付け焼き刃の覚え書き

 本や映画についての感想とかゲームの覚え書きとかあれこれ。(無記名コメントはご遠慮ください)

「まおゆう魔王勇者2」 橙乃ままれ

2011-02-28 | ヒロイックファンタジー・ハイファンタジー
「目の前の相手がどんな思惑を持っているかわからないのに、無防備な腹をさらすのは、善良なのじゃなくて、ただ頭が温かいだけだ」
 東の砦将の言葉。

 自分を倒しに来た勇者を説得し、黒騎士と兼務にしてしまった魔王。けれども他の魔族は勇者ほど甘くなく、人間と魔族の融和どころか本格的な開戦に向けて一直線。
 一方、人間界では魔王の力によって食糧事情が改善し教育水準も上がってきた南部諸国と中央との対立が激化し、人間同士の戦いが始まっていた……。

 異世界の知識を手に入れた魔王が、それを使って人間や魔族を啓蒙して世直しをしていこうという、一種の歴史改変ものみたいな雰囲気の作品。どちらかというと異世界を舞台にした『アーサー王宮廷のヤンキー』になりつつありますので、そういう「すべてご破算」みたいな話にならないことを祈ります。
 戦争あり、仕手戦あり、温泉できゃっきゃうふふありの2巻ですが、ファンタジー小説として読んだり売ったりするよりも、『もしドラ』みたいに、気楽に読める政治・軍事・経済の入門書と思った方が良い気がします。

 さて、「SF界の重鎮ふたり」による対談といって、新城カズマと笹本祐一の名前が続くあたりに時代を感じます。どちらも好きな作家ですけれど、私の感覚で「SF界の重鎮ふたり」だと絶対、小松左京と筒井康隆ですもん。

【まおゆう魔王勇者2】【忽鄰塔(クリルタイ)の陰謀】【橙乃ままれ】【toi8】【水玉螢乃丞】【戯曲小説】【桝田省治】【新城カズマ】【笹本祐一】【古城民宿“まおー荘”】【先物取引】【塹壕】【塩】【ごきげん殺人事件】【銀行】【温泉】【コンビ結成】【WEB小説】
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「死神姫の再婚」 小野上明夜

2011-02-27 | ヒロイックファンタジー・ハイファンタジー
「あなたが成り上がりでお金と地位しかない方で良かったわ。だっておっしゃる通り、うちにはもう名誉と歴史しかありませんもの」
 お買い上げありがとうございましたと、金で買われた花嫁アリシア・フェイトリン。

 没落貴族の一人娘アリシアは、政略結婚の式の当日に未亡人となった。出戻って、ついた二つ名が「死神姫」。
 そのアリシアに悪名高い《強》公爵ライセンとの再婚話が持ち上がり、あれよあれよという間に話が進み、瞬きする間に結婚式も済んだのだが、新居となったカシュヴァーン・ライセンの館は、暗く陰鬱で化け物の出そうな邸宅だった……

で、お金と怪談に眼のない天然系ヒロインは大喜び。既に既刊10冊以上という人気シリーズに今頃手をつけてみたり。
 芥川賞作家の朝吹真理子はラブクラフトの『インスマウスの影』を「湿気った夜に読むと最高」と評したそうだけれど、同じような言葉をこの作品のヒロインが熱っぽく語っていてひとり受け。
 話としては、いわゆる「美女と野獣」ものなんだけれど、天然系で働き者の守銭奴で血生臭い話題になると活き活きとしてくるヒロインってのも、いいもんだなあ。最近では文学少女見習いがこのパターンだけれど、この手の「普通の少女が苦手なものによって活性化するヒロイン」って、どこまで遡れるのだろう……。

【死神姫の再婚】【小野上明夜】【岸田メル】【メガネっ子】【聖職者】
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「惑星さんぽ」 toi8 

2011-02-26 | 宇宙・スペースオペラ
 この方の絵を初めて意識したのは清水マリコの『嘘つきは妹にしておく』からで、それ以来目にする度に手にするようにしていたのだけれど、そのコミック作品集ということでワクワクしながら入手。
 テラフォーミング過程で全滅したステーションの生き残りの物語とか、壮絶な森のクマさんとか、いろいろなSFやファンタジーのコミック9編にもピンナップイラストとかラフスケッチとかあれこれ。『うる星やつら』などをモチーフにしたリスペクト作品も何編かあったので、高橋留美子というか押井守が好きなんだねと思いましたが、考えてみればアレに影響を受けていないクリエイターなどいないのかもしれません。

【惑星さんぽ】【toi8】【GELATIN】【弁財天】【こびとの靴屋】【巨人】
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「ワイルド7」 望月三起也

2011-02-25 | 冒険小説・旅行記・秘境探検
 私らの世代あたりまでは説明不要のアクション・コミックの金字塔。ひとことでいえば「悪党を(逮捕ではなく)退治する警察の話」。
 初めて読んだのは小学校の1年生くらいの頃。家の改築工事で来ていた職人さんたちが、この第1部総集編を読み捨てていったのを読んだのでした。

 毒をもって毒を制す、悪党をもって悪党を制す。調書捏造とか自白強要が明るみに出ている今のご時世からみれば、とんでもない話ではありますが、裁判で通用する証拠がないために明らかな極悪人をのさばらせておくくらいなら、いっそ消してしまえと言い出したのが、末は警視総監かと将来を嘱望されていた若きエリート草波勝。
 そんな危ないことを言い出して、出世街道から消えてしまった草波が、いつの間にかヤクザやらテロリストやらから手駒に出来そうな悪党を集めてしまい、こっそりワイルド7などという超法規的警察機関を作り出してしまったのでした。
 どいつもこいつも一騎当千の悪党ながら、そのメンバーの階級は(これより上の階級は警視監と警視総監だけという)警視長。全員が白バイ警官ながら、そのバイクはバックもできるし、ロケットランチャーは装備しているし……という言語道断の組織だった……。

 草波司令がいちばんの悪党というのは衆目の一致するところ。採用テストで候補者を殺しまくるし、部下を平気で使い捨てるし、本シリーズ最終回に至っては真夏に雪が降って終わりというひどいエンディング。
 さすが草波
 おれたちにできないことを平然とやってのけるッ
 そこにシビれる!あこがれるゥ!
……って、ところでしょうか。

【ワイルド7】【望月三起也】【少年キング】
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「青春ラリアット!!」 蝉川タカマル

2011-02-25 | 学園小説(不思議や超科学なし)
「つい、カッとなってやりました。反省はしていません」
 腹黒で裏表の差が激しいヒロイン・長瀬瑞希の言葉。

 レスラーばりのマイクコールで全校生徒の前で公開告白をしたあげく失恋してしまった月島薫は、そのまま停学処分に。
 そんな月島を見舞おうと向かった、友人の宮本圭太をつける影があった。月島に恋する美少女、長瀬であった……。

 特に思い当たる作品はないけれど、ストーリー的にはララデラとかプリンセスとかの少女マンガにあっても不思議がないような一編。基本は恋愛と友情の小説で、アンドリュー三上なんてキャラが引用されてしまって一部プロレス小説。
 ただ、『はたらく魔王さま!』の評価が高かったのと同じ理由で、この作品の評価は辛め。わざとではないとしても他人に迷惑をかけたときは謝り、なにかしてもらったら御礼をいう、こういうあたりまえのことを登場人物たちができない作品は読んでいてストレスが溜まるのです。ドタバタした感じでノリもいいので、気にならない人はならないでしょうけど、あれだけあからさまに悪口を言われ、迷惑をかけられ、わびのひとつもないのに、言われるがままにつきあうというのは、よほどの聖人君子でもなければキャラクターに説得力がありません。
 出番どころかセリフの1つもない陰の小学生ヒロイン、都子ちゃんが良い感じです。“郷里の姉ちゃん”と同じで、出番がなければ無いだけ萌えるタイプです。

【青春ラリアット!!】【蝉川タカマル】【すみ兵】【アントニオ猪木】【三角関係】【ヤのつく自由業】【大食い対決】【信じすぎ】
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「人類は衰退しました(6)」 田中ロミオ

2011-02-24 | 破滅SF・侵略・新世界
「日常会話で神を引き合いに出す人間は、たいてい精神の安定を損なっているものです」

 すっかり衰退してしまい、高度な科学知識もそれを裏付ける確かな技術も失ってさえ、人類には捨てきれない夢がありました。大空を自由に飛びたいという浪漫です。
 そんな夢追い人たちの祭典、鳥人類コンテストが開催されることになり、国連調停官である“わたし”はそのスタッフとして徴用されます。しかし、参加チームの飛行機械は人力飛行機から大砲まで、搭乗者が生還できそうなものは1つも見当たらず……。

 人類は衰退しましたというより痴呆化しました……といった感じのダメ人間コンテスト篇「妖精さんたちも、すかいはい」と、失われた文化が発掘されて拡散浸透していくサブカルチャー篇「妖精さんたちの、さぶかる」の二本立てです。 
 やや薄めですが、もともとマンガ化するなら絶対に藤子不二雄で!とひそかに思っていたくらいですから、これくらいの長さの方が良いと思います。

【人類は衰退しました】【田中ロミオ】【山崎透】【こんにゃくゼリー】【腐女子】【同類誌即売会】【キューブ】
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「ブックストアでくちづけを」 リシェル・ミード

2011-02-23 | 本屋・図書館・愛書家
 実は現代社会の片隅には伝説の怪物や悪魔たちがひっそり潜んでいて、サキュバスのおねえちゃんは本屋の店員をしているんだ!というパラノーマル・ロマンスの第2弾

「綱が切れない限り、またいつでもやり直せるさ」
 綱渡りのような事に手を出して、それで失敗して落ちたとしても、またやり直せるとカーターの言葉。 

 前作が出てそんなに経っていないし、表紙イラストは使い回しみたいなものなので、うっかりしていたら見過ごすとこだったし、もし見過ごしたら普段買わないレーベルだから何年も気づかなかったような気がします。

 今回はオーナーは休暇、マネージャーは体調不良により欠勤という上司不在の状況で、ブックストアはてんやわんや。しかもサキュバスとしての使命も上司のデーモンに与えられる一方で、なにやら人の能力を驚異的に向上させるクスリが流行りだし、そんなこんなでジョージナと人気作家セスとの関係が微妙になってしまい……。

 保守的な政治運動が絡んできたり、天国と地獄のシステムから外れた異教の神が介入してきたり、人気作家のサイン会がダブルブッキングしていたり(これがいちばん重要)と巻き起こるトラブルの嵐に、いかにジョージナが立ち向かうかという、働く女性のサクセス・ストーリー+ラブロマンス+ファンタジーな一篇。
 あいかわらず濡れ場はしっかり書き込んでいるので、学生にはお勧めできませぬ。私が読んでるようなハーレクインよりは描写が直接的で比喩表現は少なめ。キスしただけで相手の寿命を何年分かすり減らしてしまうというサキュバスが、ただの人間と相思相愛になってしまったとき、プラトニック・ラブだけで乗り切れるかという大命題に挑んだ話でもあります。

【ブックストアは危険がいっぱい】【ジョージナ・キンケイド】【リシェル・ミード】【サイン会】【テトリス】【知的財産】【写真撮影】【ソーマ】【同性愛】
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「じゃがいもが世界を救った」 ラリー・ザッカーマン

2011-02-22 | 食・料理
「それは人間を怠惰にする」
 主義主張の異なるトレヴァリンとコベットの共通意見。
 果たして貧乏は、怠惰や不品行の結果なのだろうか。

 15世紀、スペイン人によってヨーロッパにもたらされたジャガイモ。
 面積当たりの収穫は小麦よりも遙かに良く、気温が低かったり土地が痩せていても短期間で栽培可能。しかも炭水化物はもちろん、ビタミンCやカリウムから10数種類のビタミンまで豊富な栄養素を含んでいて、それだけを食べ続けても生きていけるくらいの栄養価があるのだとか。
 ところで、「種の多様性」という言葉があるのだけれど、いくら高性能でも同じものばかりだと、何か問題が起きたら全滅してしまう。機械だってそうだし、SF作品でクローンが否定される理由の1つでもあるのだけれど、同じことがジャガイモでも起こります。
 1845年にアイルランドのジャガイモが胴枯病にかかり全滅してしまうのです。そしてアイルランドの農民はジャガイモしか食べるものがなかったのですから、瞬く間に飢餓が全土に広まります。飢餓を防ぐはずの作物が飢餓の原因となったという例。
 それがアイルランド系移民が北米に多くなった理由ですし、アイルランドの独立運動が一気に拡大した根幹の原因でもあります。

 産業革命から新大陸開拓まで、そんな歴史に影響を与えてきたジャガイモのエピソードの数々についてまとめた1冊。とはいえ、大半はアイルランドにジャガイモがいかに普及し、人口が増加し、そして一気に貧困と飢餓の時代へ突入したか。合間合間にナポレオン時代のジャガイモ普及とか、フィッシュ&チップと支持政党の差などなど。

【じゃがいもが世界を救った】【ポテトの文化史】【ラリー・ザッカーマン】【精力剤】【コネイカ】【ナポレオン時代】
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「シュレディンガーの猫耳少女」 村田治

2011-02-21 | 日常の不思議・エブリデイ・マジック
「住んでた家がなぜかいきなり消滅してて、なんだかんだあって奇妙な寄宿舎に住むことになって、そこでぶっきらぼうな美少女と仲良くなったとか」
 海外からの留学生イープル・メーテルリンクがひとことでまとめた、物語導入部のあらすじ。

 ヒロインが世界の運命を左右する能力を持っていて、主人公の少年がそのヒロインを左右するという、セカイ系猫耳ラブコメ。
 自分としてはタイトルだけで評価2割増。通し番号は振ってないけれど、いかにもまだまだ続きますというスタイルで幕。続きが出たら、読んでみたいと思います。

【シュレディンガーの猫耳少女】【村田治】【わざきた】【量子的ラブコメ】【ネズミ】【猫耳少女】
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「2ほうそうぶ」 宮沢周

2011-02-20 | 学園小説(不思議や超科学あり)
「探偵ごっこはもう少しまともにやれよな」

 学校に出没する兎レポーターは、教師や生徒の悪行を暴いては動画サイトで告発していく謎の覆面レポーター。その正体を見極めんと転校してきた皇沙門は、名探偵をめざす高校2年。父親は伝説の名探偵だ。
 その沙門が放送部の部長代理である筮野水藻と手を組んだ。水藻は兎レポーターの正体ではないかと疑われており、アリバイ作りの証人として部外者を必要としていたのだ……。

 85頁くらいで実は全部父親の仕込みじゃないの?と疑い、120頁くらいでもしかしてけっこう仮面ネタでないのかと思い、さて最終的にどうなったかというと……。

 大金持ちだけど庶民派で、すぐ舌を噛む星群生徒会長が良いキャラです。他の女子キャラもみんな良いキャラですね。終盤のなんでもありのドタバタも自分的にはOK。ただ、主人公の性格だけはいかがなものか。
 呪いがかかって本音しか口に出せなくなった変態王子ですら困ったキャラ扱いされているのに、呪いもかかっていないのに思ったことを口から垂れ流す主人公は、とても美少女ヒロインが群がるようなイイオトコには思えません。そのあたりは残念。
 それから帯であおるほど「放送コードギリギリ」というわけでもありませんでした。

【ほうそうぶ】【Housoubu no Jijo】【宮沢周】【山×2】【名探偵】【カレーライス】【四畳半下宿】【忍者】【ロボット】
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「魔法の誓約」 マーセデス・ラッキー

2011-02-19 | ヒロイックファンタジー・ハイファンタジー
「自分の暖炉の火を失ったからといって、ぬくもりをさしだしてくれる友人たちの暖炉で身体を温めることができないわけじゃない」
 <月の踊り>の言葉。

 隣国カースとの激しい戦いは続いている。
 女王エルスペスも死去しており、多くの者が斃れ、<魔法使者>も4年間の戦いでその数を半数に減らしている。
 ヴァルデマール最強の<魔法使者>であるヴァニエルも、他の<魔法使者>が戦線離脱している間、5人で担当するべき戦域を1人で支えていたが、それも限界だった。しかし、選択の余地は彼には与えられていなかった……。

 いきなりカースとの戦争で死屍累々となっていて困惑。そういえば、直前に刊行されていたのはカースとの停戦直後の話である「ヴァルデマールの嵐1」でしたが、その前に刊行されていたのは「最後の魔法使者1」でした。同じ世界を舞台にした、同じ作者の、けれど時代がちょいと異なる長編シリーズが複数の訳者で代わる代わる刊行されると、ついていく方は大変です。あと、このシリーズは男×男でも女×女でも、どんなカップリングもありなので、ときどき辛かったりして、ああ、自分にはBL耐性がないのだなと再確認してみたり……。

【魔法の誓約】【最後の魔法使者2】【ヴァルデマール年代記】【マーセデス・ラッキー】【末弥純】【要石】【間諜司祭】
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「ヘルカム!」 八奈川景晶

2011-02-18 | 学園小説(不思議や超科学あり)
 第22回ファンタジア大賞の「読者賞」、つまり一般審査員ではなく読者選考委員の評価が高かった作品なんだそうです。
 その読者選考委員のコメントの抜粋を読めば「主人公が好き」「主人公もヒロインもとにかく個性的」とあるので、さてこれだけ支持されるキャラクターとはどんなものかと読み始めました。

「あの……地獄って、ステキだと思いませんか?」
 現ナマをジュラルミンケースに詰め込み、街角で通行人に声をかけて回る美少女は、人手不足となった地獄から派遣された広報委員だった。
 天国とか地獄というのは、単に死んでから行く“あの世”に過ぎず、生前の善悪とかカルマとかそんな宗教的な基準は関係ないらしい。天国が素晴らしいところで、地獄は恐ろしいところだというのは、天国側の宣伝工作にすぎないというのだが……。

 「超破天荒ラブコメ」と謳ってるけれど、まだラブコメになってません。人間関係がどうこういうところまで話が来ていないのですね。主人公についてもプロローグ止まり。
 人と同じことはやりたがらない、“普通”は大嫌いという主人公ですが、その普通と違うことというのが、50mを6秒きっかりで走るとか、テストの点数をそろえてみるとか、だから何?という奇をてらったことばかり。
 他の誰にもできないことに挑戦しようとするのではなく、誰でもできるけどわざわざやろうとしないことしかやろうとしていません。最初から試しもしないで自分の限界を見極めたつもりになって、その枠の中で「普通はイヤだ」とひねているのは、本人からすれば自己表現というか自我の主張なんだろうし、そういう等身大の主人公だから読者に支持されるのかもしれません。でも、大人の視点から見れば甘えだし、親の視点としては悲しい。
 ただ、この話の最後になって、やっと「他の誰もやったことがなく、できるかどうか誰にもわからない」ことに主人公が挑もうと動き出します。ストーリー的にもプロローグ止まりで終わってしまったなあと思いましたが、ここからに期待です。自分しかできない、他の誰もやったことのないことに挑戦してこその主人公ですから。

【ヘルカム!】【地獄って、ステキだと思いませんか?】【八奈川景晶】【ななせめるち】【アニソン】【カラオケ】【同好会】【スラップスティック】
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「ダンタリアンの書架6」 三雲岳斗

2011-02-17 | 本屋・図書館・愛書家
「どんな記憶だろうと、夢は夢だ」
 焚書官ハルの言葉。

 不死身の殺し屋、呪いの館、海魔などが登場する4短編に、断章2編で構成された短編集。
 嵐の山荘っぽい話があれば、洋上で連続する謎の殺人ありで、今回もなかなかパリエーション豊富。焚書官とのすれ違いも1枚の絵の裏表になっていて一興。

【ダンタリアンの書庫】【三雲岳斗】【Gユウスケ】【スキュラ】【幽霊屋敷】【追従者】【人魚姫】
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「食の達人たち」 野地秩嘉

2011-02-16 | 食・料理
「答えは自分で見つけろ。手を動かすと安心する。まず頭を使え」
 香港の新志記飯店のタンさんの言葉。

 田舎蕎麦から中華料理まで、美味しいお店の楽屋裏を覗いて語る18編のノンフィクション。意地を張り続けた男もいれば人に頼ることだけで生き延びた店もあるし、老舗もあれば数年前に開店したばかりの店もあるけれど、それぞれに師弟の交わりが背景にあったり、親子の絆で保たれていたりして、結局、そこにいるのは人間です。人間がつくって、人間が食べる。
 その千差万別な人の生き方を活き活きと描き出しているノンフィクション集で、ひとことでまとめるなら「何でもいいから、おいしければそれでいいんだ」という話でした。

【食の達人たち】【フードストーリー】【野地秩嘉】【BRIO】【カウンター割烹】【食堂】【フレンチ】【寿司】【ふぐ屋】
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「蒼林堂古書店へようこそ」 乾くるみ

2011-02-15 | 本屋・図書館・愛書家
 古書店の話なのに、表紙の写真は図書館だよね(細かいとこが気になるやつ)。

 蒼林堂はミステリ専門の古書店。店の奥に設けられたカウンター席でコーヒーを呑むこともできるのが特色で、常連客が集まってはミステリ話に花を咲かせるのだが……。

 古書店常連の雑談をメインにした「日常の謎」系の連作短編集で、書評家でもある店主が雑誌「本とも」に連載しているというミステリガイドが幕間に挟まってくる構成。
 あくまで雑談ベースなので、謎も「居酒屋で居合わせた団体客の正体は」とか「冷蔵庫のメモには何と書かれていたか」とかだったりするし、解いた謎が本当に正解かどうかはっきりしないものも多いし、第1話の謎解きあたりは反則すれすれ。そんな軽いミステリ連作集だけれども、全部通して読むと最後にのろけオチがつくという1冊。

【蒼林堂古書店へようこそ】【ミステリ・デイズ】【乾くるみ】【モンブラン】【ローカリティ】【ググれ】【猫】【百人一首】【千原しのぶ】
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