブ」のヒットで一躍スターとなったが、きょうの一曲もその時代のもの。まだはたちそこそこの、若さに溢れた歌声が聴ける。

歌の内容としては、ブルースのおおかたにもれず、独り身のやるせなさを歌ったものだが、ワトスンのあくの強い声で歌われると、ありふれた哀感とはまた違った、彼一流の「大見得」のようなものを感じる。

女にふられようが、俺は俺、負けねーぜ、みたいな。

時代を感じさせるペナペナなギター、ドタドタのドラムなれど、これがえらくカコイイ。

70年代以降のファンクなジョニーGもヒップなのだが、こちらも負けじとヒップなのだ。

要するに、カッコいい人は、いつの時代でもカッコいいのだ。これ永遠不滅の真理ね、ということで。


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音曲日誌「一日一曲」#202 アーロン・ネヴィル&リンダ・ロンシュタット「Don't Know Much」(Cry Like a Rainstorm/Rhino/Elektra)

2023-10-20 05:07:00 | Weblog
2012年2月5日(日)

#202 アーロン・ネヴィル&リンダ・ロンシュタット「Don't Know Much」(Cry Like a Rainstorm - Howl Like the Wind/Rhino/Elektra)





ネヴィル・ブラザーズの看板ボーカル、アーロン・ネヴィルとベテラン女性シンガー、リンダ・ロンシュタットのデュエット・ナンバー。バリー・マン=トム・スノウ=シンシア・ワイルの作品。

アーロン・ネヴィルとリンダ・ロンシュタット、このふたりは因縁浅からぬ仲だ(別に男女関係って意味じゃないよ)。きっかけはロンシュタットの89年のアルバム「Cry Like a Rainstorm - Howl Like the Wind」にネヴィルがゲスト参加し、きょうの一曲とあと「All My Life」の二曲をデュエットしたことだ。

この二曲がなんと、グラミー賞のベスト・デュオ賞を取ってしまったんである。

これが発端となって、ネヴィルのA&M移籍第一弾アルバム「Warm Your Heart」は、ロンシュタットがプロデュースしている。ロンシュタットの好サポートのおかげで、それまで格別のヒットがなかったアーロン・ネヴィルのソロ活動は軌道に乗ったといえる。

アーロン・ネヴィルといえばなんといっても「天使の歌声」とも称される、その清らかなファルセット・ボイスがウリだ。そのいかつい顔や体つきとはあまりに好対照な、ピュアな歌声に癒される人も多い。

前置きはこのぐらいにして、まずは曲を聴いてみよう。ピアノの静かなイントロに導かれてソフトなネヴィルの歌声が始まり、それに線のはっきりしたロンシュタットの高い声が絡んでいく。そのハーモニーは澄みわたった空のようだ。

曲を提供したのは、バリー・マン、シンシア・ワイル夫妻とトム・スノウ。マン夫妻は60年代以降、数々の大ヒット(「ふられた気持ち」「オン・ブロードウェイ」など)を生み出したタッグで、87年には夫婦揃ってソングライターの殿堂入りも果たしている。

そんな強力なチームから生まれた曲だから、悪いわけがない。佳曲に、最高の歌い手ふたり。グラミー受賞もむべなるかな、である。

ラブバラード・ナンバーの最高峰、ぜひチェックしてみてくれ

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音曲日誌「一日一曲」#201 マジック・スリム&ザ・ティアドロップス「Before You Accuse Me」(Rough Dried Woman/Wolf)

2023-10-19 05:24:00 | Weblog
2012年1月29日(日)

#201 マジック・スリム&ザ・ティアドロップス「Before You Accuse Me」(Rough Dried Woman/Wolf)





ベテラン・ブルースマン、マジック・スリム2009年のアルバムより。エラス・マクダニエル、すなわちボ・ディドリーの作品。

以前にマジック・スリムを取り上げたのは2008年4月のことだから、もう4年近くたつのだが、その間にも彼はコンスタントにアルバムをリリースし続け、最新作は2010年の「Raising the Bar」。とても現在74才とは思えぬ精力的な活動ぶりであるね。

そう、マジック・スリムの魅力はまずそのタフネス、パワフルさにある。ボーカルにせよ、ギターにせよ、常に真正面からの押し相撲でグイグイと攻めるタイプ。

ちょっとラフで大味なところさえも、その武器としているのだから、もう最強のブルースマンなんである。

マジック・スリムといえばそのステージネームゆえにどうしてもマジック・サムと混同されやすいが、もともとこの名前、先輩格であったマジック・サムが彼につけてやったものだという。パチモンではなく、いわば本家のお墨付きなのだ。

尊敬する兄貴分、マジック・サムからもらったそのステージ・ネームを、今も変わらず名乗り続けるマジック・スリムには、なんかオトコの義侠心みたいなものを感じちゃうね。

「ブルース渡世人」のおもむきのあるマジック・スリム兄さんの心意気は、きょうの一曲にも、しっかりうかがうことが出来る。

「Before You Accuse Me」はクラプトンやCCRであまりにも有名だが、もともとはボ・ディドリーがオリジナル。ブルースというよりはロックンロールなノリの佳曲だが、マジック・スリムが弾き歌えば、またひと味違って聴こえる。

エルモア・ジェイムズ風、いわゆるブルーム調のイントロで始まるアップテンポのシャッフル。ティアドロップスによるコーラスも交えた力強い歌声が、いかにもマジック・スリムらしい。

愛器ジャガーによるソリッドで高らかなソロも、昔からまったく変わることのないスタイル。時代なんて関係ねえ、2000年代になろうが、俺は俺。常に王道を行くぜ!みたいな感じだ。

歌の中身はどちらかといえばダメオトコ系の話なんだが、マジック・スリムが歌えばみょうに威勢よく、元気が出る歌になってしまうのが可笑しい。

マジック・スリムことモーリス・ホルトの「俺節」、72才のタフな歌声を聴けば、「やるなジジイ、俺たちも負けてられねえぜ」と思うはず。ぜひ聴いてくれ。

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音曲日誌「一日一曲」#200 カーク・フレッチャー「Bad Boy」(Shades of Blue/Delta Groove Productions)

2023-10-18 05:00:00 | Weblog
2012年1月22日(日)

#200 カーク・フレッチャー「Bad Boy」(Shades of Blue/Delta Groove Productions)





皆さん、いつも応援ありがとう。ついに、記念すべき200曲目である。西海岸出身の黒人ブルースマン、カーク・フレッチャー、2004年のアルバムより。エディ・テイラーの作品。

カーク・フレッチャーは1975年カリフォルニア州ベルフラワー生まれの36才。若手ブルースマンとしては注目株のひとりだ。

兄の影響で幼少よりギターを弾き始め、10代にしてすでにプロ活動をしていたというから、非常に早熟な才能の持ち主である。

2004年からは同じく西海岸出身のギタリスト、フランク・ゴールドワッサーやキッド・ラモスとともにザ・マニッシュ・ボーイズという超実力派ブルース・バンドに参加する一方、自身のアルバムも地道にリリースしている。

マニッシュ・ボーイズと同じインディーズ・レーベルからリリースした一番最近のアルバム「Shades of Blue」では、自分が影響を受けたブルースマン、B・B・キング、ウィリー・ディクスン、ジミー・ドーキンス、MG'Sなどのカバーを数多くやっていて、若いのにいかにもピュア・ブルース指向なところを見せてくれているが、その中でもきわめつけは、エディ・テイラー作のこの曲だろう。

皆さんにはクラプトンのバージョンでおなじみだろう。エディ・テイラーならではの愚直なまでにステディなビートが、まさにピュア・ブルースな名曲。これをカークが、しっかり自分のものにしている。

ワイルドで張りのある歌声、ひたすらソリッドでシャープなストラトキャスターの音色、30前の若者とはとても思えぬシブカッコよさだ。巨体にヒゲ面と、ちょっとコワモテのルックスで、貫禄も十分。

バックの、やけに野太いハープもそのサウンドに実にマッチしていて、お見事。これだけ骨太なブルースは、最近なかなか聴けないだけに、うれしい限りだ。

近年ではキム・ウィルスン率いる人気バンド、ファビュラス・サンダーバーズにもゲスト参加するなど、その才能を広く認められてきたカーク・フレッチャー。ブルースとは何かを、体で知っている正統派プレイヤー、今後の活躍が本当に楽しみだ。

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音曲日誌「一日一曲」#199 アール・フッカー「The Foxtrot」(Smooth Slidin'/CLP)

2023-10-17 05:21:00 | Weblog
2012年1月14日(土)

#199 アール・フッカー「The Foxtrot」(Smooth Slidin'/CLP)





ブルース・ギタリスト、アール・フッカーによるインスト・ナンバー。フッカー自身の作品。

アール・フッカーは29年、ミシシッピ州クラークスデール生まれ。デルタ・ブルースの故郷の地から、家族と共にシカゴに移住したのが、10代はじめの41年。以降、デルタ・ブルースとシカゴ・ブルースの両方を聴いて育ち、特にスライド・ギターの名手、ロバート・ナイトホークに強い影響を受ける。

自らもスライド・ギターを弾くようになり、50年代後半からプロとしての活動を開始。おもに他のアーティスト、たとえばジュニア・ウェルズ、マディ・ウォーターズといったブルースマンのバッキングで名を上げ、自らのリーダー・アルバムもリリースするようになる。

きょう聴いていただく「The Foxtrot」は、その題名通り、ダンススタイルの一種、フォックストロットをモチーフにした軽快なシャッフル・ナンバー。初出は彼の67年のデビュー・アルバム、「The Genius Of Earl Hooker」。

ここでフッカーは、いつものスライドではなく、指弾きによるスピーディな演奏を聴かせてくれる。リズム感といい、アタックといい、スライド・プレイにまさるとも劣らぬ見事な出来映えだ。

指弾きよし、スライドよし、さらにはダブル・ネック・ギターを弾きこなしたパイオニアでもあり、とにかく彼に死角、弱点はなかったといえよう。

テクニックとフィーリング、その両方を兼ね備えた最上級の奏者のことをヴァーチュオーゾと人は呼ぶが、アール・フッカーこそはまさにその呼称にふさわしいプレイヤーだった。B・B・キングでさえ、フッカーのスライド・プレイには憧れたという。

70年に41才の若さで亡くなってしまったのが、本当に惜しまれる。彼ならば、生きていればさらにスゴい演奏を残してくれたはずだ。

ほんの2分たらずのナンバーに込められた、並々ならぬ気迫を、とくと聴いとくれ。


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