【歴史戦 第3部 慰安婦・韓国との対話(3)】慰安婦も安重根も一緒くた 史実無視、中韓連携の不可解
産経ニュース 2014.6.24 11:19
ソウル市の在韓日本大使館の前に設置された少女の慰安婦像の後ろの壁には、なぜか日本の初代首相(初代韓国統監)、伊藤博文を暗殺した安重根(アンジュングン)の写真入りポスターが張られていた。
ポスターには、安が伊藤の「罪悪」と指摘した「政権を強制的に奪った罪」「教育を妨害した罪」「東アジアの平和を壊した罪」…など15項目も列挙されていた。その中には、日本では根拠のない俗説とされる「明治天皇の父、孝明天皇を殺した罪」も含まれる。
*メッセージ性重視
歴史に関わることなら、慰安婦問題も安も一緒くたにするのか。しかもそこでは、学問的な事実関係はあまり問われず、メッセージ性ばかり重視されているように思えた。
韓国民の寄付金と国家予算で、2010年10月に建て直された「安重根義士記念館」を訪ねた。入場は無料で、受付にあった日本語のパンフレットにはこう記されていた。
「記念館は、安重根義士の愛国精神と民族を愛する心そして、平和思想を広く伝え、民族間の友好と世界平和を願う場所」
もっとも実際に館内をめぐっても、ここがどう「民族間の友好」に結びつくのか理解できなかった。
展示物を見ても、やはり安による伊藤の「15の罪悪」を強調し、安が中国・ハルビン駅で伊藤を狙撃するシーンがリアルに人形で再現されている。安がその際に使用した銃「ブローニング」の複製もあった。
一方で、伊藤が実は韓国併合に慎重だったことへの言及は見当たらない。
日本から見れば「テロリスト」(官房長官の菅義偉)である安の行為を、韓国では「義挙」と呼ぶ。さらには大統領の朴槿恵(パククネ)自ら中国の国家主席、習近平に記念館の設置を要請する。
*事実追求も許さない
歴史は本来、いろいろな評価や見方ができるものだろう。だが、韓国では「日本の見方」が存在することすら理解されないようだ。
日本政府による当時の官房長官、河野洋平の談話の検証結果発表について、韓国紙、東亜日報は21日付社説で次のように書いた。
「来月の習訪韓は韓中が日本に強力な警告を送る機会にならなければならない」
歴史の多様な評価だけでなく、事実の追求すら許せないとして、中国との対日共闘を主張している。東シナ海や南シナ海で、現在進行形で膨張する中国に警戒を示さず、過去の歴史で安易に連携しようという発想が不可解だ。
*同盟国・米の不信
「歴史問題が焦点になればなるほど、韓国と中国が一つになる。これは日本にとって戦略的によくない」
国立外交院院長の尹徳敏(ユンドンミン)はこう指摘したが、事はそう単純な話だろうか。中国に接近して逆に取り込まれることは、同盟を結ぶ米国の不信を招き、韓国自身の立場を危うくはしないか。
習はハルビン駅での「安重根義士記念館」について「自ら指示した」と表明しており、明らかに歴史問題で韓国を引き寄せて利用するカードとしている。
オバマ米政権は歴史問題で日本に「韓国とうまくやってほしい」と求める一方で、過去にこだわり過ぎる韓国へのいらだちも見せている。
今回の訪問で韓国の各界の識者から話を聞いたが、全体に中国への警戒心は薄いと感じた。少なくとも、尖閣諸島(沖縄県石垣市)付近で中国の公船による領海侵犯を頻繁に受けている日本とは温度差がある。「G2(米国、中国の2大大国体制)」という言葉も何度も耳にした。
とはいえ、面と向かって中韓接近を指摘すると、誰もがそれを否定した。元韓国外務省東北アジア局長、趙世暎(チョセヨン)はこう断じた。
「韓国はそれほど中国に傾いていないと思う。韓国は歴史的に中国に対して被害意識がものすごく強い。それこそDNAの中に刻まれている」
ある政治学者にもこの話を振ったが、とたんに不快感を示した。
「中国の外相、王毅が5月に訪韓した際、『韓国は親類みたいなものだ』と言ったが、どういう意味か。気分が悪い。朝鮮日報に中国の当局者が韓国側に『朝貢外交に戻ったらどうか』と言ったと書いてあったが本当か。中国は時折、こうした韓国を見下した態度を取るから信用できない」
日韓関係は中国という要素を抜きには語れない。
かつて日本には、就任後初の日中韓首脳会談で「東アジア共同体構想」という意味不明のアイデアを提唱した首相がいた。それに対し、当時の韓国大統領、李明博(イミョンバク)は控えめに「いろんな問題が解決されなければならないので、時間が少しかかるかもしれない」と述べたが、本当はあきれていたことだろう。(敬称略)
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