ゴルフィーライフ(New) ~ 龍と共にあれ

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天上の月、水上の月 (1Q84 その2)

2011年10月22日 | 読書ノート

歴史は夜作られる、というが、
この本に
はポルノ小説か、と思えるようなシーンが多々でてくる。
大事なものを撫で上げている下りで、大事なことが語られたりする。
ほんとうは、そんなところにあるのだ、たぶん。
日常生活的には、建前を装うスーツが汚れてはいけないから、避けられる水溜まりのようなものになってしまうが、
そこに世界が映っている。

そのような水溜まりをよけながら、書き出したところで味気ないような気もするのだが、
差し当たりブログ上の目的には差し障りがない。
(水溜まりでちゃぷちゃぷするには本物を読んだらいい。)

アインシュタインは晩年になって、インドの大詩人タゴールに
" 誰も見ていない時は、空にかかる月は存在しないのでしょうか。 "と言ったらしいが、
量子力学が検知したミッシング・リンク
ここでは月が二つ存在する世界が描かれる。

夜になって空に浮かぶ二つの月、
もう一方の月は小さく、緑色がかっていて、二つの月は重なりあうことはない。
ここはここではない世界だな、と分からせてくれる しるし。
そんな風景が、青豆の世界にも、天吾の世界にも現れる。

<青豆の章から>

空には月がふたつ浮かんでいた。
世界がどうかしてしまったか、あるいは私がどうかしてしまったか、その どちらかだ。
瓶に問題があるのか、それとも蓋に問題があるのか?

その夜も月は二つだった。
青豆はブランデーのグラスを手に、その大小一対の月を長いあいだ眺めていた。
もしできることなら、彼女は月に向かって問いただしてみたかった。
どういう経緯があって、突然あなたにもうひとつの緑色の小さなお供がつくことになったのかと。
もちろん月は返事をしてくれない。
月は誰よりも長く、地球の姿を間近に眺めてきた。
おそらくはこの地上で起こった現象や、おこなわれた行為のすべてを目にしてきたはずだ。
しかし月は黙して語らない。冷やかに、的確に、重い過去を抱え込んでいるだけだ。
そこには空気もなく、風もない。
真空は記憶を無傷で保存するのに適している。
誰にもそんな月の心をほぐすことはできない。

ダウランドのラクリメを聴きながら、老婦人のタマルが、青豆にこんなことを語るシーンがある。
「服装や生活様式にいくらかの違いはあっても、私たちが考えることややっていることにそれほどの変わりはありません。
人間というのは結局のところ、遺伝子にとってのただのキャリア(乗り物)であり、通り道に過ぎないのです。」

何度か引用するが、私は「電子コーディネーター説」を実におもしろい考え方だと思っている。
石や木や水と私たちの関係について
つながってきた ~ 真実への目覚め
世界の総量は変わらない。
物質化(現実化)するのは電子を伴った場合であって、
電子を伴わない陽子や中性子は物質化(現実化)しないから、この世に存在しないように思われるが、
電子を伴ったときには、再びこの世に姿を現す。
私たちは、そのようにして物質化した生命体であるが、
私たちを構成している有機物も、さらに細かい中性子や陽子レベルまでいけば、
太古から宇宙に存在していたのと同じもので、その組合せが無限に異なるだけのリサイクル、再生品だ。
私たちの意識や心は見えないし、
空っぽな無であるはずの真空でさえ(ポテンシャル)エネルギーを持っている(宇宙の始まりのタネ)が、
物質化(現実化)しない陽子や中性子の存在で、それらの不思議を説明することができる。
人間に共通の心のあり方や、理性や欲望についても、
もとの粒粒が同じなのだから、根本的なところでは同じなのだと納得がいく。

<天吾の章から>

ガールフレンドはその世界についてしばらくのあいだ考えていた。
「ねぇ、英語のlunaticとinsaneはどう違うか知ってる?」
「どちらも精神に異常をきたしているという形容詞だ。細かい点まではわからない。」
「insaneはたぶん、うまれつき頭に問題のあること。
それに対してlunaticというのは、月によって、つまりlunaによって、一時的に正気を奪われること。
十九世紀のイギリスでは、lunaticであると認められた人は何か犯罪を犯しても、その罪は一等減じられたの。
その人自身の責任というよりは、月の光に惑わされたためだという理由で、
信じられないことだけど、そういう法律が現実に存在したのよ。
つまり、月が人の精神を狂わせることは、法律の上からも認められていたわけ。」
「それで私が言いたかったのはね、月が二つも浮かんでいれば、人の頭はますますおかしくなるんじゃないか、ってこと。
潮の満ち干だって変わるし、女の人の生理不順も増えるはずよ。まともじゃないことが次々に出てくると思う。」

月というのは、特に西欧では魔物的なイメージでとらえらえるようだ。
ベートーベンの月光ソナタも、美しいがどこか不気味な雰囲気をたたえている。
前に、狂気めいたラインが印象的な
Monkberry Moon Delight ( 尽きせぬ悦び )を採り上げたが、
今日は、有史以来、連綿と続く叡知の粒粒を称える歌、水上の月。

Paul McCartney & Wings - Warm and Beautiful (1976) (Remaster w/Lyrics) [1080p HD]

A love so warm and beautiful / 温かく美しい愛、
stands when time itself is falling, / 時が流れ落ちても そこに在る
A love so warm and beautiful , never fades away. / 決して消えて失くなりはしない 
Love, faith and hope are beautiful / 愛、誠実さ、希望、この美しきもの
when your world is touched by sadness, / あなたの世界が悲しみに襲われたときであっても
To each his own is wonderful, / それぞれが、持っているものの素晴らしさを知る
love will never die. / 愛が死ぬことはない
Sunlight's morning glory / 太陽光の溢れる朝の栄光は
tells the story of our love, / 私たちの愛の物語を告げ
Moonlight on the water / 水上に映る月光は
brings me inspiration ever after. / 私に永遠のインスピレーションをもたらしてくれる
 
 

1Q84 BOOK 1
村上 春樹
新潮社

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