付け焼き刃の覚え書き

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「信長新記(1)」 佐藤大輔

2012-03-12 | 架空戦記・仮想戦史
 16世紀には早くもテューダー朝イングランドが世界帝国への第一歩を踏み出していたが、それに対抗しうる勢力が地球の反対側の島国に存在した。いまだ国家統一を成し遂げていない日本の1勢力に過ぎない織田家である。
 当時の織田家は世界でも有数の経済力を持ち、全西欧のそれを上回る20万人の常備兵力を保有し、その3割は火力装備という世界最強水準にあった。
 しかしそれも先進的な指導者に率いられていてのこと。
 そして、天正10年6月2日未明。その織田信長は、京都四条西洞院・本能寺にて、謀反した明智光秀の軍勢に包囲されていた……。

 佐藤大輔作品の中でわたしが一番好きなシリーズで……もちろん未完。
 未完なのに、タイトルを変え、出版社を変え、何度も刊行されてきたのは、やはり面白くてファンが多かったからだと思います。魅力的な戦国武将は数あれど、歴史のifを考えた場合、いちばん面白いのは織田信長ではないでしょうか。

『こうして、誰もはっきりと口に出せない問題は、誰も口に出さないうちに決められてしまったのである』
……と、腹芸も腹芸。いかにも日本的な羽柴軍の先鋒決定のプロセス。

 織田信長が生き残ってしまったことで変わった歴史を、未来から軍事史研究の視点で振り返りながら綴るという形式。田中芳樹の『銀河英雄伝説』における“後世の歴史家が語る”ってのと同じです。なので、「オーダー・オブ・バトル」「ライヘンバッハ・プラン」とか「ロジスティックス」とか戦国小説には馴染みのない用語がばんばん出ますし、冒頭で日本とイングランドが数世紀にわたって世界の覇権を争う関係になるとはっきり書かれてます。オチが最初に来ちゃったよ!?
 そういうわけで、山岡荘八の歴史小説に親しんだような人が「仮想歴史小説とかいうものを読んでやろう」くらいのつもりで読むとぶっ飛んで、悪口三昧になっちゃう気がします。
 さて、歴史改変ものの醍醐味は、周知の歴史イベントがどのように変わるかという点にあると思います。けれども、信長による壮絶な小田原城攻めとか、佐々成政の凶悪な漸進射撃とか、そういう個々のイベントだけではなく、その変化した結果がさらに未来での変化を促すという変化の連鎖も巧いところです。

『(柴田中央軍の突撃を)「おそらく日本史上最大の歩兵突撃」と記した。
 なぜかと言えば、この関ヶ原以後、日本人は歩兵突撃に徹底的な不信感を抱くようになってしまうからだ。』

 装甲偏重になってしまった日本軍って、見てみたい。

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