木村草太の力戦憲法

生命と宇宙と万物と憲法に関する問題を考えます。

平成23年度新司法試験公法系第一問出題趣旨!

2011-09-22 09:57:08 | Q&A その他

Jiroさま、ララオさまより次のようなコメントを頂きました。

このほかにも、今年(平成23年度)の司法試験の問題・出題趣旨について
ご質問があるかと思いますが、
その場合は、この記事のコメント欄を掲示板的にご利用ください。
私は別に司法試験の専門家ではないので、
実戦経験者の方々でゼミ的に話し合っていただいた方が有益かと。
(私も、コメントできる範囲でコメントいたしまする)

ではでは、Jiroさまより。


Jiroさまより

何回も質問をするのは恐縮ですが、
表現の自由の自己統治について質問させてください。
『急所』128頁~131頁に、自己統治の記述があります。
私はこの箇所を読むまで、自己統治について、
民主政の過程を機能させるための政治的価値のみだと考えておりました。
しかし、『急所』および引用されている『憲法学Ⅲ』を読むことで
自己統治の価値はそれだけにとどまらないということが理解できました。
ここで、少し話は変わるのですが、
今年の新司法試験の問題の特定地図検索システムによる情報提供は、
以上の観点(政治的価値以外の自己統治の観点)から表現の自由として
基礎づけることができると考えておりました。
しかし、公表された出題の趣旨を読むと、
試験委員の先生方は自己統治の価値からの基礎づけは無理とのお考えのようです。
(引用:本問の地図検索システムによって提供される情報は、「自己統治」の機能に関わる情報とはいえない。)
出題の趣旨の書きぶりからすれば、
考えの相違などの余地はなく、前提として当然だというように読めます。
私の理解があまく、『急所』に書かれた考えからも自己統治として基礎づけることが無理なのか、
試験委員の先生方が自己統治を政治的価値のみと考えているのか、
頭が混乱しております。
(後者であると、今後の新司法試験では『急所』の考えが使えなくなります)
試験がらみの質問なので大変申し訳なく思いますが、
ご教授いただけると幸いです。


ララオさまより

Jiroさんのご質問に関連して、自分も出題趣旨に疑問があります。

(H23出題趣旨から抜粋)※一部改行
----
 X社はユーザーの「知る権利」侵害を理由として違憲主張できるとするのは,不適切であり,不十分でもある。
 まず,ここで「知る権利」と記すことが,「知る権利」に関する理解が不十分なものであることを示している。
 X社の提供する情報は,政治に有効に
参加するために必要な情報ではないし,政府情報等の公開が問題となっているわけでもない。
----

 気になるのは、最後の段落の部分です。
 知る権利の対象が「政治」的な情報に限定されています。
 これは、Jiroさんのご質問にあります、「自己統治の価値」を政治的なものに限定する理解と連続性がある気がします。
 
 ちなみに、このような立場では、地図検索システムは、ユーザーの知る権利に奉仕すると言う意味で、報道の自由と同様に、表現の自由で保障される、という論理は採れないことになりそうです。

 率直なところ、このような特定の立場を採用しなければならないとのメッセージに読めるのですが…

 自分は、急所128頁以下の説明に目から鱗が落ちる思いで、ちょうど考えを深めていたところにこの出題趣旨で、戸惑っています。

 差し支えなければ、木村先生のご意見をお伺いしたいです。
 よろしくお願いいたします。


さて、コメントいたします。

出題趣旨を読んだのですが、なかなか味わい深い文章です。
あれだけを読むと戸惑ってしまう、という受験者の方も多いのではないでしょうか。

全体の感想ですが、
もしあそこから外れることを一切許さない趣旨だとすると、
かなりストライクゾーンが狭く、
憲法学者一般の理解から見たとき硬直にすぎるだろう、という印象です。



まず、『急所』のあの部分の記述は、別に私の独自説ではなく、
芦部『憲法』『憲法学』の記述を敷衍している部分なので、
自己統治の価値が「政治的価値に限定される」というのが、
司法試験通説だと決めつけるのは、逆に危険かなという印象です。

で、私もいろいろ考えたのですが、
出題趣旨の論旨は、
どうも、地図検索システムの提供する情報が
政治的にも文化的にも大したものではなく、
表現の自由や知る自由の保護範囲に入ってくるのかなぁ?
みたいな問題意識を書いてほしい
というところにあるように思います。

私も、そのような問題意識は正当だと思います。
なので、安易に自己統治の価値とか言わずに、
表現の自由の趣旨から、きちんとその問題意識を表現してね
位の趣旨なのかと思いますよ。


また、仮に自己統治云々を政治的価値に限定するにしても、
地図検索システムの提供する情報が
政治的価値を有するという主張は可能です。
例えば、
国土・都市計画について有権者が判断する際に、
有益な情報である、とか、
人々の暮らしぶりを知るためにも重要、とか。

たぶん、こういう論証なら悪い点つかないんじゃないかな?
(首都大で私が情報法を教えた方も、普通に合格してたみたいだし。)


ということで、おそらく、こういう具体的な説明なしに
抽象的に「自己統治」とかというだけの答案はダメなのだ、ということかと。

もし、私や芦部先生が採点したとしても、
あの問題で、自己統治」という言葉の解釈、説明なしに、
いきなり「この情報には自己統治の価値がある」とか論証だと戸惑うと思いますし、
良い点はつけないかなーと思ったりします。

一般論として、司法試験にせよ学部試験にせよ、
憲法の採点の場合、何の具体的理由もなく
「自己統治だから」とか、「表現の自由は大切だから」という答案が大漁のようで、
そういう魚ばっかで、イライラしてくるということも多いようです。
(それで、イライラの勢いで、
 ああいう硬直的な出題趣旨の文章になったのかな、と思ったりします。)

というのが私の出題趣旨の理解です。

とにかく、あの問題についてはいろいろ考え方があり、
解答を一義的に確定することは困難だと思います。


さて、Jiroさんに

「今年の新司法試験の問題の特定地図検索システムによる情報提供は、
以上の観点(政治的価値以外の自己統治の観点)から表現の自由として
基礎づけることができると考えておりました」
とのことですが、
具体的には、地図検索システムの提供する情報は、
どのような(自己統治の)価値があるとお考えなのでしょう?
ちょっとお聞かせ下さい。

と返信したところ。


Unknown (Jiro)
2011-09-22 08:30:54
早速のご回答ありがとうございます。

私の思考過程としては、
まず、本問の情報は政治的価値から基礎づけることは少々苦しいかなと考えました。
(木村先生のような発想は、そもそも考えようともしませんでした…)
そこで、問題文に目をやると、
「不動産広告が誇大広告であるか否かを画像を見て確かめることによって
詐欺被害を未然に防止できるなど、社会的意義を有する。」
との記述がありました。
ここから、日本国内の地理状況をユーザーが立体的・視覚的に把握することで、
不動産取引等の社会的場面での適切な判断を可能にすることができるという価値を導き、
これを自己統治として考えました。
(ほとんど問題文そのままですが…)
もっとも、このような価値は、Z機能画像提供一般には一応妥当したとしても、
X社が提供した生活ぶりがうかがえるような画像については、
ただちに妥当するとは単純に言い切れないなと感じました。
というのも、不動産取引で重要なのはどのような物件であるかなので、
生活ぶりは関係がないでしょという反論が成り立つ可能性があるからです。
それゆえ、これをふまえた上で、不動産を購入等してそこに居住する人にとっては、
周辺環境がどのような状況にあるかも重要なので、
生活ぶりがうかがえるような画像についても
不動産取引等の社会的場面での適切な判断を可能にする一資料となり、
自己統治と結びつけることができると考えました。

そもそもを不動産取引に限定しているため、射程がかなり狭いですが、
問題文の事情にのっかってやるという意識でこのように思考しました。
(というか、それ以外の発想がまったく思いつかなかったというのが正直なところです。)



というコメントをいただきました。
なるほど、ありうる筋だと思います。

司法試験の答えは、一つではなく、憲法をまじめに勉強した人が
なるほどと思えば良い、説得的であればよい、といわれていますし、
実際、そうだと思います。
なので、ここは私の意見だけではなく、広くいろいろな方の意見を
聴いてみるのが良いかなと思うわけです。
(複数の答案構成ならべて投票を実施したいくらいです)

この記事をご覧の方で、実際に受験された方、答案構成をしてみたという方は
どのようなストーリーで構成したのでしょう?
ぜひぜひコメントをお寄せ下さい^-^>




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32 コメント

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Unknown (ララオ)
2011-09-22 22:20:35
ご説明ありがとうございます!

木村先生のおっしゃるような趣旨であれば、「なるほど!よし、がんばろー!」と思えます。
しかし、
>「知る権利」と記すことが,「知る権利」に関する理解が不十分なものであることを示している。
とまで書かれているので、善解するには少し引っかかりを覚えます(^^;

いずれにしても、自分としては木村先生のおっしゃるような趣旨の方がしっくりくるので、基本から考察できるよう、「急所」を片手に努力いたします。

答案構成については、自分はまだまだゴミカスレベルですが、もう一度よく考えた上で作成してみます!
返信する
答案構成 (kazoo)
2011-09-22 22:21:02
先に、出題趣旨の知る権利云々というのは、書くなら、知る自由と記述しなさい、という趣旨ではないかと思うのですが(まだきちんと読んでないのでわかりませんが…)どうでしょうか。。


試験直後に答案構成したときのみ思考過程を少し書きます。(「急所」を読む前なので、全く反映されてません。)

X社は表現の自由を主張でき、すべきものの、被告ならば、自己統治の価値の欠如故に価値が低いた審査基準はその分緩くなると反論してくると考えました。
なので、この訴訟では審査基準の前提である権利の価値をどうみるか、という点は大きく争いになると思いました。

X社はユーザーの利便性の向上や犯罪阻止等、提供している情報の価値を主張しており、これらを汲み上げて表現の自由の重要性を主張するには、表現の自由の機能を自己実現、自己統治に限定すると難しいと思いました。 そこで、表現から発せられる情報は多種多様であり、同じ情報であっても受け手によってどのような価値を認め、どのくらいの価値を見いだすのかは 受け取り手が判断すべき事柄であって(ユーザーの利便性についていえば、状況次第では自分や誰かの生命を救うこともありうるし、詐欺被害にあった人、あいそうになった人にとったら、重要性は極めて大きいことは否定できない…などなど)、自己実現、統治もそうした価値の一つにすぎず、これらに限定する必要はなく、また受け取り手によって価値の重要性は変わると思いました。そうすると、裁判所しか、そういう可能性をもった情報が、市場に流通することをせき止める行為の憲法適合性は審査できないのだから、厳格に審査するべきだ…云々と。
問題を読んだときは、自己統治は政治的価値しか意味しないと考えていましたので、Xの主張を汲み上げて構成するにはこういう構成しか思い浮かばなかったです。。。
ちょっと逃げた感がなきにしもあらずです。
返信する
>kazooさま、>ララオさま (kimkimlr)
2011-09-23 14:31:57
さっそくありがとうございます。

kazooさまの筋の議論がちゃんとかければ、
そんなにひどいことにはならないかなーと
いう気がしますねぇ。

あと、「知る権利」という言葉ですが、
これは、一般に
1 情報を受領する行為を保護範囲とする防御権
2 政府情報の公開を要求する請求権
などの総称なので、
1を「知る権利」と表現することは
別に間違いではないはず。

なんで、ああいう表現になってるんでしょうね?
また今度分析してみます。
返信する
表現の自由 (kazoo)
2011-09-23 15:15:34
てっきり、この出題趣旨書いた方は、防御権は知る自由と、請求権は(政府情報について)知る権利と、使い分けしてるのかと思いました。
確か渋谷先生の教科書だと項目で区別されていたような…

ちなみに今年の問題で改めて疑問に思ったのですが、なんで表現の自由の価値って、自己実現、自己統治の価値に限定されるんでしょう?
(ひょっとしたら教科書なんかの記述って、「少なくとも」二つの価値があるってだけで、別に他の価値があることも否定してないのかも)

二つしかないって考える理由はなんなんでしょうか。

図書館で調べたことはありますが、なるほどと思えるような文献は見つけることができませんでした。

長年疑問に思ってて解決できていません。どなたかお考えがあれば是非ともご教授いただきたいです。
返信する
>kazooさま (kimkimlr)
2011-09-23 18:41:58
なるほど。
難しい問題なので、簡単には解答できませんが、
奥平康弘『なぜ表現の自由か』
芦部信喜『憲法学Ⅲ』
それにアメリカのケースブックとか
よんでみると、いろいろ分かると思いますよ^-^>
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紹介ありがとうございます (kazoo)
2011-09-24 01:27:43
アメ‥

まず上の方から順にあたっていきたいと思います。

ご紹介ありがとうございました。

返信する
>kazooさま (kimkimlr)
2011-09-24 08:20:54
アメ・・・。

確かに、いきなり外国憲法の教科書読むのは
大変ですよね。
でも、表現の自由の箇所の「目次」だけ
眺めるだけでも結構参考になるし、
英語が苦手でも目次くらいなら簡単に
読めますよ。

参考までに、調べ方ですが、
条文は第一修正(first amendment)で
Freedom of Speechっていうのを調べるとよいです。
法科大学院図書館の中には、メジャーな
アメリカのケースブックくらいいれてる
っていう図書館も多いですし^-^>

もちろん、奥平先生の著作がこの分野の
「最初の一冊」なので、ぜひ、読んでみてください。
第一章を読むだけでも、かなり実力がつきます。

「知る権利」も、やはり、奥平先生の『知る権利』っていう本があります。
とても良い本で読みやすいので、
通学中にぱらぱらと読むにもよいかなと。

返信する
アメリカ (kazoo)
2011-09-24 13:48:40
なるほどです。

やはり母国のアメリカの議論を参考にすることはとても大事なのでしょうね。

憲法は他の科目と比べると歴史や外国の議論が解釈に直接影響してるというイメージが強いです。そういう意味で少し苦手意識があったのですが、でも議論を正確に理解せずに裁判で憲法論を振り回すのはおかしいです。
よく芦部先生の本はオススメといわれますが、きちんと理解するには、他の本と合わせてバックボーンを知りつつ行間を読まないと難しそうです。木村先生のブログを見てきてそう思いました。

少しずつでもいろいろな本を読む必要があると思いました。

ありがとうございました。
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>kazooさま (kimkimlr)
2011-09-25 13:09:19
がんばってください
返信する
答案構成 (zoo)
2011-10-06 01:56:55
初めてコメントさせて頂きます。
私は今年新司法試験を受験し、幸いに合格した者ですが、私も憲法の出題趣旨には少し戸惑っております。
私の答案構成は、大要以下の通りです。

まず、X社が表現の自由を主張する場合に、Z機能画像の提供が表現の自由の保障範囲に含まれるのかという問題意識を示した上で、私は、報道の自由に近いものとして構成しました。
つまり、受け手にとって価値ある情報であれば、それが事実の報道だろうとZ機能画像だろうと、知る権利に奉仕するものとして表現の自由の保障を受けると。
ただ、私は、原告側の主張では上記のように構成しましたが、自己の見解の部分では、知る権利はそもそも権力の監視等政治的な色合いが強い権利であって、Z機能画像のように私生活上の利便性を向上させるに過ぎない情報は、本来的な知る権利に奉仕するものではないと批判しました。その上で、仮に表現の自由の保障を受けるとしてもその程度は弱いとして、結論は合憲としました。

私は幸いに公法系はかなり点が伸びたのですが、出題趣旨を見る限り、知る権利に言及することが既に大幅な減点対象であるかのように書かれていて当惑しております。
試験委員は、自由に情報を流通させる権利を表現の自由として構成して欲しかったようですが、私はそのような自由が表現の自由として保障されるという記述を見たことがありませんし、正直それを現場で書くのはかなり勇気が要ることだと思います。

以上長文で失礼致しますが、私の答案構成と出題趣旨のズレと言いましょうか、不整合な点について感想を頂ければ幸いです。
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