毎日新聞2024/5/13 東京夕刊 有料記事 909文字
河鍋暁斎「武四郎涅槃図」(1886年、松浦武四郎記念館蔵)の部分。横たわる武四郎(中央)と嘆き悲しむ愛玩品たち=静嘉堂文庫美術館で2024年4月12日午後1時50分、高橋咲子撮影
幕末から明治にかけて活躍した画家、河鍋暁斎(1831~89年)と、探検家で北海道の名づけ親でもある松浦武四郎(18~88年)。この2人と聞けば、興味をそそられる。異色作「武四郎涅槃(ねはん)図」(86年、松浦武四郎記念館蔵)が2人をつなぐだけでなく、武四郎は本展「画鬼河鍋暁斎×鬼才松浦武四郎」を開催した静嘉堂文庫美術館(東京・丸の内)とも浅からぬ縁があるという。
武四郎はかつての伊勢国の生まれ。自ら、そして幕府の命で蝦夷(えぞ)地調査を重ね、アイヌの文化を書き残した人だ。少年のころから古銭収集に熱を傾けるなど、好事家ぶりを発揮していたが、開拓判官の職を辞した後はいっそう拍車がかかる。
暁斎に5年間かけて描かせたという「武四郎涅槃図」を見ればそれがよく分かる。中央に横たわるのは、入滅した釈迦(しゃか)に見立てた自身。玉でつくった大首飾りを着け、居眠りをしているような普段着姿だ。もっと面白いのは、周囲に描かれる武四郎愛玩の品々。手のひらサイズの小さな像や、掛け軸から飛び出た手長猿や羅漢、かわいがっていた犬猫まで。その様子は現世で見るファンタジーのようで、お気に入りのものに囲まれた自分を見て、このうえない幸せを感じただろう。
武四郎は何度も描き直しを求め、・・・・・・
6月9日まで。【高橋咲子】