職員室通信・600字の教育学

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『通天閣』(西加奈子)は、大傑作か?!

2009-06-30 09:17:18 | Weblog


◆音読力のチェックに使っていた『通天閣』(西加奈子)を、きょうは、もう音読する気にもならないので、木製の折りたたみ式の、ハンモック風、肘掛け椅子に全身を沈め、ダラダラと黙読していて、そのまま読了。

 一気に、一冊読了してしまうようなことは、最近のわたしとしては異例中の異例。
 ま、『通天閣』を読むこと以外に、他に何もやる気にならなかったからですけど。
 こんな言い方をして、西加奈子さん、スンマヘン、スンマヘン。

(1)中心人物の女性(雪ちゃん?)と、恋人マメの世界を描くときの、語りが超一級品です。
 だから、終末場面の彼女のセリフ「夢を追いかけている姿が綺麗? 作品に惚れた? うるせえ馬鹿野郎。夢を持っていないと、いけないのか。ニューヨークに行って、それが格好いいのか。私にとって夢は、あんたのお嫁さんになることだったんだ。その夢は、どこか間違っていたのか」が、ジ~ンと効いてきます。

(2)中心人物の女性がパートをしているスナック(サーディン)の描写が、意外と……といっては失礼ですが、これが、ホンマ、抜群にうまい。
 シモネタ好きの千里さん。
 スタイル抜群のチイコちゃん。
 やることなすことすべてオバンくさい響さん。
 嘘つきまみさん。
 輪郭がくっきりして、生き生きとしている。
 しかし、精魂込めて書いたと思われるママさんとオーナーは、最後までパッとしませんでした。


(3)中心人物と交互に描かれる対役(中心人物の義理の父)は、設定では44歳の独身(独居)男性なのですが、どんなに努力して読んでも、20歳前後のフリーターでした。
 これが課題だ……というより、こういう中年独居男性の視点でものを書くことに挑戦した西加奈子さんが立派だ……といったほうがいいのか。
 ただし、この中年男性が、終末場面、鉄柱から身投げしようとする人物・ダマーに「お前のことがっ、好きやああああっ!!!」と叫ぶ場面では、ちゃんと設定年齢になっていました。
 わたしは、民主党の岡田克也が「好きやああああっ!!!」と叫んでいるのかと思いましたよ。

(4)一言多いです。
 たとえば、……
〈通天閣は、静かに、静かに、雪に打たれている。
 ビー、ビー、と音がして、画面が切れた。私はしばらく、真っ黒になったそれを、じっと見ていた。
 愛されたい。私も、誰かに愛されたい。
 通天閣が、立っている。何してでも、ええですがな、そんな風に。いつまでも、いつまでもそこに立っている。
 雪ちゃん、充電というのは意外と、時間がかかるもんでっせ。〉

 前の記述の流れからいうと、2回目の「通天閣が……」以降は、カットですよ。

(5)わたしは、おお、大阪泉陽高→関西大卒の人ががんばってんねんなぁ~と、作者・西加奈子さんにはあこがれましたが、どの登場人物のようにも生きてみたいとは思いませんでした……という点では大失敗作。
 しかし、何もやる気になれなくて、木製の折りたたみ式の、ハンモック風、肘掛け椅子に身を沈めている、落ち込み中のおっさんに、いや、じいさんに、一気に最後まで読み切らせたという点では、おお、大傑作なのか!? (『通天閣』の感想 以上)


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