くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「遠い山脈」杉みき子

2013-06-10 04:48:10 | YA・児童書
 先生、ここがわかりません! この新聞少年は、なぜ朝から遠回りして「かなり深い崖の中腹」にある「小さな広場」に上ってくるのですか? 片側は草木の繁茂した山の斜面、もう片側は田畑、村落、国境の山脈が見えるような坂を越えて、新聞を配達するような民家があるとは思えないのですが。
 しかも、「慣れてはいても、新聞配達の仕事はけっこうくたびれる」といいながら、「この坂をのぼりきった所で、山を見ながらひと休み」するのが「日課」って、のぼるのによっぽど疲れませんかね。
 「今日から新しく配達する得意先」があるわけだから、このあとも配達は続きます。
 いやいや、もしかしたら、崖を越えてやっぱり配達区域があるのかも、と思いきや、老人とのやりとりのあとには「少年はうなずいて、町の方へかけ出していった」のです!
 町って、あの眼下に広がる「田畑と村落」ですよね? ってことは、やっぱりわざわざ上ってきているのですよね。
 さらには、「明くる朝、早めに家を出た少年が、ひととおりの配達を済ませて坂の上に出ると」とあるから、その気になれば休憩しなくても老人が指定したくらい(「ちょっと早く来て」)には仕事を終えることができるのです。わたしだったらそんな坂に寄り道しないでさっさと配って家に帰りますよ。
 と思うんですが、教科書は何か省略しているんですか? 杉みき子「遠い山脈」。去年教科書が切り替わって新しく入った題材なんですけど、わたしはこの不自然さが気になってどう授業をしたらいいやらイメージがわきません。指導書開いてみたけどそんなこと一言もないし。
 部活の練習会で会った国語科の先生に聞いてみたら、
「それ、なんかの研究会でみたけど、触れてもいなかった。俺も気になってたんです」
 と言われて、皆さんどんな授業をしているのか知りたいと思いましたよ。
 わたしもね、一読したときは、「さんちき」と絡めて自分が誰かから受け継いだものについて考えさせようと思ったんですよ。話し合い活動にまとめて。実際シラバスにはそう書いたんです。でも、なんか違う。
「結局、白い峰を見た感動を描くための作為的な舞台設定なのでは?」
 という結論に達したのですが。
 ここで遅ればせながら作品の概要を紹介しますね。登場人物は「少年」と「老人」。ときどきこの崖の中腹にある公園で顔を合わせます。少年は新聞配達をしているのですが、ある日、老人と少し話をする機会がありました。
「あした、ちょっと早く来て、付き合ってもらえないかな。君に見せたいものがあるんだよ」
 翌朝、老人は山の斜面をずんずんのぼり、「茂った木々の間を、迷路でもくぐるように慎重に選んで通り抜け」て、岩陰に到着します。
 そこから見えたのは、「遠い山脈の、山と山との間から、今まで見たこともなかった一つの峰が、真っ白な雪を頂いた美しい姿」でした。その場所からしか見えないのだそうです。
 さらに次の日、少年は一人その場所を訪れ、老人から自分に引き継がれたことを感じるのでした。
 「」の引用は伏線です。なぜ、「あした」なのか。今日これからでは朝日に輝く峰を見ることができませんからね。それから、かつて新聞配達をしていた頃に、怒りのためにぐるぐると歩きまわったのであろう姿を彷彿とさせます。
 実はわたしには、もうひとつ疑問があるんです。
 どうして、タイトルは「遠い山脈」なんでしょうか。このあらすじなら、老人に伝えられた白い峰の方だと思うんですけど。
 とりあえず自分なりに納得できそうな答えとしては、「少年は朝どんなに忙しくても山を見ずにはいられないほどの山好き」。本文に「山を見ながらひと休み」って、書いてあるし
……。
 山が好きそうな子じゃなかったら、さすがに老人も自分のとっておきを知らせたりしないでしょうから。「遠い山脈」は、もともと彼が好きな山なんでしょう。その向こうに、新たな美しい山が隠されている。
 うーん、でもやっぱり、この峰は山脈の一部ではないように思えるのですが……。
 あぁ、でも普通はこういう些末なことは気にしないものなんでしょうか。それとも、配達の途中で遠回りするのは、よくあること?
 少年はさぼっている、という結論でもいいんでしょうか?



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