NEST OF BLUESMANIA

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音曲日誌「一日一曲」#354 B・B・キング「The Thrill Is Gone」(Bluesway)

2024-03-25 07:27:00 | Weblog
2024年3月25日(月)

#354 B・B・キング「The Thrill Is Gone」(Bluesway)






B・B・キング、69年12月リリースのシングル・ヒット曲。リック・ダーネル、ロイ・ホーキンスの作品。ビル・シムジクによるプロデュース。アルバム「Completely Well」{69年)に収録。

B・B・キング(以下BB)は、1925年に生まれ、2015年に89歳で亡くなっている。いうまでもなく、米国ブルース界の最頂点に君臨し続けた、文字通りの「王」である。

そんなBBがあまたレコーディングしたシングル曲の中でも、最も売れた曲がこの「The Thrill Is Gone」である。全米チャートで自身最高の15位を獲得、R&Bチャートでも3位を記録した。44歳、ブルースマンとして一番脂の乗った年齢にして得た栄誉である。

この最重要曲について、これまでは正面きって取り上げて来なかったので、彼の死から10年近く過ぎた今、じっくりと研究してみたい。

BBは71年3月の第13回グラミー賞で、最優秀男性R&Bボーカル・パフォーマンス賞を受賞している。これはBB初のグラミー受賞である。単に曲が大ヒットしただけではなく、曲や歌唱の素晴らしさが、世間から正当に評価されたのである。後に88年、BBはグラミーの殿堂入りも果たしている。

BBのそこまでの道のりは、実に長かった。ライリー・B・キングとしてミシシッピ州の片田舎、イッタベーナの小作人の家庭に生まれ、幼少時は労働の傍らギターを弾くようになる。

10代の末にテネシー州メンフィスに出て、本格的にプロのミュージシャンを目指すようになる。その地のラジオ局WDIAでDJを担当し、その時ついたニックネーム「Beal Street Blues Boy」がその後「Blues Boy」となり、さらに「BB」と短縮されたことで、彼の芸名が決まったというのは、あまりにも有名なエピソードだ。

5、6年ほどでチャンスをつかみ、20代半ばの49年にナッシュビルのブレット・レーベルで初レコーディング。

その後契約したモダン・レーベルからリリースした51年のシングル「3 O’clock Blues」がR&Bチャート1位のスマッシュ・ヒット。これにより、BBは一躍人気シンガーとしての道を歩むこととなる。

64年には「Rock Me Baby」をヒットさせる。これは白人ロック・ミュージシャンにも数多くカバーされて、BBの代表曲のひとつとなった。65年にはライブ・アルバム「Live at the Regal」がR&Bチャート6位のヒット。

そして、この「The Thrill Is Gone」の大ヒットで、米国での人気のみならず、全世界的にも認められたトップ・アーティストになったのである。

同時期にリリースされたアルバム「Completely Well」も全米38位となり、BB初の全米トップ40アルバムとなった(R&Bチャートでは5位)。

「The Thrill Is Gone」はもともと、作曲者のブルース・シンガー、ロイ・ホーキンス(1903年生まれ)による51年リリースのシングルがオリジナルで、R&Bチャートで6位のヒットとなった。

このマイナー・スロー・ブルースを18年ぶりにカバーしたのが、BBというわけである。

BBバージョンの大きな特徴といえば、バックにバンド演奏だけでなく、ストリングスをも加えていることである。これはプロデューサーのビル・シムジクのアイデアによるものだ。

ストリングス、そしてエレクトリック・ピアノの響きを前面に押し出すことで、それまでのブルース・レコードにはない、モダンで洗練された味わいを出すことに見事成功している。

また、その悲しげな曲調もBBの「怒り節」とも呼ばれる独特の歌い口に、完璧にフィットしていると思う。高音を強調した、泣きのスクウィーズ・ギターも、また然り。

古臭いものと思われがちなブルースを現代的にアップデートしたサウンドあってこそ、この大ヒットは生まれたのだと思う。

歌詞もただ男女の惚れたはれたみたいな、ありきたりのパターンにとどまらず、恋の終わりのやるせなさ、うら淋しさを語るとともに、ふたりの関係が終わることで、ようやく心の自由を得たという、少し皮肉な感情まで巧みに表現している。これはなかなか秀逸な歌詞だと思うね。

ひと筋縄ではいかない失恋ソングとして、「The Thrill Is Gone」は永遠のブルース・スタンダードになることだろう。

BBの数多くのライブ・アルバムでのパフォーマンス、あるいはアルバム「Deuces Wild」(97年)でのトレーシー・チャップマンとのデュエットなど、何度もレコーディングされた曲ではあるが、やはりこの最初のシングル版が一番の出来だと思う。ぜひ、55年前の名曲、名演を改めてチェックしてみてくれ。

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