くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「江戸しぐさの正体」

2015-09-26 20:54:47 | 書評・ブックガイド
 石原千秋「生き延びるための作文教室」を読んでいたらこんなくだりが。

  「江戸時代は心が豊かでよかった」みたいなことを言う人もいるが、差別が身分制度として制度化されていた江戸時代のどこがいいのか。

 理想の江戸を「一部の保守的な現代人がイメージしている」と考察されているこの事例、もしかしたら「江戸しぐさ」じゃないですか?
 石原先生、間違っていたらごめんなさい。そのくらい、わたしにとって「江戸しぐさの正体 教育をむしばむ偽りの伝統」(星海社新書)がおもしろかったんです。
 著者は「偽書」の考察に定評がある原田実さん。
 道徳の教科書にも載っている「江戸しぐさ」。いかにも江戸時代にマナーとして行われていたものだとして、「傘かしげ」「肩引き」「こぶし腰浮かせ」などが紹介されていますが、この時代の主流は和傘ではなく簑と笠のはず。(傘は贅沢品)
 「江戸しぐさ」は秘伝だったといいながら、戦前の小学校では雨の日などに「蟹歩き」の練習をしていたという記載もあり、矛盾している。
 検証していくうちに一九八〇年代に芝三光という人物が生み出し、その後越川禮子らによって広められたことがわかります。
 つまり、江戸時代にはなかった考えをあたかも史実のように伝えていることから「偽書」と認定。そのような嘘を教育に持ち込んではならないという主張です。

 以前、「江戸しぐさ」についての本の読書感想文を読んだことがあります。
 でも、ずっと紹介と賛美することだけで「感想文」ではないと思いました。ただ、これは県の審査会だったので……この作品、地区大会を抜けてきたのですよ。推した先生もこの行動を道徳的に感銘を受けたんですかね。
 原田さんが、「江戸しぐさ」をバックアップする教師集団としてあげている研究会は、わたしも何冊か著作を読んでいます。いろいろな考えの教員がいるから、これを道徳の授業にいかせると考える方もいるでしょう。

 さて、実際どのように教材化されているのか。調べたら二社ほど見つかりました。片方は「礼儀」、もう一方は「公徳心」の項目で載っています。どちらも越川禮子の文章からとったもので、「江戸しぐさ」をめぐってのエピソードを紹介して考えさせる展開。江戸しぐさを教えてくれた父への感謝。そして、ロンドン在住の友人が「江戸しぐさ」が残っているのは、今や東京ではなくイギリスだと嘆くという文章です。
 でも、ロンドンの人たちが実践しているのは「江戸しぐさ」ではないでしょう……。行動としては同一かもしれませんが、彼らはそのように捉えているとは思えません。無理やり結びつけるのは詭弁だと思うのです。
 不思議ですよねぇ。
 ついでに子どもでも「江戸しぐさ」の意識があったとして「稚児」という言葉を使うのもどうかと。(意味は「乳児」「寺に仕える子ども」ですよね)
 マナー向上を目指しているにしては、なんだか胡散臭く感じません?

最新の画像もっと見る

コメントを投稿