今回はふくおか森づくりネットワークが主催した「森の講座 私たちの森は今」という3回シリーズの講座の3回目です。多田館長の講演の演題は「ゆりかごからはじまる生涯”木育”」でした。
会場のあいれふの講堂の入り口に木のおもちゃが並べられて、参加者が触れるようになっていました。木のおもちゃはシンプルでかわいらしく、手触りが柔らかな感じで木の匂いが新鮮でした。
町や市などの自治体の名前が書かれたカードがありましたが、これらのおもちゃのほとんどは、その自治体で生まれた赤ちゃんに自治体からの贈り物として贈られるおもちゃです。その話は後で多田さんの講演の中にでてきました。
まずは主催者のふくおか森づくりネットワークさんのご挨拶がありました。
いよいよ「ウッドスタートで社会を変える」というタイトルで多田さんの講演開始されました。講演を全部紹介したいくらいの充実した内容だったのですが、僕なりの解釈で受け取ったことをご紹介します。
東京おもちゃ美術館 http://www.goodtoy.org/ttm/
お年寄りや赤ちゃんそして赤ちゃんの親世代をつなぐことがしたかった。 多世代交流の場としてのおもちゃ美術館
多田さんが最初に語られたのは、ご自分の専門研究の分野がまず福祉文化論だったので高齢者福祉と木育をどうマッチングしていくかということをずっと考えてこられたそうです。つまり子どもとお年寄りをつなぐことにはどうしたらよいかという問題の解決策のひとつの形がおもちゃ美術館だったようです。この美術館の構想がなかなか伝わらないので場所の確保が難しかったが、東京おもちゃ美術館ができて、年間2万人の来場者があると、官公庁、自治体から見学に来られたり、幼稚園、保育所の経営者、各種の学校や、マンション建設などの建築や不動産の企業、一般の企業と「木育」に関心が広がり始めているとのこと。
日本の宝「杉」の効用の再認識と、今がまさに日本の杉を活かす時代に来ていること
日本杉の世界での学術名が「クリプトマリアジャポニカ」というらしいのですが、その意味が「隠された日本の宝」という意味だそうです。海外の人がそういうふうに認識した、杉材の効用として次のことを挙げられていました。(多田さんの講演の中から特徴的なものを僕がピックアップしてます)
●暖かく柔らかい 杉材は触感が冷たくなく、柔らかいので加工しやすい。
●木目が美しい 天然のデザインがなされた材である
●持続可能性がある 手入れがしやすく、交換もしやすい
●利用に適した杉が日本中に大量にあり安価である。
●杉に通じた日本の大工や木工職人が日本中にいる。
以上の特性からそして、宮大工さんや匠の職人にヒヤリングしておもちゃ美術館の床材は杉材にしたそうです。そして一番それを喜んでいるのは赤ちゃんだろうとおっしゃっていました。まず赤ちゃんが床の上で泣かない。ハイハイしたがる。ということに気づかれたそうです。赤ちゃんが居心地がよければ、大人にも居心地がいいわけです。ある宮大工の方の助言で床材を厚さ3cm以上にしたので、冬でも床暖房をしなくても、赤ちゃんが動き回っているすです。また、メンテナンスでボランティアのお母さんたちにお手伝い願っているらしいのですが、お母さん一人に1平方メートルを担当していただいて、拭き掃除と磨くことで大体Okで、ひどい汚れが紙ヤスリで削って磨いて終わりだそうです。
今まで林野庁が言っていた「杉が余っているから杉を使おう」という発想から、杉こそ日本の宝であり、日本の杉材が第二次世界戦後に植えられて、現在一番使うのに適した大きさに育っているという、木材資源の宝の山を日本人が有効利用する発想へ日本人が認識を見直して欲しいとのことでした。
また筑波大学と山梨大学に東京おもちゃ美術館を調査研究していただき、次の調査結果が得られたそうです。
1.赤ちゃんが泣かない。
2.パパの滞在時間が長い。
3.ママが携帯をしない。
乳幼児は五感で勝負しているので、木に囲まれ木のおもちゃで遊ぶおもちゃ美術館は木育を体験できる優良な施設だそうです。
森林大国第3位にふさわしいあり方とは?
多田さんは3つの項目を挙げられ木育全体のありかたを教えてくれました。
1.森林と調和したライフスタイルへの転換
北欧のように土日に家族で森に行ったり、ゆったり自然と遊ぶことが生活に定着した生き方を進める。
2.木造・内装木質化の子育て支援環境の構築
自宅や保育園・幼稚園などの内装に木材を使うことでの木質化された環境を作る。赤ちゃんや乳幼児に心地いい環境を。
3.森林大国にふさわしい教育・福祉・医療のあり方
幼稚園・小学校以上の子供の五感を育てる教育として木育の推進を。木の食器や箸で食べることなど。福祉施設のフローリングの下に備長炭を敷しいたら利用者の徘徊率が下がった例があるとのこと。
そのあり方を具体的に進める方法のひとつが「木育」であり、「おもちゃ美術館」なんだそうです。そして、木育の一つの形にしたのが「ウッドスタート(~ウッドエンド)」 という考え方とシステムだです。
「ウッドスタート」構想と活動の現状
ウッドスタートとは人の人生に寄り添った契機ごとに木を利用していこうという考え方で、大まかに次の流れになっています。
1.人が生まれた時に誕生祝いとして木のおもちゃを贈ろう。
2.子どもが小学校に入学するとき地元の木材製の学習机を与えよう(贈ろう)。
3.大人になって家を建てたり改築したりするとき、木材を使おう(内装木質化)。
4・死んだとき棺桶にはいるが、国産材の棺桶に入ろう。
具体的にはこのウッドスタートの考えに賛同を決定した自治体や企業が「ウッドスタート宣言」というのを行います(宣言の内容は上の写真のとおりです)。、多田さんたちといっしょに赤ちゃんに贈るオリジナルのおもちゃのデザインや制作を行ったり、自治体ごと、企業ごとにふさわしい木育の現場作りをしていくのだそうです。このブログの冒頭に紹介したおもちゃはその「ウッドスタート宣言」後誕生した作品群というわけです。
《ウッドスタート宣言した自治体》 小国町ウッドスタートの概要の図をよく見てください。
長の付く人にはかなりイメージアップになりそうです。
新宿区は伊那市におもちゃを作ってもらっているそうです。またカタログがあっていくつかの商品から選べるそうです。
雨竜町の場合養護学校さんでおもちゃを作ってくれて、生徒さんたちの教育や自信にもつながっているそうです。
《ウッドスタート宣言した企業》
タワーマンションの3Fに多世代交流型木育広場が
ララポートショッピングセンターの付加価値を高める木育広場
ダイケンさんは木のおもちゃプレイルームユニットを製品化
その他アウデイなどの企業(写真撮れず)最先端の企業が木育に着目してウッドスタート宣言されているようです。
《その他の東京おもちゃ美術館の活動》
今までに150箇所以上に移動おもちゃ美術館「木育キャラバン」をされて、木育の普及に尽力されています。特に東北の被災地を訪問されているようですいが、特に福島では福島に移動してそのまま設置したままにしてきたそうです。遊び場が限定される福島でチルドレンファーストの行動をなされたようです。
新宿御苑での雑誌「ソトコト」で有名なロハスな活動のアイデアをや実行者の中から、インターネットで一般の人が投票して決める、「ロハスデザイン大賞2014」の発表会会場で、芝生がけずれるから、イベントをさせたがらない環境省の方から、東京おもちゃ美術館とウッドスタートした自治体のブースがウェルカムな感じで設置して発表できたそうです。
最後に、東京以外にこの木育の基地のようなきのおもちゃ美術館が、東京以外に昨年創らっれた例をご紹介します。
(実際の多田さんの講演では最初に出てきましたが、このブログでは順番を替えさせていただきました。)
「やんばるおもちゃ美術館」のこと アイデアと運を引き寄せて
やんばるおもちゃ美術館は沖縄県国頭村(くにがみそん)にもともとあったやんばるの森の施設があったそうです。しかしあまり人気がなく、なんとかしなくてはと思っていたそうです。国頭村には沖縄で唯一の林業組合があり、世界自然遺産である「やんばるの森」と木育の「おもちゃ美術館」との提携してはどうかというところまでは決まったそうです。しかし例の建物を美術館に改装する改装費1000万円が足りなかったそうです。
そこで考えて考えてr、改装費を生み出すアイデアが「一口館長制度」だそうです。一口10,000円で名誉館長になる権利とおまけが贈られるのだそうです。その贈り物とは長方形の厚板に中央に描かれたやんばるのロゴ部分がイトノコでくりぬかれたおもちゃだそうです。一口購入してくれた方にはくりぬかれたヤンバルクイナのロゴの部分が贈られ、やんばるおもちゃ美術館のほうに、ロゴ部分を抜いた外側の板の部分に購入者の名前が書かれたものが美術館の壁に飾られているとのことでした。そして、贈られたヤンバルクイナのロゴ部分を巣にもどすために、やんばるの森の美術館に来てくださいと手紙が添えられていたそうです。そういうシステムで全国に公募して1000万円の改装資金が集まったそうです。
いよいよ改装という時点で、今度は材料にしたいと思っていた祭温(さいおん)松を美術館改築の材料とするために切り出してはいけないという沖縄県のお達しだったそうです。祭温とは今から300年ほど前、沖縄の有能な行政官の名前で沖縄の民の尊敬を集めた人で、祭温松はその人が後世のためにたくさん植えた松だそうです。この松を切ってはいけないと人々が代々守り続けてきたんだそうです。ところが捜してみると、台風で倒れた祭温松が30本ほどが見つかり、その材を使うことの許可がはすぐに出たそうです。
一口館長制度のナイスアイデアと台風によって祭温松が倒れるという運が多田さんたちを味方していたようです。
内装のイメージは石庭ならぬ「木庭」だそうです。
手前がヤンバルクイナの卵をイメージした卵状の木の卵6000個を一人の木工職人さんに作ってもらったそうです。
30人の木工職人さんに沖縄の動物を創ってもらい、また琉球船のレリーフを創ってもらい、琉球版ノアの箱舟の棚ができました。
2013年無事やんばるおもちゃ美術館がオープンできたそうです。今では地元の人以外の人が沢山やって来る目玉スポットになっているようです。
http://www.kunigami-forest-park.org/?page_id=206
やんばるの森公園内には宿泊できるバンガローやツリーハウスや、オートキャンプ場もあるようです。
講演後質疑応答があったのですが、今回割愛させていただきます。
最後に多田さんがこの講演会を行う前に糸島市役所を訪問され、担当者に木育とおもちゃ美術館のことを話されたようですが、予算が無いということで、一回目の話し合いはあまり感触がよくなかったようです。農業組合か林業組合の婦人部の方たちともお話をされたそうですがこちらはウエルカムでいい話し合いができたそうです。やはり、子育てを実質的に行っている女性の方が木育に興味を持っていただけるようです。女性たちに市政や行政を動かしていただく流れを作ってもらう必要があるかもしれません。糸島にも杉がいっぱいありますし、木工をやっている人がいっぱいいらっしゃいます。また一大消費地の福岡市の隣にあって、木育は食育と同じくらい教育的に大事で、また林業・木工業・商業、観光といった産業を興す大きな材料(ビジネスチャンス)になると思います。糸島の林業者の方が多田さんと接触されることを祈ります。
来年1月に第2回「木育サミット」が新宿であるそうです。
東京おもちゃ美術館のパンフです。